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女は俺の敵にはならない(二)

「なんで避けるんだよ!」


 激怒する五十嵐。


 その様子を二条は冷静に観察する。


 二条がアリスに見ないようにと伝えると、攻撃をやめた五十嵐。


 そして先程操られたのはアリスだけ、咲は操る事が出来ず、名前を聞いていた。


「……君は女性だけ、しかも相手の名前を知らないと操れないのかな?」


「なっ!そ、そんな事ねぇよ!すべての女が俺の言う事を聞く!俺はこの世で最高最強の男だからな!」


 目に見えて焦りだす五十嵐。


 これはビンゴだな、と二条は思う。


 そして五十嵐は圧倒的に戦い慣れていない。自分の持つ神の力を自覚はしているが、他の眷属と戦った事はあまりないのだろう。


 先程も、手に光を集める事でアリスを操ろうとしたのだろう。しかし彼はその光を直接こちらに放つ攻撃も持っているはずだ。


「五十嵐くん、操れないならその攻撃をこちらに飛ばせばよかったんじゃ無いかな?」


「!」


 五十嵐が盲点だったという表情で、驚く。


「それともこちらに飛ばす光と、操る光は別のものなのだろうか?」


「そんな事はねぇ!これはあくまで俺に注目を集める為に使ってるだけで…………あっ!」


 五十嵐がしまったという顔をする。


「…………なんて分かりやすい奴なの」


 咲が呆れたように言う。


 二条はこれまでいろいろと警戒して考えていたのが馬鹿らしくなってきた。


「つまり君が女性を操れるのは手に集めた光とは無関係で、自分に相手の注目を集めればいいという事だね」


 自分の力の秘密を暴かれた五十嵐は、頭を掻きむしって喚き散らす。


「うるせぇうるせぇうるせぇ!!糞がぁぁぁぁぁぁ!」


 そういって両手に光を集めて何発もこちらに放ってくる五十嵐。結局二条の助言に従った形だ。


 放たれた光の弾丸は、十を越える。


 威力は未知数。当たればどうなるのか分かったものじゃない。


 もしこの場に拓也がいれば、残機がいくらあっても足りなかっただろう。


 しかしこの場にいるのは、


 長い年月神の力を持つ超越者たちと戦い生き延びてきた男。


 武神の寵愛を受け人間の限界を超える運動神経を持つ少女。


 死と隣合わせの異世界からやってきた妙齢の女性。


 素人の放った攻撃など彼の手の動き、方向を見るだけで軽々と避けていく。


 さらに言えば、光の弾丸と言っても、光の速さで飛んでくるわけではない。


 避けられてしまった光の弾丸達は、床や天井などあちこちに当たって室内を傷つけていく。どうやら壁に当たる分には、ケラウノスに当たったときのように強く光を放って目くらましになる事はないらしい。


 こうなると、正直負ける要素が何も無い。


「鍛錬を重ねて使いこなせば、あるいは光の速さで飛ばせるんだろうね」


「これじゃあ、ダーツの矢より遅いの」


「そうね、余裕だわ」


 三人とも、会話をする余裕すらある。


「おらぁ!おらぁ!……って、なんで当たんねぇんだよ!!」


 息を切らしながら両手を交互に突き出す五十嵐。


 これじゃあ埒が明かないと思ったのか、


「クソがよぉぉ!」


 そういって光の弾丸を撃つ事をやめ、今度は自分の手に光を纏わせ、剣の様にして突っ込んで行く。


 その判断に、二条達は呆れてしまう。


 遠距離よりも、近距離の方が当人の能力に左右される。


「まだ、遠くからちゅんちゅん撃っている方が勝率はあったの」


 咲は手に持っていたケラウノスを振り、程度を確かめる。


 普段は竹刀を振っている咲。槍を触るのは今日が初めてだが、なぜか昔から扱っていたかのようにしっくりくる。


「……これが武神の力なの?」


 とりあえず前から突っ込んでくるバカを練習台にしようと思う咲。


「私にやらせて」


「大丈夫なの?」


 心配するアリスに頷いて答える咲。


「おらぁぁぁぁ!」


 大きな声を上げながら突っ込んでくる五十嵐。


「そんなへっぴり腰じゃあ、たっくんぐらいにしか通用しないの」


 実際の所、五十嵐は一般的なチンピラと同じぐらいの強さなので、全然そんな事は無い。運動部に所属する高校生といい勝負が出来るぐらいの実力はある。


 とはいえ、咲達との実力差は大きかった。


「ふん!」


 光の剣を振り下ろす五十嵐。咲はそれを前に詰める事で避ける。


「な……!」


 二人に身長差があるので五十嵐は咄嗟に対応出来ない。


 五十嵐の懐に入り込んだ咲は冷静に、ケラウノスを横にした状態で突き上げる。


「ごがっ!!」


 五十嵐はケラウノスの柄で顎を思い切りアッパーされた形になり、少しだけ体が浮く。


 その一撃で、勝負は付いた。


 ドサッっと地面に倒れる五十嵐。白目をむいている。


「これじゃあ、腕試しにもならなかったの」


 捨て台詞を吐いて五十嵐から離れる咲。


 一連の動きをすぐに助けに入れる距離で見ていたアリスが、


「弱いのね」


 容赦の無い言葉をかける。


 その様子に苦笑いをしながら二条は二人に話しかける。


「うん。咲くん、お疲れ。とりあえずこれで一段落ついたようだね。…………それでこの男の子はどうする?」


 と、五十嵐を指さす。


「そうね、とどめを刺しましょう」


 当然の様にそう言い放って、大剣を高く掲げて即席のギロチンにするアリス。


 二条は慌てて止める。


「ちょっと待ってくれアリスくん。拓也くんから説明があったと思うのだけれど、この世界では、というよりこの国ではそんな簡単に人を殺してはいけないんだ。だからとりあえず殺すというのは無しの方向で考えてくれるとありがたいよ」


「……今はたっくんと合流するのが先」


 咲もアリスを止める。


 ……正確には、既に五十嵐に対しては興味を失っていて、拓也の事を考えているだけなのだが。


 アリスさんは悩んだが、結局二人の意見に従って大剣を下ろした。


「そうね……分かったたわ。でも、ちゃんと拘束しておくわ」


 そういうと窓際に向かって行き、カーテンを引きちぎって五十嵐を拘束し始めた。


 数枚のカーテンを犠牲にして、五十嵐を簀巻きにして満足するアリス。


「さて、これで大丈夫だわ。……じゃあ、たっくんと合流しましょう」


 そういって二人の方へ振り返る。しかし二条は困った顔をする。


「しかし、そうは言っても拓也くん達が何処へいったのか分からないよ」


「……大丈夫。たっくんの気配なら、どれだけ離れていても分かる」


 そういって咲が何もない壁を指さした。


「こっちの方角にたっくんがいる」


 それを見て関心する二条。


「ふむ、咲くんは凄いね。自覚が無かったというのにここまで神の力を使いこなしているなんて、僕の長い経験の中でもあまり例がないね」


 武神の力の気配を掴む能力は、大抵の場合、自分の周囲数十メートルの気配が分かるだけだ。それも障害物が多いと精度も下がる。


 しかし咲は、


「間違いなくこっち」


 一点の曇りも無い眼で言う。


「……これは、もしかしたら武神の力は関係ないのかもしれないね」


 咲はあまり態度に示さないが、もしかしたら強烈なブラコンなのかもしれないと、心の中で考える二条だった。



 

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