第62話 もらえるものはもらっておきたい。
家への帰り道、二条達や山村先生と別れてすぐ、アリスさんが言ってきた。
「ねぇタクヤ。道夫が神の力をくれるって言っていたわ!」
…………何言ってるんですかこの美女は。
「えっと、え?道夫くんが神の力をくれるって言ったんですか?」
「ええ、そうよ」
だめだ、話が見えてこない。
「えっと、道夫くんは自分の神の力を認識してるって事ですか?」
確か土の神の力だったな。
「うん。力を持ってるって言ってたわ」
まじか。自覚してんのか。そうなったら話がややこしくならないか。
だって凄い力を持っていたら、手放したくないのが普通だろう。
「…………うん?でもくれるって言ったんですよね」
「うん」
「そ、そうですか…………」
いや、うん。それならいいんだけど、ちょっと話がうまくいきすぎじゃない?
「そもそもアリスさんは道夫くんに何を聞いたんですか?」
どういう話の流れでそんな話になったんだ。神の力の話なんて急にして信じてもらえる話じゃないし。
「トルクスピカを救うためにあなたの力が必要なの、だからあなたの力をくれない?って伝えたわ」
「なるほど。そしたらくれるって言ったんですね……………」
ちょっと待て。
それだと…………勘違いしてないか?
「一語一句違わずそういったんですか?」
あなたの力が必要なのって言った後に、あなたの力をくれないって言ったってことか?
それだと、力をくれない?って言葉を手を貸してくれって解釈しないかな。
「えっと、そうよ」
そうなのか。でもそこから神の力に繋がるには…………
「てことはトルクスピカに関する説明とか、アリスさんが異世界から来たことも説明したんですよね?」
「そうよ」
それを道夫君は受け入れたのか。
…………でもそうか。多少現実離れしててもアリスさんみたいな美女にあなたの力が必要なのって言われた後ならほいほい信じちゃうと思う。普通の高校生ならみんな異世界とかに耐性があるだろうし、俺はそうだった。
いや、信じてなくても関係ないか。アリスさんほどの女性なら不思議ちゃんでもメンヘラでも何でも許せる。…………よな?俺だけか?
ってなると間違いない。
今、道夫君は自分が異世界を救う存在だと勘違いしているということになる。
…………これはまずい。めちゃくちゃまずい。
騙した訳じゃないのに騙したみたいになってる。
多分道夫くんはアリスさんに惚れてしまったんだろう。だってアリスさんにお願いされたら惚れる以外の選択肢なんて存在しないからな。
思えば道夫くんのアリスさんに対する態度もおかしかった気がする。アリスさんと話すときだけ返事をしたり、目を逸らしたり…………あれは好きな女の子に接する態度だ。
そしてそのおかげで学校に来る気になったんだ。すごく気持ちは分かる。
上手くいってない時って、一発逆転の何かが起きないかって思っちゃうよな。それが彼にとっては、窓ガラスを割って入ってきたアリスさんだったということだ。
これ、もし本当は君の力を奪いたいだけだなんて伝えたらどうなってしまうのだろうか。
さっき二条には大丈夫って言ったけど、全然大丈夫じゃなかった。
「タクヤ、どうしたの?」
悩む俺の顔を覗き込んでくるアリスさん。
「…………一応確認ですけど、俺は本当にトルクスピカを救う英雄なんですかね?」
俺も騙されてるんじゃないかって不安になってきた。
出会う人皆にそんな事言ってんじゃないの?
「そうよ?タクヤが必要なのよ?」
だがアリスさんは俺の心配をよそに、輝くような笑みを浮かべて言う。
…………あれだな。本当にこの人は天然人たらしだな。
この人のためなら、騙されていてもいいやって気持ちになる。
はぁ、何とかしなきゃな。
道夫君を傷つけずに、神の力だけ奪う方法。
思いつかないけど…………何とかなるでしょ。




