第39話 どんどん人が増えていくトイレ
俺たちは車の中から、転移した。
「てかさ、なんでトイレなの?」
俺たち四人は一人用のトイレの個室でギッチギチに詰まっていた。
「ちょっと、狭いの。二条、早く扉を開けて」
他に比べて背の低い咲が、苦しそうに声を上げる。
「分かったよ」
ガチャリと言う音と共に、俺はトイレから押し出された。
「ぬわぁ!」
トイレの床に倒れ込む俺。後ろを見れば優雅にトイレから出てくる他三人。
何で俺だけこんなに惨めなの。
「どうやら成功したみたいだね」
辺りを見渡す二条。
咲とアリスさんの様子も特におかしな所はない。
これはちゃんと転移出来たって事でいいのか?
そんな中二条が洗面台の方に何かを見つけて、声を上げる。
「やぁ」
「…………ど、どうも」
いや、トイレに思いっきり人いるんだけど。しかもメイドさん。
ここ女子トイレじゃん。
「いや本当にすいません!ちょっと間違えちゃって!今すぐ出るんで許してください」
俺はすぐさま土下座を敢行する。
これはまずい。せっかく転移出来たのに、変態としてつまみ出されてしまう。
そう思ってて頭を下げる。
「あれ?お客様ですか?」
顔を上げるとそこにいたのは、さっき五十嵐と襲われたときに一緒にいた、メイドの佐藤ほのかだった。
「お客様じゃ無いですか。無事だったんですね」
「ほのか……?」
「急に呼び捨てですか。さっきまで敬語だったのに急に距離を詰めてくるなんて…………彼氏面ですか?」
「違うわい!ってかなんでお前がここに…………」
「そりゃあトイレをするために決まっているじゃないですか。……はぁ、たまに居るんですよね、メイドがトイレをしないとかいう幻想を抱いている人が。メイドだって人間ですから、小さい方も大きい方もちゃんと出ますよ」
「別にそんな幻想抱いてないわ!」
「それよりも、なぜお客様はトイレにいらっしゃるのですか?」
やばい、それは一番聞かれたくない質問だ。上手くごまかさないと。
「いや、これは……そうそう、妹の咲が一人でトイレ出来ないって言うから手伝っていただけなんだよ!」
「たっくん、私が今槍を持っている事を忘れないで」
俺は咲を犠牲にする事にした。
「そうですか。まあ別にどうでもいいですけど。それより早く出ていかないと警備員を呼びますよ」
どうでもいいのかよ。咲からの株が下がっただけじゃん。損したわ。
「わ、悪い!今すぐ出ていくから!ほら、二条、行くぞ!」
とりあえず男二人はすぐに退散するべきだ。
「ああ、僕も出たほうがいいのかい?」
「そりゃそうだろ。常識的に考えて」
「いえ、そちらのとってもかっこいいお客様は別にいてくださっても構いませんよ。眼福ですし」
どうやら常識は通用しないみたいだ。
「いいからとりあえず出るぞ!あと、お前に聞きたい事があるからトイレが終わるの待ってるからな!」
「長いですけどいいですか」
「おまっ、女の子がそんなはしたない事言っちゃあいけません!」
俺は赤面しつつ二条の手を引いてトイレを後にする。後ろをアリスさんがついてくる。
「彼女、とっても面白い子だね」
俺に手を引かれながら、楽しそうに笑う二条だった。
俺達はトイレを出てすぐの廊下で待っていた。この辺りは人通りが少なくて、たまに通るのはメイドやら執事やら、この屋敷の従業員だけだった。
多分バックヤード的な場所なのかな。
暫くしてからほのかと咲が出てくる。
…………本当に長かった。
「てか、咲まで何していたんだよ」
咲が視線をそらすのを見て、俺はなんて馬鹿な質問をしたんだと気付く。
「トイレから出てきた女の子に対して何してたんだって、お客様はあれですね。デリカシーの欠如が甚だしいですね」
俺は焦って適当な言い訳を口走る。
