城ヶ崎道夫(二)
アリスと初めて会った翌日、僕はワクワクしながら目を覚ました。
今日からすべてが始まる。僕が魔王を倒して世界を救う物語。とりあえず学校にいるアリスに合えば話が進んでいくはずだ。
しかし朝特有の短い時間が進むにつれ、ワクワクはドキドキに変わっていく。
昨日の出来事は全部妄想で、学校に行ってもアリスには会えず一般の生徒に混じって普通の学園生活を送ることになるんじゃないか。
そんな悪い想像が膨らんでいく。
家を出て、学校に着く頃には心臓がバクバクと音を立てていた。
校門に着くと山村先生が僕を待っていた。
「先生、おはようございます」
先生は校門に立っているせいで定期的に挨拶をされているらしく、すぐに僕に気が付かなかった。
「ああ、おはよう…………って城ヶ崎じゃないか!本当に来てくれたのか!!」
先生が大きな声を出したせいで周りの注目が集まる。
その視線はまるで針のようで、僕は縮こまってしまう。
先生もすぐに気がついて、声のトーンを落とす。
「すまん。いきなり大きな声を出して…………いやなに、本当に来てくれて、先生嬉しいよ」
「は、はい…………」
そんな心を込めて言われると、少し胸が痛い。僕は学校に来た訳じゃなくて、アリスに会いに来ただけだから。
「じゃ、じゃあ僕……教室に向かうので…………」
「お、そうか。じゃあ、頑張れよ!」
僕は逃げるように校舎に向かった。
自分の教室が何処にあるのか分からなかった。それもそうだ、僕は入学式の一日しか登校していないし、その日は精神的に参っていてちゃんと覚えていない。
仕方が無くそこら辺にいた一般の生徒に場所を聞いた。教室の場所を聞かれると思っていなかったらしく、聞き返された時僕の顔は真っ赤だったと思う。
そんなこんなで教室に着いた。
扉は開けっぱなしだったので俺はそろりと様子を伺いながら入って行った。
数人の生徒が僕の方を見て、誰だ?あいつ、っていう顔をしている。
それに居心地の悪さを感じつつ自分の席に向かう………が。
自分の席も何処か分からない。
まだ朝の時間は皆ちゃんと席に着いている訳でもなく、空いてる席に座ればいいというものではない。そもそももう二学期も半ばな訳だから最低一回は席替えをしているはずだ。
つまり誰かに聞かないと分からない。でも廊下にいた知らない生徒に聞くのとクラスメイトに聞くのではその後の視線が怖いし…………あとは中学の時と一緒なら教卓のとこに席順表が置いてあるはずだけど、教卓に近づくのは皆の視線を集めそうで嫌だ。
そんな事を考えていたら、何かがプツリと切れる音がした。
何やってるんだろう、僕。
そもそもの目的はアリスさんに会うことだ。普通の生徒に混じって学校で授業を受けることじゃない。
だからこんなとこに居ても、しょうがない。
アリスさんに会いにいかなくちゃ。
「あ、あの。君って……もしかして城ヶ崎くん?」
俺がぼうっと突っ立っていると、ひとりの女子が声をかけてきた。
「あの、私一組のクラス委員をやってる澤口っていうんだけど、城ヶ崎くんが今日から来るからサポートしてあげてって山村先生に言われてーー」
「ねぇ君、金髪でその美しさが女神のような生徒、名前はアリスっていうんだけど、見たことない?」
「え?女神?…………え?」
「もし知っていたら、何年の何組か教えてくれない?」
俺の質問に戸惑っていた女子は、しかし心当たりがあったのか考えるそぶりを見せる。
「そういえば昨日金髪の綺麗な人とかっこいい男の人を連れた上級生が…………そう!城ヶ崎君を探していたわ!」
アリスだ!昨日僕を探して一年の教室にいたのか。
「でも……ごめんなさい。その…………私城ヶ崎くんの事、名前まで知らなくて、分からないって答えるとそのまま何処かへ行ってしまったわ。多分二年か三年だとは思うんだけど、何組なのかはちょっと…………」
彼女は申し訳なさそうな顔をしている。
「そうか、じゃあいいや」
僕が教室を出ようとすると、彼女が後ろから呼び止めてくる。
「え?ちょっと、何処行くの?」
「何処って、決まってるだろ?アリスを探しに行くんだ」
後ろでまだ何かを言っている彼女を無視して、僕は教室を後にした。
アリス。何処で僕を待っているんだ…………




