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第59話 不登校児

 放課後、俺たちは山村先生の引率で城ヶ崎の自宅に向かっていた。


「君達は、一体何なんだ?」


 山村先生は年相応に薄くなった頭を撫でながら、探るような目を向けてくる。


「えーと…………ごく一般の生徒ですよ」


「いや、あの校長の様子はーー」


「山村先生、城ヶ崎くんの家まであとどれくらいですか」


「え?ああ、もうすぐだが」


 納得しきれていない山村先生だが、説明出来ないのでここは強引に押し切る。

 

 すると俺の後ろを歩いていたほのかにちょいちょいと服を引っ張られる。


「ちょっとお客様?私にも説明して頂けますか?」


 彼女は二条が行くならと付いて来た。


 勿論他にアリスさんもいる。桜子は早川先輩にさらわれて行ったので今日はいない。早川先輩が桜子に危害を加える事は絶対ないと思うので、見捨てた。


 桜子、強く生きろ。


「ちょっとお客様、聞いてます?なんでその、城ヶ崎くんとやらの家に行くんですか?」


「聞くところによると、城ヶ崎くんは不登校らしいんだ。それはやっぱり先輩として何かしてあげたいだろ?」


「…………お客様ってそんな事言い出す人でしたっけ?」


 訝しげな目で俺を見てくるほのか。うん、俺ってそんな事言い出す人じゃないです。嘘でーす。


 まぁでも、理由としては間違っていないのでほのかもそれ以上は言及してこなかった。多分全く信じていないけどな。


「…………なんで彼女は彼の事をお客様と呼んでいるんだ?同級生だろう?」


 俺とほのかの会話を聞いていた山村先生が当然の疑問を抱いている。


「そういうゲームですよ」


「それは……あまり健全じゃない気がするが……やっぱり君達は少しおかしい。本当に何者なんだ…………あ、ここが城ヶ崎の家だ」


 山村先生の疑念がMAXに達した所で、城ヶ崎の家に着いた。




 その家は、何というか、普通だった。


 横の家と同じ形をした建売住宅で、多分築年数相応の見た目なんだろう、綺麗な訳ではないが汚いわけでもない。家の周りも完璧ではないが、必要十分な手入れがされていて、何の問題もない。


「ここが、城ヶ崎くんの家か……」


 俺は何というか、拍子抜けしていた。だって、最近みた家が早川先輩とか二条の住んでいる桁違いの大豪邸だったせいで、なんか知らないけど期待してしまっていた俺がいる。


 いや、これで普通だしむしろ助かるんだけど…………なんか物足りなく感じてしまう。


「さて…………どうしようか」


 二条が顎を触って考える。確かに、この後どうするかちゃんと考えてなかったわ。何してんだ、俺。


 自分の無計画さに呆れていると、山村先生が一歩前に出た。


「とりあえず私が挨拶をするから、君達はここで待っていてくれ」


 そういって、インターホンを押す。


 そうか、山村先生は俺たちが城ヶ崎を学校に行けるようにするために来たと思っているのか。…………すげぇ罪悪感。


 インターホンから女性の声が聞こえたと思ったら、玄関が開いてその女性が出てくる。


 見た目は四十歳くらいの女性。多分城ヶ崎くんのお母さんかな?先生は既に何回か訪れているらしく。慣れた感じで挨拶をする。


「城ヶ崎さん、こんにちは」


「山村先生…………道夫のために毎度毎度、ご足労頂いてありがとうございます…………本当にご迷惑おかけして…………」


「いえいえ、私がしたくてしている事ですから!」


 玄関先で深く頭を下げるお母さんを慌てて止める山村先生。


 …………この様子だと、山村先生結構な頻度で来ているみたい。見た目は凄く頼りないおじさんだけどいいとこあんじゃん。


 そう考えていたら、彼女の視線がこちらに向いた。


「えっと、そちらの生徒さん達は…………」


「ああ、彼らは二年生の…………そういえば君達の名前を聞いていなかったな」


 山村先生が俺たちを紹介しようとするが校長に言われて何の説明もなく俺たちをここまで連れてきたせいで、自己紹介すらしていなかった事に気が付く。


「えっと、俺は平塚っていいます。で、こいつが二条でこっちがアリスさん」


「佐藤と申します」


 挨拶をする俺達。だが名前を聞いてもお母さんは俺たちが来た理由が分からず困惑している。


「彼らは道夫くんを心配して来てくれたそうだ」


「まぁ!そんな……わざわざありがとうございます」

  

「いえいえ、そんな、頭なんて下げないでください!」


 またしても深々と頭を下げるお母さん。別に心配して来た訳じゃない身からすると、本当に心が痛くなるからやめて欲しい。


「ありがとうございます……では立ち話もなんなので、とりあえず上がってください」


「はい……じゃあ君たち行こうか…………あれ、一人いなくないか?」


 山村先生が俺たちの方を見てそんなことを言った。


 一人足りない?何言ってるんだ?


 俺は数を数える。俺、二条、ほのか……………あれ、アリスさんは?


 俺がアリスさんがいないことに気がついたのと同時、お母さんの悲鳴が聞こえた。


「きゃあああ!」


「な、何だ?」


 彼女は何かを見て悲鳴を上げている。視線を追って城ヶ崎家の二階部分に目を向ける俺たち。


 そこにいたのは、アリスさんだった。


「…………彼女は、何をやっているんですか?」


「えっと、うん。わかんない」


 屋根に乗って、二階の窓の中を見ているアリスさん。マジで何してんの?てかどうやってそこまで登ったの?


「あ、道夫……」


 お母さんが声を上げる。アリスさんの目の前の窓から、男の子が顔を出す。あれが道夫くんか。


 道夫くんは窓の外に美女がいるという異常な状況に、ただただ困惑していた。


 そして次の瞬間。


 パリンッ!という音とともに道夫くんの部屋の窓が割れた。


 いや、正確にはアリスさんが割った。


「あなたが城ヶ崎道夫ね?」


「え……そ、そうですけど…………」


 恐怖の入り交じった表情で何とか答える道夫くん。


 そんな彼を尻目に、


「タクヤ、見つけたわ!!」


 とびっきりの笑顔で俺に報告するアリスさんだった。


 アリスさんが俺の名前を呼んだため、皆の視線が俺に集まる。

 

「…………いや、なんかすいません」


 俺は土下座をする以外の選択肢を持ち合わせていなかった。




 ちなみに頭を下げる前に一瞬だけ、二条の笑いをこらえる顔が見えた。そして俺が頭を地面につけた時に、誰かがたまらず吹き出した。


 …………二条、イツカ、コロス

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