第60話 急に窓とか割っちゃダメ。
アリスさんの凶行を唖然とみていた一同は、俺の土下座と共に動き出した。
とりあえず城ヶ崎家にお邪魔した俺たちはリビングに通された。
「うちの生徒が!誠に!申し訳ない!!」
「いえいえ、道夫の事を考えてやってくれた事でしょうし……」
案内されたソファーで全力で頭を下げる山村先生。
城ヶ崎のお母さんは困った様子だ。多分彼女は何が起きたのかまだちゃんと理解出来ていない。
それもそうだ。女子高生が音も立てずに屋根の上に登り、素手で二階の部屋の窓ガラスを割ったのだ。
意味が分からなすぎて怒る怒らないとか以前の問題だよね。
それはお母さんの隣に座る道夫くんも同じはずだ。
普段は部屋から出てこないらしいが、流石に窓を割られたので何事かと思って降りてきたらしい。
道夫くんの顔は心なしかオドオドとして挙動不審だ。時折アリスさんの顔を見てはすぐに逸らす。
まぁ彼から見れば自分の担任の山村先生は知っているにしても、それ以外は顔も見た事も無い生徒だ。恐怖でしかないだろう。
本当に申し訳ないわ。
ひとしきり謝ったあと、居心地の悪い沈黙が訪れる。
よく知らないもの同士が牽制し合う中、いい意味でも悪い意味でも空気の読めない二条が口を開いた。
「さて、中々に気まずい状況であるけども、道夫くんがいる事だし改めて自己紹介をしようか」
そういって二条は道夫くんに目を向ける。
「え、えっと…………」
「じゃあ僕からいかさせてもらうよ。僕はこないだ転校してきた二年生の二条統っていうんだ」
「二年……生?転校してきた………?」
道夫くんは頭にハテナを浮かべている。
…………ああそうか。
道夫くんは入学初日しか登校していないから同級生の顔すら知らないのか。
普通家まで訪ねてくるんだったら同じクラスの子かなって思うよね。
「私は佐藤ほのかと申します。今日転校してきた二年生で、二条様のメイドをさせて頂いています」
「え?メイド?てか…………転校生?二年?」
二年、転校生。その上にメイド。うん、情報過多だよね。道夫くん固まってるもん。
「私はアリスよ」
「ア、アリスさんですか……よろしくおねがいします…………」
その点アリスさんの挨拶は簡潔でいいな。道夫くんも挨拶する余裕が出来た。
しかし、面白がっていらない情報を入れる男がいた。
「ちなみにアリスくんも二年生で転校生だよ」
「え!?いや………え?」
「おい」
なんでこいつはこんなに話をややこしくしたがるんだ。皆転校生が三人もいたらそっちの方が気になってくるだろ。
ほら見てみろ。道夫くんのお母さんも、山村先生まで、え?どういう事?って顔してんじゃん。
そしてそうなるとおれに視線が集まる。
「えっと、俺は平塚拓也です。…………俺はニ年生だけど転校生ではないです」
おれがそう言うと三人は安堵した顔をする。普通の生徒がいてくれて良かったって感じだろうか。
よくよく考えてみたら俺以外の三人の顔面偏差値は普通じゃない。まだほのかは学校に一人二人居るぐらいの美人だからギリ許せるとして、アリスさんと二条は絶世のって枕詞がつくタイプの奴らだ。
…………悪いけど、普通に考えて道夫くんと付き合うタイプではないと思う。
道夫くんは良くも悪くも普通の男の子だ。ぱっとしない感が否めない。
二条やアリスさんとは釣り合わない気がする。俺みたいなのが一番友達っぽい。
…………逆を返せば俺も彼らと釣り合ってないんだけど。
道夫くんのお母さんもひとまず彼らの事は後回しにしたらしく、俺に話しかけてきた。
「平塚くん、今日はどうして道夫を訪ねてくれたの?」
ただその質問は答えにくい。道夫くんの神の力を奪いに来ましたなんて訳分からん事言ったら、凄く温厚そうなお母さんですら、顔面にグーパンしてくるかもしれない。
「えっと、あれです。あれ。生徒会長の早川先輩に頼まれて来たんです」
「まぁ…………」
…………早川先輩の名前を出すのは後が怖いけど、他に思いつかなかったんだからしょうがないだろ。
生徒会長の名前を出せば、関係の薄い不登校の生徒の家に来ても不自然じゃないはず。すごいいい生徒会長なんだなって思うだけだろう。
実際俺の口から出任せにお母さんは感激した様子で、口に手を当てている。
「そうだったのか…………」
お母さん以上に納得しているのは山村先生だ。やっぱうちの学校では早川先輩の言う事は何よりも優先されるからな。
「さて、じゃあ道夫くん。そんなわけで君の名前はもう知っているが改めて自己紹介をしてくれないかな」
「あ、はい……城ヶ崎道夫っていいます。一年です」
「うん、よろしくね」
二条が笑顔でまとめる。流されるままの道夫くん。こういう時はちゃんと空気読んでくれるから、二条はやめられないぜ。
と、ここからどうしようか。お母さんや山村先生が居る限り、神の力の話は出来ないし。
一応登校させる為に来たという設定だから、それっぽいことをしないと。でも何をすればいいんだろう。
こういうセンシティブな問題は、責任も無しに簡単に首を突っ込んでいい話じゃないしな…………
「道夫くん。あなたはなんで学校に来ないんですか?」
俺がそう考えてたら、ほのかがダイレクトアタックを敢行した。
「おい!もっと…………あるだろ!」
俺はほのかに顔を近づけて苦情を言う。ほらみろ、道夫くん下向いちゃったじゃないか。
「仕方ないじゃないですか。早く終わらせて二条様のお世話をしたいんですから。私王子様みたいな人のメイドになるのが夢だったんです」
圧倒的私利私欲…………!
「そうね、教えて」
なぜかアリスさんまでがそんな事を言い出した。ちょっと待て、アリスさんは不登校とかちゃんと理解してないだろ。
「アリスさん?ちゃんと分かって言ってます?」
「分かってるわ。学校に来れば力を奪いやすいでしょ?」
ああ、アリスさんは何処までも真っ直ぐだ。そして何にも分かっていない。
さすがにこれは道夫くんに悪い。だから話を一回切り上げよう。
「えっと!食べるものとかありませんか?めっちゃ腹減ってるんですよ!」
そうお母さんに言う。あれ、咄嗟に言ったけど、俺滅茶苦茶失礼な奴って思われない?
「え?え、ええ。ありますけど…………そうね。とりあえずおやつにしましょうか……」
ただお母さんは俺の気持ちを理解してくれた。最初は面食らっていたが、すぐに俺が道夫くんを気遣って言ったと分かり話を合わせてくれた。
よしよし、これで良し…………と思ったら、道夫くんがこっちを見てる。
え、何?
「あの…………アリスさんにだけなら、言います。僕が学校に行けない理由」
…………なんで?




