第38話 新しい入場方法
お待たせしました。
二条の屋敷の三軒隣が早川邸だった。近くて良かった。
まぁ近いといっても二条の屋敷の正門から一キロぐらい距離あったけど。
近いなら歩いて行こうとか言わなくてよかった。
俺達は二条の車で早川邸の正門に乗り付けた。
「…………さっきとだいぶ様子が違うわね」
正門にはたくさんの車が列をなしていてた。さっきはこんなに人気がなかったはずだ。
「パーティの招待客じゃないかな?」
俺の正面に座る二条が言う。二条の車はリムジンではないが、後部座席が対面で座るようになっている高級車だった。どこのメーカーの車か分からないけど、間違いなく庶民では買えない値段なのは間違いない。
俺はそんな車の柔らかいシートの上が落ち着かずに、背筋を伸ばしたまま窓の外を見ていた。
もう既に陽は落ちていて、地平線近くだけがほのかに赤く染まっていた。
「そうか、結局結構時間経ってるし…………てかこんなに規模がでかいパーティなのかよ」
いつの間にか俺達の後ろにも車が来ている。この調子だとまだまだ増えそうだ。
「何をしているのかしら?」
なかなか進まない車に疑問を抱くアリスさん。答えたのは二条だった。
「恐らく入り口で搭乗者の確認をしているんだろう。色々な業界の大物が集まるパーティなのだろう?だとするならば危険な人物が入らないように警備は厳重になるものだよ」
列の先頭を見ると、警備員が車の運転手と話をして、後部座席を確認した後車は門の中へ入っていく。
なるほどな、これだけデカいパーティーならああいう事が必要になるんだな。
あれなら安心してパーティに参加出来る……と思ったけど、そういえば思いっきり危険人物が中に入っているよな。俺は殺されかけたけど。
「…………まあ、招待客の中に危険な事をする者がいるとは思いもしないだろうね。これは警備の者達の落ち度ではないだろう」
早川先輩は五十嵐が来ることを知っていた。つまり招待客だということだ。
「…………てかさ、招待状とか持ってなくても入れるの?」
だってこんな一台一台確認しているんだ。飛び入りで参加なんて許されないんじゃないか?
「僕に聞かれても」
二条は車に積んであったワインを堂々と飲みながらそっけなく答える。
いや、実年齢的には問題ないかもしれないけどお前見た目高校生だろ。ちょっと倫理的に不安になるからやめてほしい。
ていうかよく考えたら、俺達四人のうち二人武器を携帯してるんだけど。
これってもしかしなくても過激派じゃね?武装集団じゃね?
「なぁ、これまずいだろ。俺たち絶対入れないって」
「うん。その可能性はあるね」
二条は落ち着きを崩さない。
「お前なんでそんなに落ち着いているんだよ」
「落ち着いていないのは君だけだよ」
「え?」
見れば咲もアリスさんも慌てた様子が無い。
「解決策はあるだろう?二人もそれに気が付いているから落ち着いているのだろう」
二条がニヤニヤしながら、ワイングラスを回す。
解決策?
