第14話:『強欲な大臣たちの自滅と、幸福のネギ焼き』
隠密たちがギルバート邸の地下牢にぶち込まれた、翌日の昼。
王宮の最高会議室では、きらびやかな衣装を纏った大臣たちが、テーブルの上に置かれた『九条ネギ』を囲んで、強欲な笑みを浮かべていた。
彼らは、隠密達がギルバートの目を盗んで手に入れた「少量のネギ」を手にしていたのだ。
「フハハ! これが、あのギルバートの魔力を完全回復させたという奇跡の薬草か!」
「あのおまけの小娘ごときが育てたのだ、大した知識もあるまい。さあ、高名な宮廷料理人に命じて、最高級のスープに仕上げさせるのだ!」
王宮の連中は、これっぽっちも知らなかった。
以前、マドカが屋敷のメイドと一緒に裏庭の端っこで試した実験の結果、日本の野菜たちは、マドカの聖女の魔力とお水が注がれていないと、異世界の土壌の悪い成分を吸い込んで『もの凄く硬くて苦い雑草』になってしまうという致命的な仕様を。
数時間後、銀の器に盛られた「奇跡のネギスープ」が、大臣たちの前に運ばれてきた。
見た目は澄んでいて美味しそうだが、マドカ印の菜園のような、あのホッとする出汁の香りは1ミリもしない。
「おお……! これを飲めば、我々の魔力も超回復するのだな!」
「国王陛下に献上する前に、まずは我々が試食してやろう。ズルズルッ、モグ……」
大臣たちが一斉にスープを口に含み、ネギを噛み締めた――その、次の瞬間だった。
「ぎょえええええええーーーーーーっっっ!?!?!?」
最高会議室に、人間のものとは思えない絶叫が響き渡った。
「に、苦い……っ! なんだこれは、泥と毒虫を同時にすり潰して煮詰めたような、凄まじい苦味だぞ……っ批っ!!」
「か、硬い! ゴムだ、まるで行き倒れた魔物の皮を噛んでいるかのように硬くて、顎が砕ける……っ!!」
大臣たちは涙と鼻水を流しながら、口の中のネギをペッペッと吐き出し、絨毯の上でのたうち回った。宮廷料理人が必死にハーブやスパイスで味を誤魔化そうとしたせいで、逆に苦味が引き立ち、この世の地獄のような味に仕上がっていたのだ。
「おのれ、あの小娘……! 我々に毒を盛ったか!?」
「いいえ、大臣閣下! 地下牢に捕まった隠密から伝令が届きました! あの小娘、捕まる間際に『私の魔力がないと、ただの硬くて苦い雑草になりますよ』と笑っていたそうです……!」
「な、なんだと……っ!?」
大臣たちは顔面を真っ青に死なせ、絶望に震えた。
自分たちが無能と切り捨てた甘利マドカこそが、この奇跡の野菜を育てることのできる『唯一無二の聖女』だったのだと、ようやくここで思い知らされたのだ。
一方、その頃。
ギルバート様のお屋敷では、今日も平和で美味しいお昼ご飯の時間が流れていた。
「マドカ、今日のご飯はなんだ? 毎日お前の飯が楽しみで、午前中の任務を過去最高のスピードで片付けてきたぞ」
「ふふ、お疲れ様ですギルバート様! 今日は菜園のネギをたっぷり使った、本物の『ネギ焼き』ですよ!」
お皿の上で、お出汁の効いた生地と、みずみずしくて甘いネギが醤油の香ばしい香りを漂わせている。
ギルバート様が一口食べた瞬間、その美しい碧眼をトロンと甘く蕩けさせ、「……美味い(じわぁ)」と、大人の色気たっぷりの極上スマイルを浮かべた。
「マドカの作るネギは、どうしてこんなに甘くて美味いのだろうな。お前は本当に、俺に幸福を運んでくれる女神だ」
「もう、ギルバート様は大袈裟なんですから!」
王宮の強欲な連中が苦味でのたうち回っているとも知らず、私は格好よくて超過過保護な騎士団長様からの甘いおねだり(おかわり)に、今日も幸せな悲鳴を上げるのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
次回は【7月10日(金) 18時】に更新予定です。お楽しみに!
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