表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
21/43

第五話 グレトナ・グリーンに連れてって・2

 大学。松也はあの子を探す。

 今年、ゼミで一緒になった、かわいいあの子。同い年で、自分よりちょっと背が低くて、とにかくかわいい。そんな彼のことが松也は一目惚れだった。それまで自分より年上で背の高い男性が気になっていたが、彼と出会ってから松也はもう夢中もいいところだった。積極的に話しかけて、何とか出会い、とにかく友達になれた。割といつも一緒にいてくれて、食事を一緒に摂ってくれて、まだ一緒にお出かけをしたことはないが、長い休みになったらどこかに行こうねなんて話を向こうからしてくれる。あの子もぼくのことが好きなのかな、などと思った一瞬の時期は、彼がこれまた同じゼミの女の子が気になっていることがわかり一気に消え失せたが、しかし、それ自体は慣れている。とにかく——かわいいあの子と、せめて大学生活の間は一緒にいたいと思う。とにかく、松也にとって彼は、かわいいの一言だった。

 この子が自分のものになってくれたらいいのにな、ということは、いつも思っていた。無理やりセックスがしたいとは思わないが、セックスができたらいいのにな、と思っていた。彼と出会うまでは自分が女側だと思っていたが、彼と出会ってから男らしくなろうと思い下着も何となくボクサーブリーフからトランクスに変えたり、元来お洒落というものに無頓着だったのだが服装に金をかけるようになったり……彼と出会ってから毎日が楽しくて楽しくて仕方がなく、学校に行って彼が休んでいたりすると残念がるやら半ばパニックになるやら、そんな一喜一憂することそれ自体が松也は楽しかった。

 とにかく今は夢の中。あの子もゲイ。自分と同じ、同性愛者——そんな現実にはありえないことだが夢の中ならあの子と一緒になれる。そう思うとドキドキしたり、ワクワクしたり、ドギマギしたり、ときめきが止まらない。あの子はどこだろう。自分の夢の中であるぐらいだから、すぐに見つかるだろうと思うと、すぐに見つかった。

「あ」

 と、何だか変な声を上げると、彼は、ん? と振り向いた。

「ああ、松也くん」

 彼は自分のことを“松也くん”と呼ぶ。かわいい。

「おはよう。今日も元気だね」

「そうだね。おかげさまで」

「今日も……」

「?」

 どうなんだろう。夢の中とはいえ、こんなこと言ってしまっていいのだろうか。

 でも、せっかくの夢なんだ、せっかくのチャンスなんだと思い、松也は思い切って言ってみた。

「今日も、かわいいね」

 すると彼は、微かに笑った。

「ありがとう。松也くんもかっこいいよ」

 びっくり仰天してしまった。まさかあの子がぼくのことをかっこいいと褒めてくれるなんて。自分は外見は中の中、不細工とは思っていないが、少なくとも誰もがイケメンだと思う顔ではない。そんな自分を、かわいいかわいいあの子がかっこいいと言ってくれた。夢の中とはいえ非常にリアルで生々しい世界である。明晰夢ということだが、それなら、この子と、お付き合いしたり、あるいは——セックスしたり、できるのかなぁ、などと妄想に夢中になっていたら自分の隣から見知らぬ男が現れた。

「おはよう」

 どうやらゼミの学生であるようだった。自分とは特に親しくないのであろう、特に相貌のイメージがはっきりしない。“自分と同じゼミの男子大学生”というだけの表現がされているのだろうと松也は何となく思った。

 すると彼は、その学生に笑いかける。

「おはよう。今日もかっこいいね」

 ん。と、松也は訝しむ。

「そっちもかわいいよ。すげーかわいい」

「ありがとー。すごい嬉しい」

 なんだこの男は。これはぼくの夢の中だぞ、と思い、松也は若干イライラしたが、負けてたまるかと思い彼に言う。

「本当にかわいい。世界で一番かわいいよ。ぼく、君が世界で一番大切だよ」

 こんなセリフ、現実のあの子に言ったらもう速攻で距離を置かれるだろうと思ったが、しかし、どうしても言いたいことだった。いつも思っていることだったから。

 すると彼は言った。

「みんなそう言ってくれるんだよね。嬉しいなぁ」

「えっ……」

「だって本当にかわいいもんな。マジでかわいいよ」

 すると他の男子学生たちが出現し、みんなで合唱するかのように口々に言った。

「な。かわいいよな」

「マジ好きだよ」

「おれ、お前のことほんと大好きだよー」

「ありがとーみんな。ぼくすごい嬉しいー」

 男子学生はなぜかみんなイケメンである。おそらく、こんな風に簡単に意中の相手に想いを告白できるのはイケメンだけだと自分が思っているからなのではないかと何となく思うと同時に、そうなるとイケメンでも何でもないフツメンの自分がこの子をものにできるチャンスは……ない。

 そう思えてならなかった。

 みんなにチヤホヤされるあの子が苦しかった。君のかわいい笑顔はぼくだけに向けてほしい。あの子をチヤホヤしているみんなが悔しかった。いくら夢の中とはいえ自分はこんなに堂々と振る舞えない……。

 もしあの子がゲイだったら。そしたら……あの子なら、相手は引く手数多だろう。自分なんか相手にしてもらえない……。

「多鍵さん」

「はい。何でしょう」

「夢を、切り替えるみたいなのは」

「あなたのお好きなように」

 というわけで松也は夢の世界を移動する。

「やあ松也くん」

 かわいい瞳。かわいい仕草。かわいい表情。

 この子はゲイで、同性愛者で、自分と同じように男の子が好きで……。

 そして、自分の、恋人。

 そんな夢を過ごしてみたかったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