第15話:『崩壊する王宮と、美味しいご飯への大寝返り』
王宮の大臣たちが菜園のネギスープで悶絶した事件から、わずか数日。
王宮の崩壊は、私たちの想像を超えるスピードで進んでいた。
風の噂によると、あの我が儘な『光の聖女』は、前線の騎士たちが傷ついて戻ってきても「血生臭いから近寄らないで」と部屋に引きこもり、魔力回復ポーションも完全に底を突いたらしい。
ボロボロになった王宮の騎士たちの間で、ある「とんでもない噂」が爆発的に広まったのは当然の流れだった。
『知っているか? 黒狼騎士団のギルバート騎士団長の私邸には、どんな重症の魔力飢餓も一瞬で完治させる、本物の聖女様がいるらしい』
『ああ、その聖女様の作る和食とやらを食べれば、すっからかんだった魔力が嘘みたいに溢れ出てくるそうだ。しかも、腰が抜けるほど美味いらしいぞ……!』
限界を迎えていた騎士たちにとって、その噂はまさに救いの光だった。
◇ ◇ ◇
「――団長! 本日もまた、王宮の第一騎士団から十名の移籍志願者が門前に集まっております!」
お昼時、ギルバート様のお屋敷のダイニングに、副騎士長さんが息を切らせて飛び込んできた。
「またか。今週だけでこれで何人目だ?」
ギルバート様は少し呆れたように黒髪を掻きながらも、その碧眼には王宮の自滅を見届けるような冷徹な光が宿っている。
「総勢で五十名を超えました! 彼らは口々に『あんな我が儘な聖女の下では命が持たない! ギルバート様のところで、噂の美味い飯を食ってまともな戦いをしたい!』と泣きついてきておりまして……」
「フッ、実戦経験のある優秀な騎士たちが、向こうから勝手に寝返ってくるとはな。王宮の連中も、マドカを無能扱いして捨てた代償がこれだと、ようやく気付いたか」
ギルバート様は優しく微笑むと、隣に座っている私の頭をぽんぽんと過保護に撫でてくれた。
帝国最強の騎士団長様は、私のご飯のおかげで優秀な部下がどんどん増えて大満足のようだ。
「あの、ギルバート様。お外でお腹を空かせている騎士さんたちのために、今日も菜園のネギとお出汁をたくさん使って、大盛りのおにぎりと豚汁を作っておきましたよ!」
私がぱっと魔法収納からほかほかと湯気の立つ特大カゴを取り出すと、ダイニングに醤油と出汁の香ばしく、肉の旨味が凝縮された至高の香りがふわぁ……と広がった。
「おおおお……っっっ!!!」
正門の外で待機していた王宮からの寝返り騎士たちが、その出汁の香りを嗅いだ瞬間、一斉に涙を流して崩れ落ちた。
「これだ……っ! 噂に聞いた、魂が震えるような優しい香りは……っ!」
「我々が一口食べるのを、どうかお許しください……っ!!」
彼らは差し出された鮭おおにぎりを貪るようにかじり、具沢山の豚汁を器ごと一気にお腹に流し込んだ。
モグモグ、ゴクリ。その、次の瞬間――。
ドオォォォォン!!! と、数十人分の澄んだ魔力の奔流が、お屋敷の庭に一斉に吹き荒れた。
「な、なんだこれのは……っ! 体中の傷がみるみる塞がり、魔力が満ち溢れていく……っ!?」
「それに、なんだこの美味さは……っ! 涙が止まらん、こんなに心が温まる美味い飯は生まれて初めてだ……っ!!」
騎士たちは互いの顔を見合わせ、大号泣しながらおにぎりをおかわりし、その場でギルバート様の前に平伏した。
「ギルバート騎士団長! 我らは本日を以て、王国とそして王宮のあの我が儘聖女と決別いたします!」
「一生あなたと、この奇跡の料理を作ってくださるマドカ様に忠誠を誓います!!」
「ああ、歓迎しよう。ただし、我が騎士団の第一の鉄則は『マドカに絶対に迷惑をかけないこと』だ。破れば容赦なく叩き出すからな」
「ははっ!!」
ギルバート様の相変わらずの超過保護なセリフに苦笑しつつも、私は大勢のガタイの良い騎士団員たちから「マドカ聖女様!」「女神様!」と全力で崇め奉られることになり、引きこもりスローライフがどんどん賑やかになっていくことに、若干びっくりしながらも嬉しくてほっこり温かい気持ちに心が満たされるのであった。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
次回は【7月11日(土) 18時】に更新予定です。お楽しみに!
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