第3話 ボーイ ミーツ ゴッデス!!
よく分からない空間で、よく分からない化物を、よく分からない武器で倒しました。
…………何言ってんだ、俺。分からない事しかないじゃないか。
とりあえず………死んだんだよな?
オークが纏っていた光が消えて姿が暗闇に消える。
この自分の体が光る現象だけど、生きているから光るのか。光が消えたのは、死んだから?
そう思ってそろりそろり近づいてみると、雷に打たれたオークは槍が貫通した首から血がドクドクと流れ出て、倒れたままピクリとも動かない。まあ、これは死んでいるだろう。
地面に刺さった槍を掴んで体を起こす。ていうかこの槍、どうやって地面に刺さっているんだろう。この謎空間の地面は全部、大理石のような硬くてツルツルした地面だ。およそ物が刺さる様には思えないが、そこにこんにゃくに刺さる爪楊枝の如くぬるっと刺さっている。これ抜けるのかな?
よいしょ。あっ、抜けた。
なんの抵抗も無く抜けたな。ますます意味分からん。もう意味分からんことが多すぎてハゲそう。
取り敢えずその場を後にすることにした。
死んだとはいえ、凶悪な顔をしたオークだ。近くに居るだけで怖いし、それに何か適当にさくっと殺してしまったせいで若干の罪悪感もある。そもそも虫以外で初めて生き物を殺したし。あ、フェデリコさんはノーカンね。
もっと平和的に解決出来なかったのかとか、実はオークは良いやつで、出口が何処だか教えてくれようとしていたとか、そういう考えが生まれては消え、また生まれる。
そんな事無いとは思うんだけど、それでも頭をぐるぐると回っている。
これは良くない傾向だ。
俺は断ち切るように、自分のほっぺを叩く。
終わったことは考えてもしょうがない。ポジティブにいこう、ポジティブに。
そうだ、オークを倒したことによりここを出るフラグが立ったに違いない。ちょっと歩いて行けば出口が見つかるはずだ。もう湧いて出てくる疑問には蓋をして、無視をしよう。
よし、頑張ろう!!
それからどれだけ時間が立ったのだろうか。
すべてが暗闇のこの空間にいると、感覚がどんどん麻痺していく。何分歩いた?いや、何時間?何日?何年?…………とにかくずっと歩き続けている。その間に何とも出会わなかった。大声を出してみたり、槍の柄の部分で地面を叩いて見たりしたけど、何も反応が無かった。
これならば、まだオークに追われていたときの方が良かった。生きている実感があった。
今は自分と周りの境界があやふやになってきている。自分が歩いているのか止まっているのか、はたまた地面が動いているのではないか、もうなにも分からなくなってきた。
他に気を紛らわすものがないせいで、色々と考えてしまう。
サルなんとかさんとちゃんと会話をしておけば良かった。彼なら何か知っていたかもしれないし。
手に持った槍をふと見る。雷が落ちてきたのが百歩譲って偶然だとしても、オークに向かって勝手に飛んでいったよな。そんで勝手に戻ってきた。しかも刃先は、オークを貫通したのに,相も変わらず汚れ一つなく鏡のような輝きを維持している。
もしかしなくても不思議パワーが宿っている。なんか今更になって勝手に持ってきて良かったのか不安になって来た。
これ、持ってると呪われたりしないだろうな。
ただ、あのオークを殺した実績がある以上、手放すという選択肢はない。
何がいるか分からないこの空間、今の俺は藁にも縋って奉る勢いだ。
はぁ、しかし、いつまで歩けばいいんだろうか?幸い腹は減ってないし、足もまだまだ大丈夫だ。そう考えると数分しか歩いていないのかな?
でも精神的にどんどんキツくなってくる。
歩く方向が悪いのか?出口の真逆に歩いているのかも知れない。
いや、出口があるのか知らないけど。どうしよう、来た道を戻るか?それとも右か、左が正解かもしれない。
…………よし、ちょっとストップ。
どうせどっちに行っていいか分からないんだから、もう運任せで自分の進む方向を決めよう。運には自信があるんだ。高校受験の前日に家族で牡蠣を食べて自分だけ当たらなかったし。
槍を真上に投げて、落ちてきた槍の先が向いた方向に進もう。よし。
そーれっ。
ヒューン…………………
………どっか飛んでった。全然戻ってこないんだけど。
槍は俺が今まで進んでいた先に向かってすごい速度で飛んでいった。
いやまあ、冷静に考えればそうだよな。あの槍、さっきポイ捨てしただけでオークに飛んでいったし、この結果は予想出来た。俺のバカ!