「いや、違うんだっ。結構長かったから心配になって……ほら、咲ってそんなにトイレが長い方じゃない…………ぐほっ!」
一瞬で距離を詰めてきた咲からボディーブローを食らって膝から崩れ落ちる俺。
「たっくん?」
「今のは俺が200%悪いです。本当にすみません」
「…………次はないの」
俺の耳元でささやく咲。
よかった。命は取られないで済みそうだ。
「それで?お客様、聞きたい事って何ですか?」
俺は気を取り直して立ち上がる。
「ああ、さっき五十嵐に会った時なんで逃げたか聞きたかったんだけど…………それより、ここって早川先輩の屋敷で合ってる?」
「何を寝ぼけたことを言っているんですか?そうに決まっているじゃないですか」
俺が一回家に転移して、それからまた戻ってきた事を知らないほのかは、俺の事を胡乱な目を向けてくる。
「ああ、悪い。ちょっと寝ぼけてんだ」
「全く、しっかりして下さい。…………それよりもそちらのお三方は一体どうしたのでしょうか?全く見覚えの無いお二人もそうですが、そちらの見覚えのあるお方、お付のメイドはどうされたのでしょうか?」
「遅かったから撒いたわ」
「メイドを撒かないでいただけますか」
「お前だってお客様である俺を撒いたじゃねえか」
「それはそれ、これはこれです」
こいつ本当に適当だな。いやまぁアリスさんも大概なんだけど。
てか、確か屋敷の客には全員に専属のメイドが付くって言ってたな。
今日の招待客、屋敷の外の様子を見る限りでも百人以上いると思うんだけど…………
…………マジ?
「本当に住む世界が違うな」
「まぁ、そのうち気にならなくなるもんだよ」
多分あちらの世界の人間である二条が軽く言う。
「え?タクヤ、もしかして彼女も異世界から来た人なの?」
「アリスさん、ちょっと話がややこしくなるんです黙っててもらえますか」
「分かったわ」
「………それで、そちらの初めて見るお二人は?」
俺は面倒くさくなって話を適当に切り上げる。
「まぁ、細かいことは別にいいじゃん」
「良くないです。せめてそちらのお客様に彼女がいないかだけでも…………」
「お前、欲望に忠実だな」
「今お付き合いしている人はいないよ」
「お前も答えなくていいから!」
こいつとまともに喋ろうとすると本当に話が進まない。
二条と同じかそれよりひどいな。
「ったく!一旦それは置いといて!………なぁほのか、桜子が今どこにいるか知らないか?」
俺がそう聞くと、ほのかは少し考える素振りを見せて、
「えーと、現在地は分かりませんねぇ。私サボっている最中ですし」
「おい」
「でも、恐らくは彩お嬢様とご一緒だと思いますよ。最後に見た時は、お嬢様とお二人でそちらの方を探していましたし」
そういってアリスさんを指差すほのか。
「…………あの、アリスさん?どういう感じで俺のとこに来たんですか?」
「何も言わずに走ってきたわ」
「マジっすか。せめて一言伝えてからでも…………いや、なんでもないです」
アリスさんの純粋な瞳に俺はもう何も言えない。
うん。深いこと考えてもしょうがないな。とりあえず桜子と合流しよう。
幸いパーティは大盛況だ。さすがの五十嵐でもこの中で暴れだしたりはしないはず。
…………あの人の見下し方を見た後だと不安がのこる。
「まぁでもとりあえず桜子と早川先輩を探しに行こう」
俺は同行者の三人に言ったつもりだったが、答えたのはほのかだった。
「分かりました。私に付いてきてください」
「え?案内してくれるの?」
「はい現在地は分かりませんが、建物の中を知らない皆様が闇雲に歩き回られるよりいいでしょう」
「いや、すごいありがたいけど、なんで」
ほのかは俺の質問が本気で分からなかったのか首を傾げる。そして、
「だって」
前置きをして俺を見つめる。
「お客様の専属メイドですから」
やばい。ちょっとキュンとした。




