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女は俺の敵にはならない

別視点です。

 二条は長い事生きてきた自身の経験から、周囲の景色に違和感を感じていた。


(何だ?)


 未だ具体的な事は分からないが、嫌な予感がする。 


 五十嵐から逃げるために共に走っている拓也、咲、アリス、そしてメイドのほのかの四人。


 二条は注意を促そうと、彼らの方に視線を向ける。


「何か嫌な予感が…………え?拓也くんと、ほのかくんは?」


 その声を聞いた咲とアリスは慌てて周囲を見渡す。


「いない……!拓也!?」


 アリスが驚きで立ち止まる。


 しかしそれは悪手だ。


 真っ直ぐの廊下。後方にはこちらを追ってくる五十嵐の姿が見えている。


 その五十嵐がニヤリと笑うと、手を前にかざす。


 するとその手が光り始める。


「危ない!」


 最初に反応したのは、普段から剣道の稽古で反射神経を鍛えている咲だった。


 彼女は手に持っていたケラウノスを、竹刀袋の中に入ったままアリスの前に突き出す。


「……くっ!」


 迸る閃光。咄嗟に目を閉じた二条だが、少しだけ間に合わず、光が目を突き、視界が真っ白に染まる。


 ほんの数秒だけ。しかしそれが命取りだ。


「死ねぇ!」


 叫ぶ男の声を聞き、咄嗟に風神の力を使い後ろに飛ぶ二条。


 五十嵐の放った光の塊は、質量を伴って床に突き刺さる。この辺りは絨毯が敷かれておらず、固い床材が少し砕けて飛び散っていた。


「ふぅ。いきなり危ないね。……咲くん、アリスくん、大丈夫かい?」


 二条は二人に声をかける。


「大丈夫なの」


「ええ、危なかったわ。咲ちゃん、ありがとう」


 どうやら二人も無事のようだ。


 いつの間にか、五十嵐がすぐ近くまで迫って来ている。


「くそがっ、一人も仕留められねぇじゃねぇか!ったく運悪ぃな……」


 咲とアリスは持ち前の武器を手に構える。


 その様子を横目に、二条は五十嵐に話しかける。


「なんでいきなり攻撃してくるんだい?」


「あぁ?……野郎が息すんな。空気が腐る」


「そんなつれない事を言わないでおくれよ」


「うるせぇ奴だな。大体、人が楽しんでんのを邪魔してきたのはお前らだろうが。殺されても文句は言えないよな?」


「そのことなんだけど、君の情事を覗いた張本人である、メイドのほのかくんがいないんだ。君は何故だか分かるかな?」


「ほのか……?そんな奴知らねぇよ。俺が頼まれたのは、あの拓也とかいうくそ野郎を引き離せってだけだ」


「拓也?拓也をどうしたのよ!」


 拓也という名前に反応したアリスさんが叫ぶ。


 五十嵐はアリスさんの顔を見てニヤリと笑う。


「お?お前はさっきの、アリス……だっけか?そうか、結局俺の女になりたくて戻ってきたのか。殺しちまうとこだった……ったくよぉ、さっきはどんなからくり使ったか知らねぇが突然消えやがって、これはお仕置きしねぇとまずいよなぁ?」


 誰もが憧れるような美形の少年が、欲にまみれた醜悪な顔に変わるのは耐えがたい光景だ。いつも無表情の咲でさえ、顔をしかめている。この男と会話する事でさえ魂を凌辱された気持ちになるといわんばかりだ。


 しかし長い年月の中で、この世の裏の裏まで見てきた二条は、そんな顔は何度も見てきた。


 二条はいつも通りのにこやかな笑顔で、五十嵐との会話を続けようとする。


「一体君は拓也くんとほのかくんに、何をしたんだい?」


「お前さぁ……まじでどっか行けよ。邪魔なんだよ」


 あくまでも男との会話を拒む五十嵐。こんなに男との会話を避けてこの男は普段どうやって生きているのだろうかという疑問が二条の頭に浮かぶが、顔には出さない。


「そんな事を言わないで、教えてくれないかな」


 今はこの男と会話を続けたい。そしてあわよくば咲とアリスを遠くに行かせて、一対一の状況を作り出したい。


 何故なら拓也の言っていた、女は俺の敵にはならないという五十嵐の発言が気になるからだ。


 アリスさんの敵意を真正面からぶつけられているにもかかわらず、余裕の表情を崩さない事からも、やはり女性との戦いに役立つ何かしらの能力を持っているのだろうと考えられる。