そんな事を考えていると数秒後、前方で大きな閃光が走り辺り一面が明るくなる。その瞬間に、前方に人影が見えた。
閃光が収まり、辺りはまた闇に包まれる。
やべぇ、もしかして一瞬見えた人に、当たっちゃった?
だとしたら、相当まずいと思うんだよね。あれが当たって人間が助かるビジョンが見えない。
とりあえず走って近づいてみる。
当たってなければよし。その場合は、驚かせてすみませんっていって、槍だけ回収しとこう。なんせあの槍が無いと俺は戦闘力5以下のゴミだ。俺がこの謎空間をウロウロできるのもあの槍の安心感からだし。そんでもう不用意に投げたりしないようにしよう。
そうして走っていると前方にぼんやり光とが見えてくる。おお、ちょっと安心。光が見えるってことは、今までの経験上そこに生きている何かしらがいるという事のはず。
「すいませーん!!大丈夫ですかー!!」
人に声をかけるときは、とりあえずすみませんと言ってしまう日本人の悲しい性だ。返事はない。しかしその間に相手の姿が見える距離まで近づくことができた。
「………!」
俺は驚いた。
そこにいたのはとてつもなく美しいお姉さんだった。顔立ちから全身、どこをとっても彫刻のような美しさと儚さを持ち、透き通るような長くて白い髪は、相手がこの世のものではないことを暗示しているかのようだ。胸元まで、いやおへそまで開いたドレスは大胆で普通なら目のやり場に困るだろうが、彼女の場合美しさが強調されていて見惚れてしまう。
驚くべき美貌だと思う。
でも、俺が驚いたのはそこじゃない。
お姉さんの手に、俺の投げた槍が止められていたのだ。
手を前に突き出して、人差し指と中指で挟んでいる。挟まれた槍の穂先は顔の前ぎりぎりまで迫っていた。プロ野球選手のストレートよりも早い速度で飛んでいったんだぞ?人間辞めてないと出来ないだろ。
この人絶対やばい人だ。
俺が言葉を失っていると、お姉さんは槍を一瞥し、透き通る美しい声で高圧的に喋り出した。
「これは……神槍じゃないか。雷神の波動を感じるぞ。おい貴様、いきなり命を狙うとはずいぶんじゃないか。殺すぞ?」
どうやら俺の拾った槍は神槍だったみたいです。
とりあえず誤解を解かないと、飛んできた槍を指だけで止めるやばめの人に殺されてしまう。
「ちょっと待って下さい、誤解なんです」
「何が誤解なんだ?この槍は貴様が投げたんだろう?」
「それは………そうですけど………」
「じゃあ、死んでも悔いはないな。言い残す言葉はあるか?」
「いやいや、違うんです!待って下さい、話が早すぎます!貴方に向けて投げた訳ではなくて、ちょっと手を離した時に、勝手にこっちに飛んでいったんです」
「離した?投げたんだろう?」
「いやまぁ、厳密には……投げたんですけど、その槍は拾い物で、よく分かってなくて、とにかくスイマセンでしたぁ!!」
そうして繰り出す華麗な土下座である。これさえすればすべてのことは許されると、賭け事で持金全部なくして、家までの電車賃だけは確保しようとした父親が言っていた。ちなみに歩いて帰ってきた。
アレ?許されてないじゃん。
「………貴様、名前は?」
「………え?あ、あぁ、拓也です。平塚拓也っていいます」
「雷神の眷属か?」
「………雷神の眷属とは?」
「………」
「………」
いや答えてくれよ。なんだよ眷属って。雷神はなんとなく分かるよ、いや分かんないけど多分その神槍とやらに関係する人だろ?でも眷属ってなんだ?部下的なものか?もしかしてその槍を持ってたからそう思われてる?
「あの、槍は拾い物でして………」
「じゃあ、何の眷属だ?」
「………」
「………」
いやだから眷属ってなんだよ。まじで。




