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第40話 残念ナビゲーションシステム

「なぁ、お前ってここで働き始めて何年?」


「えーと、もうすぐ二年になります」


「えっとさ、お前…………迷ってない?」


「迷ってないです」


「さっき、建物の中を知らない皆様が闇雲に歩き回られるより、とか何とか言ってたよな?お前闇雲に歩いてない?」


「ないです」


「おっと、ほのかくん、ここはさっきも歩いた所だね」


「…………すいません。迷いました」


 俺達は屋敷の中で迷子になっていた。


 ほのかが桜子と一緒にいるであろう、早川先輩が行きそうな場所に連れて行く、というから付いてきてみればこの有様だ。


 かれこれ三十分ぐらい彷徨っている。


 定期的に従業員とはすれ違うが、未だに招待客とは会わない。


 確かにこの屋敷はとてつもなく広い。初めて来た人は間違いなく迷うだろう。


 でも二年働いて覚えられないってことあるか?


「いっつもサボっているツケが来たんですかね……」


 やっぱりこいつは駄目メイドだ。ダメイドだ。


「もう次にすれ違ったメイドさんにここが何処か聞くことにしよう」


 俺は皆にそう提案する。ほのか以外は賛成のようだ。


「ちょっと待ってください。それじゃあ私のメイドとしての矜持が…………」


「そんなものを持つ前に職場の地図ぐらい把握しておけよ」


「くっ………働いたこともない若造が偉そうに…………!」


「お前俺とほぼ同い年だろ」


 俺とほのかが言い合っていると、咲が俺達の前に一歩出た。


「…………」


「咲?どうした?」


 咲は俺達の前にある扉を見つめている。


「…………この扉の向こうから、気持ち悪い気配がするの」


「気持ち悪い気配?」


 俺が首を傾げていると、


「ああ、思い出しました。ここです。この扉の先がパーティ会場になっています。…………良かったぁ。これで面目は保てたみたいですね」


 少し嬉しそうにほのかが言う。いや、そんな今更ダメイドという評価は覆らないぞ。


「咲くん、気持ち悪い気配というのは、どういうことだい?」


 二条が咲に問いかける。咲は悩む素振りを見せながら、ゆっくりと答える。


「言葉にするのが難しいの…………なんというか、生理的に受け付けないというか…………空気が汚れているような、そんな気配なの」


「この先に五十嵐がいるのね」


 アリスさんが咲の言葉を大胆にまとめる。


 いや、俺もちょっと思ったけど、断定するのは流石に可愛そうだって。


「じゃあ、早く突っ込みましょう」


 結論が早すぎる。


「ちょっと待ってくださいアリスさん、突っ込むのは無しです。あくまで最優先は桜子です。仮に五十嵐が中にいるにしても、その時は当初の予定通り俺と二条で監視しとくんで、アリスさんは咲と一緒に桜子を探しに行ってください」


「そういえばそんな事言っていたわね」


「忘れないでくださいよ……」


 ため息をつく俺。


「でも、既に桜子くんが接触をしている可能性もある。この先のパーティ会場に、桜子くんはいないのかな」


 二条がふとそんな事を口にする。


「確かに」


 その時はどうしよう。理由をつけて桜子だけ連れてくるにはどうすればいいだろうか。


 俺がそんな事を考えていると、


「多分、桜子はいないの」


 咲が自信なさげに呟く。


「咲、わかるのか?」


「桜子の気配はしない………気持ち悪い気配が大きくて、それ以外の気配を感じ取れないだけかもしれないけど」


 そんな咲の言葉を、神の力に詳しい二条が解説する。


「時に、大きい気配は他の気配を塗りつぶす時がある。………が、沢山の人間がいるパーティ会場で、一つの気配しかしないっていうのはおかしい気もするけど。とにかく、中を見てみない事には分からないね」


 二条の言葉を受けて、ほのかが、


「じゃあちょっと私が見てきますよ」


 そういって扉をすこし開けて、頭だけを中に覗かせる。


「…………あっ」


 急に間の抜けた声を出したと思ったら、頭をこちらに戻す。そして少し気まずそうな顔をする。


「お客様、すみません。この先パーティ会場じゃなかったです。寝室でした。そんで、五十嵐が女の人と中にいて…………ガッツリ私と目が会いました」


 一瞬場の空気が凍る。




「よし、逃げよう」


 俺たちは逃げ出した。


 




 俺たちは五十嵐から走って逃げ出した。


「はぁ、はぁ、ここまで来れば、大丈夫だろ」


「はぁ、はぁ、そう、ですね」


 俺たちは廊下を走って、四回ぐらい曲がった所で息をついた。


「おい、お前パーティ会場って言ったよな?」


「はぁ、はぁ、言いましたっけ?気のせいじゃ無いですか?…………痛たたた!すいません!私がやりました!」


「ったく。危ないところだったじゃん。…………でも、五十嵐は一体何をやってるんだ?」


「そりゃあ、ナニをやっているんですよ。まあ童貞のお客様には分からない……」


「分かるわ!って、そういう話じゃ無くてパーティに参加せず何してんのかっていう事…………あれ、皆は?」


 いつの間にか、俺とほのかの二人だけになっている。


「そういえば、走っている途中からいないような…………」


「嘘だろ。ただ走ってるだけではぐれちゃうなんて…………よりにもよってこんなダメイドと二人なんて」


「ちょっと、ダメイドってなんですか。そんな事言うのなら私もダメお客様、略してダメおって呼びますよ」


 俺はほのかを無視して考え込む。


 何ではぐれた?てか、そもそも何で五十嵐がいた?何でパーティ会場にたどり着かない?大きい屋敷とはいえ、三十分も歩いたんだぞ?


 俺は隣でまだ息を切らしているほのかを見る。


「……そんなに見つめて、何ですか?いやらしい事でも考えているんですか?お金取りますよ?」


 こいつといると、何故か他の招待客と会わない。何故か五十嵐とだけ会う。




「おい、もしかしてお前、俺を騙して…………」




 俺がほのかに聞く前に、第三者の声が聞こえてきた。


「…………平塚拓也。十一月生まれの十七歳。兄弟は三人。母親は死別、父親は行方不明。特技は家事で、しかし料理は苦手。将来のことはとくに考えておらず」


「え?誰?」


 声は明かりの付いていない廊下の先から、コツコツという足音と共に聞こえてくる。


「特筆するべき事は、ただ家が隣という理由だけで、神が使いし天からの授かり物、葉山桜子のあんな姿からこんな姿までを目におさめ、彼女の大半を独り占めしているという、傲慢強欲で、身の丈を知らないその無知さ。……………まったく、反吐が出るわ」


 そんな事を口ずさみながら現れたその姿は、俺も知っている人だった。




「早川、先輩?」


「平塚拓也、あなた、死ぬべきだわ」


 顔に浮かぶのは狂気に満ちた怒りだった。









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