城ヶ崎道夫(三)
そこからしらみつぶしに教室を練り歩いて、アリスについて聞いて回った。
目立って美しいアリスの事を知っている生徒は多かった。クラスや学年まで把握している生徒は少なかったけど、でも何個か教室を回るとすぐに居場所が分かったのでそちらにむかった。
聞いて回っている最中、アリスを思い出して顔を赤くする皆を見て、僕はなんだか誇らしくなった。
言われた教室に入るなり、僕は自分を抑えきれず声をあげた。
「アリスさん!会いに来たよ!!」
そしてついに、本人を見つけた。彼女は教室の窓側の席で他の女子と一緒にいた。
思わず大きな声を出してしまったせいで、教室の視線を独り占めする。
だけど今は気にならない。僕にはもう、アリスしか見えてない。
一歩一歩を踏みしめる様に歩いて行く。これは夢じゃない。
「ごめん、お待たせ」
アリスの目の前までやってきた。
「アリスさん…………一日ぶりだね」
僕がそう言うと、アリスはすこし落ち着いた反応を見せた。
「えっと…………そうね?」
やっぱり美人だ。今まで見た誰よりも。
「ちょっとアリスさん……誰?」
アリスを見つめていると隣にいた女の子が控えめに言った。
彼女は黒髪のいわゆる、清純派、って感じの美人だった。
名前はなんて言うんだろう。
そう考えているとアリスさんが僕を黒髪の美女に紹介する。
「あ、えっと、み……ち……」
みっち?道夫じゃなくて?
俺は一瞬疑問に思うが、すぐに気が付く。
「…………そんな」
ミッチーって事か!
俺は一気に距離が縮まった感じが嬉しくて少しテンパってしまう。
そっちがその気なら、こっちも距離をつめないと失礼だよな?
「…………そんな、あだ名で呼ぶなんて、早くない?いや、別に嫌だって言ってるわけじゃ無くて!むしろ嬉しいよ。その、人にあだ名で呼ばれるのが初めてで…………うん、ミッチーって呼んでいいよ。ア…………アリス…………」
僕とアリスが二人の世界を作り始めようとすると、躊躇いがちに黒髪の美女が聞いてくる。
「えっと、みっちーくんって言うの?」
僕が答えようとすると、横から声が掛かった。
「桜子!この人は道夫くんっていうんだ」
その男はそれといった特徴の無い、行ってしまえば生徒Aみたいな奴だった。
こいつは…………誰だ?
「あれ、あなたは…………」
「えっと、昨日お家にお邪魔した平塚だけど、覚えてない?」
「あ、はい。いや、そうですね」
昨日、こんな人居たか?まったく覚えていない。たしか四人来た気はする。
えっと、アリスと………それからそこに座ってる茶髪のギャルっぽい子と、あと…………
「あ、そちらの人も昨日来た……」
「うん。二条だよ」
そうだ、俳優みたいな彼だ。彼も昨日いた。あと一人は黒髪ってのは覚えているけど、どんな人だったっけ。男か女かも覚えてない。
もしかしてここにいる黒髪美女がその一人か。うん、そう考えると合点がいく。いやぁ、忘れちゃうなんて申し訳ないな。確かに昨日はアリスに完璧に目を奪われてた。反省反省。
「そうだ!道夫くんね!」
俺が考えているとアリスが突然俺の名前を呼ぶ。
「えっと、ミッチーでいいよ?」
「分かったわ!ミッチー」
笑顔のアリスが意味も無く名前を呼んでくる。ふふ、そんなにあだ名で呼べるのが嬉しいのか。
これはお返しに僕も名前を呼んであげなくちゃ…………
と思ったらまた、あのモブっぽい男が邪魔をしてきた。
「えっと、それで道夫くんは何しに来たのかな?」
なんだこいつ、ぐいぐいくるな。
「…………あの、これは僕とアリスの問題なので…………部外者にはちょっと」
うん、どう考えても君が入ってくるのは場違いだと思う。アリスとか、二条とか、黒髪の美女とかは明らかに主要な登場人物だけど、君はどう見ても違うだろ。
だというのにその男は厚顔無恥にもまだ話しかけてくる。
「……あの、俺とアリスさんは仲のいい友達なんだ。ここにいる、二条とか、桜子とかもね。だから、アリスさんに言いたい事は俺たちにも言ってもらって構わない」
あの黒髪の美女は桜子ちゃんっていうのか、いい名前だ。
しかしこの男、本当にしつこいな。
「えっと…………そちらにいる二条さんとか…………桜子さん?は昨日来てなかったですね、初めまして…………その二人がアリスと友達ってのは分かるんですが、あなたは…………」
さすがに笑っちゃうよ。自分の立場をわきまえて欲しい。彼に邪魔をされていると物語が進まない気がする。
ちょっと場所を移すか。皆に付いて来てもらおう。えっと昨日来てくれた四人…………のうち、あの茶髪のギャルっぽい子は別にいいか。
遊んでる感じがして、ちょっと僕にふさわしくない。
「えっと、ごめんなさい。その、アリスと話があるから僕はこれで…………アリス、付いて来てくれる?…………あの、二条さんと桜子さんも一緒に来てくれますか?」
「分かったわ」
「うん、付いていこう」
「え?私も?なんで」
皆あのモブが邪魔だって思っていたらしく、素直に付いて来てくれる。
桜子ちゃんはすこし戸惑っているようだが、多分モブにすら優しい子なんだな。いい子じゃないか。
そうして、僕たちは教室を後にした。