「アリスさん?なんか方法があるの?」
俺が聞くと笑顔で答える。
「この乗り物で正面から突っ込めばいいと思うわ!」
俺はそっとアリスさんから目線を外して咲の方を見る。
「咲、どうすればいいと思う?」
「桜子の事は諦めた方がいいの。大丈夫、桜子の犠牲は忘れないの」
「…………なあ二条。これがお前の言っている解決策か?」
「うん。二人の回答は僕も予想外だったよ」
さすがの二条でも面食らっている。
「…………じゃあお前は、突撃と撤退以外の作戦があるのか?あるんなら教えてくれよ」
「君が何とかすればいいじゃ無いか」
「俺が?どういう事だよ」
「…………」
しかし二条は、俺を見つめてニコニコとしている。
自分で考えろって事かよ。
……………いや何も思いつかないけど。俺に何が出来るって言うんだ。俺に出来る事なんて無いだろ。
ここは頭を働かせて別の方法を考えよう。
武器を持ったアリスさんと咲。二人を置いていくか?実際五十嵐は女の人に対して絶対の自信を持っていた。俺たちがまだ知らない、何かしらの能力があると思った方がいいだろう。そうなると、二人を置いていった方がいいかもしれない。特に咲は危険にさらしたくない。置いていきたい。
「じゃあ、俺と二条だけで行って、咲とアリスさんにはお留守番ーー」
「却下なの」
「私はタクヤと離れないわ」
…………一瞬で否定される。
「僕と拓也くんで行っても五十嵐に勝てるとは分からないよ?君は戦えないし、僕も別に強くないからね。僕は頭脳派なんだ。だから二人は連れて行くべきじゃないかな」
二条も否定してくる。
ニコニコしてんじゃねえよ。教えろよ。
「じゃあどうすればいいんだよ」
車はゆっくりだが確実に前に進んでいる。このままだと、
「結局問題は、あの警備だろう。門を越えてしまえばいちいち確認される事もない。だから門を越えればいい」
「だからそのやり方が分からないんだよ。もったいぶってんじゃねぇよ」
俺達は忍者じゃ無いから屋敷の周りを囲んでいる高い塀を越える事なんて出来ないし、警備員の目を誤魔化す方法だって思いつかない。アリスさんの大剣もケラウノスも、トランクに隠せるサイズじゃ無いし。
「君はどうして物理的な方法に固執しているんだい?君はそんな事しなくても、中に入れるはずだ。既に一度やっているのだから」
そこまでいわれて俺は気付いた。
「つまりー「タクヤ!分かったわ!タクヤの力で中に転移すればいいのよ!」
アリスさんが先に答えを言う。俺もちょっと言いたかった。
「そうだ。拓也くんの力を使えば簡単に中には入れる。誰にも気付かれずにね」
「いや、ちょっと待ってくれ。俺はまだ自分ちのトイレへの転移しか成功していないんだ。狙った場所への転移なんて出来っこない」
「いいえ、タクヤなら出来るわ」
アリスさんは座席から身を乗り出して俺の手を両手で包み込んで、期待に満ちた目で俺の事を見ている。
「そ、そう言われても……」
「アリス、近い。離れて」
アリスさんは咲に剥がされる。
「たっくん。無理はいけない。頑張ったって出来ない者もあるの。人間諦める事だって大事。大丈夫、桜子の一人や二人、生きていればそこら中にいるわ」
「そんな桜子を山の中のタケノコみたいにいうなよ」
そうだ。桜子の身が危険なんだ。
もちろん五十嵐に会わないとか、何もされないっていう事だって十分ありえるけど、でも少しでも危険な可能性があるのなら、助けに行かなくちゃ。桜子はもはや俺にとって、かけがえのない家族の一人なんだ。
出来ないって言っている暇はない。やらないと。
絶対に中に入らないと。
「たっくん?」
目を閉じて集中し始めた俺に咲が不安そうに声をかける。
「拓也くん。アリスさんほどではないにしろ、僕は君に期待しているんだ。君なら出来るよ」
二条の珍しく優しくて素直な声が聞こえてくる。
「タクヤ、頑張って!」
アリスさんの元気な声が聞こえてくる。
俺はそれらを聞き流して、自分の意識だけに集中する。
トイレへ転移した時を思い出す。
ここの空間を、早川先輩の屋敷の中につなげるイメージ。
集中しろ。俺なら出来る。
…………。
目を開けると、空間が歪み初めていた。
グルグルと回る景色。
「皆、俺と手をつないでくれ!」
俺の右手をアリスさんがつかみ、左手を二条が掴む。俺の腰に咲が触れて、
四人が一つになって。
俺たちは、空間を転移した。




