第41話 突然の事で、何が何だか
「平塚拓也、貴方死ぬべきだわ」
狂気に満ちた怒りの表情で立っている早川先輩がいた。
「えっと、早川先輩?な……何を?」
「何を、ですって?なんて愚かな男かしら…………」
早川先輩は、ゴミを見るかのような冷え切った目で俺を見る。
「貴方の存在は前々から目障りだったの。まぁそれでも、特進クラスや生徒会の仕事では桜子さんと一緒に居られるし我慢していたのよ」
語り始めた早川先輩。俺は置いてきぼりだ。
「それなのに…………突然桜子さんが特進クラスに来なくなった。そして生徒会の仕事も休んだのよ?この異常事態に、私は校長を締め上げて確認をしてみれば、なんと貴方が関わっているというじゃ無いの」
締め上げるって、二条の無茶ぶりの時といい可哀想な校長…………はまぁこの際どうでもいい。
桜子はアリスさんを心配して俺たちのクラスに編入し、生徒会の仕事を休んだんだ。
アリスさんを学校に連れてきたのは俺だから、俺のせいと言えるだろう。
「だから貴方を殺そうと思うの」
「でもその結論はおかしいですって」
早川先輩の手には、細い棒……かんざし?が握られている。
「御託はいいわ」
そういうと早川先輩は軽く腕をふる。
刹那のきらめきと共に、俺の後ろの壁になにかが突き刺さる。
「え?」
一拍おいて、俺は理解する。
早川先輩はあのかんざし的な何かを俺に投げてきた。そして運良く外れて壁に突き刺さった事を。
やべぇ、マジで殺しに来てるじゃん。
「あら、外してしまったわ。私とした事が……」
そういいながら、懐から新しいかんざしを取り出そうとする早川先輩。
いや、かんざしならそんな何本も持っているはず無いから、あれは食べる用の鉄串だろうか。先輩ってば食いしん坊なのかな。
緊迫した状況で、何故かそんな事を考えてしまう。
「次は、外さないわ」
状況に置いて行かれ、座して死を待つ俺。
「さようなら。桜子さんにつく、汚い虫が」
そういってまた腕を振る早川先輩。
今度は目が慣れたのか、それとも何が起こるのか知っているからか、その両方が理由かもしれないが、飛んでくる鉄串を目で追う事が出来た。
しかし避けられない。何でか動けない。俺が間抜けだからだろうか。
俺がぼーっと考えた事は、ここ最近、これと似たような状況が何回もあったな、って事だった。
しかし何故か毎回俺は生き残っている。運命に愛されてでもいるんだろうか。
そして今回も、同じらしい。
「何ぼぅっとしているんですか!」
突然横から何かに抱きつかれて、その勢いで吹っ飛ぶ。
俺の横にいた人物は一人。
「……ほのか、なんで」
「なんでって、バカなんですか!?なんで避けないんですか!?」
凄く焦った表情のほのか。ちらちらと早川先輩を見ている。
「お前、俺をここに連れてきたんじゃあ……?」
俺はてっきり早川先輩の指示で、ほのかが何らかの手段で俺を一人にしたんだと思っていた。最初に会った時だって、俺を五十嵐の前に放置して一人だけ逃げたじゃ無いか。
なんで俺を助けたんだ?
「連れてきた?私はお客様に付いて走っていただけですよ」
「でもお前はここのメイドで……」
混乱する俺に答えをもたらしたのは、早川先輩だった。
「ちょっと、ほのかさん?何をしてらっしゃるの?」
その声は温度がなく、聞くものが震え上がるようなとても冷たい音色だった。
ほのかはその声に怯えながらも、自分を奮い立たせるためなのか大きな声を出して答える。
「彩お嬢様こそ何をしてらっしゃるのですか!?凡人とはいえお客様ですよ!?こんな事……お戯れが過ぎます!!」
「凡人は余計だろ」
反射的に突っ込む俺。でもそのおかげで少しだけ緊張状態から抜け出す。
…………ほのか、やるやないか。
「お戯れ?これはそんなんじゃあ無いわ。ただの害虫処理よ。……しかしほのかさん。貴方には本当に失望したわ。貴方にはこいつを五十嵐の餌にしろと命じたはずよね?でもそれに失敗して、私の手を煩わせるきっかけになっているのよ。それだけでもクビにするには十分なのに、さらに今、私の邪魔をしたわね?」
「え……?いや、彩お嬢様は五十嵐に会わせろとしか…………餌?一体何を言っているのですか?」
「もういいわ。貴方はそこの男と一緒に死になさい」
「ちょっとお嬢様、落ち着いてください。私、何が何だか……そりゃあ私はダメイドですからクビになるのはしょうがないとしても、でも……し、死になさい、って……?」
混乱しているほのか。
「そうか…………ほのかは何も知らないのか」
俺はぽつりと呟く。ほのかが俺の方を振り向いてくる。
「お客様、何を知っているのですか?貴方は……何者なんですか?」
「俺は…………何者なんだろうな。自分でも分からないよ」
ただひたすら巻き込まれているものとでも言おうか。
……ははっ、考えれば考えるほど今の状況が訳分からん過ぎて笑えてくるな。
俺はゆっくりと立ち上がる。
「でも、ほのか。お前が悪い奴じゃ無いって事が分かっただけでもなんか元気出てきたよ」
俺って自分の為には何も出来ないくせに、人のためだと妙に体が動くみたいだ。
昔近所に住んでいた耄碌ジジイが公園で、こんな事を言っていた。
何か大きな目標を叶えたい時は、まずは目の前の小さな目標を叶えろと。そしたらいつの間にか、大きな目標を叶えているんだと。
大きな目標が、トルクスピカを救う事だとして、今目の前にあるのは……
俺はほのかの前にすっと立つ。
「ほのか、凡人の俺だけど、とりあえず俺はお前を守る事にするよ」
今できる事をしよう。
「いや、格好つけてないで説明してくださいよ」
「…………ちょっと、人が格好つけてるんだからそっとしておいてよ」
「出来ないですよ。なんで私が殺されないといけないんですか。明らかにお客様が原因ですよね?私、巻き込まれて殺されそうになってますよね?守るのは当然のことじゃ無いですか。むしろここで逃げたら本当にお客様はゴミ虫以下ですよ」
「ねぇ!格好つけている人にゴミ虫とか言うのやめてくれる!?いくら自分に酔ってたとしても傷つくんだよ!?むしろ周囲がそんなに冷めてると自分だけ盛り上がっちゃってた温度差で余計傷つくんだよ!?」
「知らないですよ。それよりはやく説明してください」
「…………分かったよ。でも俺も全部知ってるわけじゃないんだ。だから……」
俺は早川先輩のほうへ視線を向けて、ニヤリと笑う。
「答え合わせといきましょうか、先輩」
「あ、また格好つけた」
「だからいちいち指摘しないで!」




