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第13話:『菜園の深夜の泥棒と、お兄さんの罠』

王宮の強欲な連中が、マドカの『和食素材菜園』を強奪しようと隠密(泥棒)を放った、その日の深夜。


お屋敷の裏庭は、昼間ののどかさが嘘のように、静まり返っていた。

月明かりに照らされた菜園に、黒い装束を纏った数人の男たちが、音もなく忍び寄る。


「おい、これか……? 噂の『奇跡の魔力回復薬草』というのは」


「間違いない、昼間に文官の奴が言っていた。根こそぎ引き抜いて王宮へ持ち帰るぞ。あの無能の小娘にこんな宝は分不相応だ」


隠密たちは不敵にニヤリと笑うと、一斉に、青々と育ったマドカの大切な『九条ネギ』や『みずみずしい大根』に手をかけた――その、瞬間だった。


パチン、と暗闇に軽快な指パッチンの音が響く。


「――我が私邸の菜園にネズミが迷い込んだと聞いて見に来てみれば。王宮は、とうとうコソ泥まで雇うようになったのか」


「っ……!? 誰だ!」


驚いた隠密たちが振り返ると、そこには、月光を浴びて冷酷に微笑む騎士団長ギルバートの姿があった。

昼間の部屋着姿とは違い、漆黒の頑丈な鎧をきっちりと纏い、腰の長剣を抜くことすら一瞥もせず、ただ腕を組んで立っている。


「ギ、ギルバート騎士団長……!? なぜここに、夜警は別の場所のはず――」


「お前たちの浅薄な計画など、バルトの耳に最初からすべて入っている。……さあ、マドカの大切な畑を汚した罪、その身で償ってもらおうか」


ギルバートが碧い瞳を冷たく細めた瞬間、隠密たちの足元から、眩いばかりの『魔力の鎖』が飛び出し、彼らの身体を瞬時にギリギリと縛り上げた。


「がはっ……!? な、なんだこの強固な魔法は……っ!」


「馬鹿な、騎士団長はただの剣士のはず……っ、魔力がこんなに溢れているなんてあり得ない!」


彼らは知らなかったのだ。マドカのお茶と和食で、ギルバートの魔力はすでに全盛期を超えて大爆発していることを。


「ひえー、本当に泥棒が来てるじゃないですか!」


物音に気づいて、ギルバート様の背後ろからパジャマ姿の私がちんまりと顔を出すと、捕まった隠密たちは目を見開いた。


「小娘……! お前、早くその魔法の薬草の秘密を話せ! さもなければ――」


「ああ、それですか? 別に持っていってもいいですよ? でも、それ、私の魔力がないと、ただの『もの凄く苦くて硬い雑草』になっちゃいますけど……」


「な……んだと……?」


事実、彼らが手に握りしめていた九条ネギは、マドカの手を離れた瞬間にシュルシュルと萎び、ただの泥臭くて苦い草へと変貌していた。私の聖女の魔力が乗っていない日本の野菜は、異世界の住人にとってはただの食べづらい植物でしかないのだ。


「フッ、話は終わりだ。バルト、このネズミどもを地下の牢へ放り込んでおけ。明日、王宮へ『不法侵入の証拠』として突き出す」


「御意にございます、旦那様」


影から現れたバルトさんが、冷ややかな笑みを浮かべて隠密たちを引きずっていく。


「マドカ、夜風は体に障る。部屋に戻ろう。……明日からは、お前の畑の周りに俺の特製結界を張っておくからな。誰にも触れさせはしない」


ギルバート様は一瞬でいつもの過保護なお兄さんに戻ると、私の小さな肩を優しく抱き寄せ、自室へとエスコートしてくれた。


泥棒を捕まえてスカッとしつつも、彼の過保護のレベルがまた一つ上がったことを確信し、私は夜の廊下で小さくため息をつくのだった。


ここまでお読みいただきありがとうございます!



次回は【7月9日(木) 18時】に更新予定です。お楽しみに!




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