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第61話 家庭訪問

「拓也くん、少し落ち着いたら?」


「落ち着けるわけ無いじゃん」


 俺は道夫くんのお母さんが出してくれたポテチを口に運びながら答える。


 道夫くんがアリスさんになら不登校の理由を言う、といったので、現在二人は道夫くんの部屋にいる。


 それ以外の面々はリビングで待っているわけだが…………


「心配しなくても、アリスさんは取られたりしないよ」


 二条がニヤニヤとしながら言ってくる。


「あ?何言ってんだよ。俺は道夫くんが心配なんだよ」


 主に道夫くんの命が。


 タクヤ、(タマ)取ってきたわよ!とか言いながら戻ってくる可能性をゼロに出来ないところが怖い。


 俺の心配をよそに、周りには和やかな空気が流れている。


「…………頑なに理由を教えてくれなかった道夫が、自分からあんな事を言い出すとは思ってもなかったです…………山村先生、ありがとうございます」


「いや、私は何もやっていませんよ。しかし、これで一歩前進ですね」


 にこやかに会話をする道夫くんのお母さんとそれに応える山村先生。


 自分の息子が今生最大のピンチを迎えているなんて思ってもいないだろう。


 俺は必死に止めたんだけど、その甲斐むなしくアリスさんと道夫くんはふたりっきりで話をしている。


 二人はアリスさんの端正なルックスに騙されているようだけど、冷静に考えてほしい。急に窓ガラス割るよう狂人だぞ?そんな人と一緒にしちゃまずいって。


「しかし、結構遅いですね」


 ほのかが壁に掛かっている時計をみて呟く。俺も時計を見ると、もう10分以上経っていることに気が付いた。


「話し込んでいたら十分ぐらいすぐだろう」


 アリスさんを知らない山村先生は簡単に言って、お母さんと話し始めた。


 彼女は即断即決がモットーだ。十分も話をする所なんて想像出来ない。


 まじで…………大丈夫かな…………


 そわそわと落ち着きのない俺の様子を見ていた二条が苦笑する。


「君はアリスくんが好きなんだろう?それにしては辛辣だね」


「好きだからこそ心配なんだよ」


 この世界の事をまだちゃんと理解していないアリスさん。俺がちゃんと責任持って助けてあげないと。


「…………異世界の事はあっちの人たちがが勝手に言っている事だ。君が気にする道理はないよ」


 二条は少し真面目な顔をしてこちらを見ている。


 でも、


「気にしないなんて無理だよ。俺はアリスさんの力になりたい」


「…………そうか」


 それ以上二条は何も言ってこなかった。




 それからもう10分が経過して、二人は戻って来た。


「アリスさん!」


 最初、アリスさんだけが戻って来たから思わず大きな声を出してしまった。


 けど、遅れて道夫くんも戻ってきた。よかった。何事もなかったみたいだ。


 ただ、無事なら無事で二十分も何をしてたんだろう。


「道夫、話は終わったの?」


 道夫くんのお母さんが優しく聞く。


 聞かれた道夫くんは躊躇いがちに、しかしはっきりと答えた。


「うん…………僕、明日から学校行くよ」


「「「え!?」」」


 俺とお母さん、それから山村先生の声が重なる。


 そしてすぐにお母さんと先生は喜んだ。


「ほ、本当?」


「うん」


「そ、そうか!それは良かった良かった!」


 もうお祭りでも始めそうなぐらい喜んでる。


 それを見て道夫くんは恥ずかしくなったらしく、


「じゃあ、そういうことだから!」


 そういって、部屋へと戻っていった。


 …………何があったんだ?


 俺はアリスさんを見る。彼女はすました顔でこちらを見ている。


「アリスさん……何したの?」


「話をしたら、来てくれるって」


「話ってーー」


「ありがとうございます!」


 俺の疑問は邪魔される。


 お母さんが涙ぐんだ顔でアリスさんの手を取る。


「本当に…………ありがとう…………」


 その顔されたら、今この場でアリスさんを問い詰めることは出来ない。


 とりあえず今はおとなしくしておこう。




 その場はそれで、お開きになった。


 帰り道の山村先生は上機嫌だった。


「まさか道夫君が学校に来てくれると言ってくれるなんて…………本当生徒会長様々だな」


「生徒会長?……ああ、そうですね」


 俺たちは早川先輩に言われて来たって事にしといたんだった。


「君達も、来てくれてありがとう」


 話を聞けば、山村先生は道夫君に直接会ったのも今日が初めてだったらしい。今まではドアの前で会話をするのが限界だったとの事だ。


 てか、やっぱり先生は何度か訪れているんだな。


「あんまり知らなかったけどいい先生ですね、山村先生は」


 俺がポロッというと、先生は焦ったような顔をする。


「え!?いや、そんな事ない……」


「いや、誰にでも出来る事じゃないと思いますよ?先生なんて忙しいだろうに、いち生徒のために何度も足を運ぶなんて」


「えっと…………まあ、そうだ……道夫君の為だ…………」


 何故か歯切れの悪い先生。照れてんのかな?


「先生。私達はこの辺で失礼させて頂きます」


 ほのかが十字路で口を開いた。よく見ると近くに二条の車が止まっていた。


「あ、俺とアリスさんもこっちですね」


 俺は車が止まっている反対の道を指さす。


「おお、そうか。先生は学校に戻るから、じゃあこの辺で。気を付けて帰るんだぞ」


 そういって、先生は道を真っ直ぐ行ってしまった。


「…………さて、大丈夫かい?」


 先生がいなくなって、二条が聞いてきた。


「ああ、大丈夫だ。とりあえず」


 俺はアリスさんを横目に見ながらそう返す。


「うん、そうか。じゃあ、僕たちは行くよ。また明日ね」


 二条が手を振って、車に乗り込む。ほのかがぺこりと頭を下げて、後に続く。


 これで、アリスさんと二人きりだ。


「さて、家に帰りますか」


「そうね」


 俺たちは自宅の方へ歩き出す。


 うん。アリスさんが何をしたのか分からないけど、とりあえず道夫君は学校に行くことになった訳だ。それはとてもいいことだと思う。


 でも、ここから力を奪うには、どうすればいいんだろうか。結局流れで道夫くんに会いに来たけど、特に何も出来なかったな。


 俺が頭を悩ませていると、アリスさんが朗らかに言う。


「ねぇタクヤ。道夫が神の力をくれるって言っていたわ!」


 え?


 俺はアリスさんを見る。彼女は褒めて褒めてと言わんばかりの笑顔だ。




 …………え?




 


 


 



 

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