 だったらまだ自分だけで戦った方がまし、そう二条は考えた。


 二条は自分の強さに自信があるわけでは無いが、本気を出せばそこら辺の眷属には負けないだろうと思っていた。


 あわよくば、話し合いで矛を収めてくれるかもしれない。


 そんな希望的観測をしていた二条だが、すぐにその期待は裏切られる。


「だから、喋んなって言ってるだろうが!」


 そういって五十嵐は手を二条の方へ向ける。手が光を帯びる。


 先程と同じ攻撃を仕掛けてくるつもり何だろう。


 二条はいつでも避けられる様に構える。咲とアリスも同じように


 しかし五十嵐は、攻撃を発射する事なく、一言呟いた。


「アリス、そいつを殺せ」


「え?」


 ()()()()()()()斬りかかった。


 突然の事だったが、二条は難なく風神の力を発動させる。


 この緊急回避能力が、人知を超えた神と眷属達の戦いの中で、二条が生き残ってきた理由の一つだ。


 地面を弾丸が貫通するような音が聞こえる。


 今回も風神の力は二条の命を繋いでくれたらしい。


「アリスくん?」


「ご、ごめんなさい!あれ、なんで!?」


 二条以上に戸惑っているのはアリスだった。


 アリスは戸惑いながらも、攻撃の手を緩める事はない。


「ちょっと!ごめん!体が!止まらない!」


 アリスの攻撃は、基本的に大振りだ。物凄い技術があるわけでもない。


 不意打ちの初撃さえ凌いでしまえば、後は二条なら簡単に避けられた。


「ほっ、っと、っと」


 簡単に避け続ける二条を見て、五十嵐が口にする。


「おいおい、なんで当たらねぇんだよ。こいつ雑魚じゃん。くそが…………おい、そこのちび、お前名前は?」


 五十嵐は状況が把握出来ずに固まっていた咲に声をかける。


「…………」


 答えない咲。それに対して五十嵐が舌打ちをする。


「おい、お前無視してんじゃねえよ。名前だよ名前。早くいわねぇとぶっとばすぞ」


 そういいながらも、五十嵐は手の中に溜めていた()を咲の方に放つ。


「!」


 咲は突然の事に驚くが、しかし彼女の反射神経は人並みではない。


「っ!」


 咄嗟にケラウノスをふるって飛んできた光とぶつける。ぶつかった瞬間に、先程と同じように辺りに光が飛び散る。

 

 それを目をつぶって回避する二条と咲。今度は予想していたので回避に成功した。


 しかしアリスは五十嵐が光を放ったのを見ておらず、もろに食らってしまった。


「っく!」


 目を押さえて攻撃の手を緩めるアリス。


 その様子に焦ったのは五十嵐だった。


「あっ!くそ!アリス、おい!そいつを殺せ!」


 なぜか叫んでいる五十嵐。


 数秒してアリスが視界を取り戻した時に、理由が分かった。


「…………あれ?体の自由が戻ったわ!」


 アリスは自分の手をグッ、パーしながら言う。そうして自分の体のコントロールを確かめると、五十嵐に向き直って大剣を構え直す。


「あなた、今何したの!?」


 五十嵐はその様子に、こめかみに青筋を浮かべながら答える。


「まじで、ふざけんなよ……お前クソほど弱ぇな!なんで仕留められないんだよ!完全な不意打ちだったんだぞ!」


「私は仲間に攻撃なんてしないもの!」


 大きい胸を張って答えるアリス。


 いや、自分だったから避けられたけど、拓也あたりだったら一刀両断されていたぞ、と心の中で二条は思った。


 だが、それを口にするほど二条は空気が読めない訳じゃ無い。普段空気を読まない発言をしているのは、あくまで拓也をからかうためだ。


「どいつもこいつも役立たずが……クソッ!もう一回だ!」


 そういって手に光を溜める五十嵐。


「アリスくん、直視しないでくれ!」


 二条は咄嗟に叫んだ。


「分かったわ」


 アリスは素直に手で目を覆う。拓也が見ていれば可愛いと悶え死ぬだろう。


 それをみていた五十嵐が、光を作るのをやめて怒り出す。


「おい!ちゃんとみろよ!ふざけんな!」


「…………」


 その態度を見て、二条は悟る。




 こいつ、戦い慣れてないな、と。

 

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