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SCENE MYTH『誰も興味がない、本当の話をしよう』

 昔々、あるところに。

 或いは、無いところに。

 まず最初に神様がいました。神様は神様です。場合によっては動物の形をしていたり、人間の形をしていたり、物体の形をしていたり、或いは言葉で説明するのが難しい形をしていたり、はたまた虚無の形をしています。面倒くさいですね。


 とにかく、様々な形をした神様がいました。

 天と地よりも、光と闇よりも、愛と死よりも、とにかくありとあらゆる何もかもに先んじて、神様というものは存在していました。


 一番最初に産まれた神様が、誰にどのように産み出されたのかは誰も知りません。その神様は無から産まれたと主張したそうですが、神様という存在は大抵碌なものじゃありませんし、事実というものはいくらでもねつ造が可能なので、真相は闇の中でしょう。


 何はともあれ、神様は神様達でした。


 有象無象。千差万別。玉石混淆。


 誰も彼もが、世界を産み出し育てる創造主です。

 世界というのは、神様の所有物です。神様たちは自分の子供のような世界を大切に大事に育てていました。


 そうして育てた世界を、他の神様に見せびらかすためです。神様達の間ではそういった遊びが流行っていました。


 ある神様は、機械仕掛けに人間達が支配されるディストピアな世界を作りました。

 ある神様は、大いなる存在に人間達が振り舞わされ、上質な悲劇と喜劇が自動生成される世界を作りました。

 ある神様は、宗教によって人間達が簡単に殺し合うように世界を作りました。

 ある神様は、女という生き物が男の慰み者になることが日常になるように世界を作りました。

 ある神様は、男同士が愛し合うことを当たり前とする世界を作りました。

 ある神様は、女性同士の関係を宝石のように眺めていられる世界を作りました。


 神様は、神様は、神様は。

 とにもかくにも、あらゆる神様は世界を生み出しては育てていきます。流行っているから作るのです。誰もが作るから流行ったのです。


 気が付けば、誰が最初に世界を作ったのか、その流行を作ったのは誰なのか、もうすっかり神様達の記憶からは失われていました。


 ただそれでも、神様は世界を作ることを、それを維持したり弄くったりすることを止められません。神様にとって世界創造は楽しい遊びだからです。強い中毒性がありました。

 ある時、一人の神様が言いました。


「――そうだ。僕も作ろう」


 その神様は、わかりやすく言えば悪趣味な変態でした。

 自分が産みだした子供のような存在――神様によってはそれが人間と呼ばれる存在だったり、獣人と呼ばれる存在だったり、エルフと呼ばれる存在だったりしました――が、性的な暴力によって蹂躙される様に興奮していたのです。


 神様にとって、それは下等生物のようなものでしたが、そんなものでも興奮するものは興奮してしまうもの。


 ありがとう、ありがとう、ありがとう、とその神様は男に蹂躙される女の子を観る度に喜び、感動に打ち震え、下等生物が産まれてきたことを感謝する日々を送っていました。


 やがて、その神様も他の神様と同様に、世界作りに没頭し、女の子が蹂躙される世界を作りました。


 ある一人の可愛い女の子。

 彼女は美しい容姿から男達に性的な目で見られ、やがて罠にかけられ、蹂躙され尽くされる。

 ただそれだけのために、世界を作りました。


 けれども、悲しいかな。

 その神様は、世界を作って動かし、少女が蹂躙され尽くされたところで、飽きてしまったのです。


 これは他の神様でもよくあることでした。人に見せるだけ見せたところで飽きたものや、特定の箇所を細かく作り込んだところで飽きたものまで、そこまでというほど珍しいことではなかったのです。


 何はともあれ、自分の作った世界に飽きた神様は、ポイッとそこらへんに世界を投げ捨ててしまいました。完全に放置モード。どうなっても知らないという感じに。


 けれども、放置されても世界はぐるぐる回る。動いて動き続けて、回り始めて回り続けて回って回る。地球儀が回ってる感じがそれに近いかもしれません。


 ぐるぐるぐるぐる、ぐるぐる、べきん。


 やがて、回ってるうちに何かが摩耗したのでしょう、世界のどこかが罅割れました。正しい運命に誤差が出始めます。


 その結果、放置魔の神様が気が付いた頃には、世界にはちょっとした変化が訪れていました。


 かつて蹂躙されていた少女が、なんということでしょう、とても幸せそうにしています。徹底的に嬲られたはずなのに、望まぬ子を産み落としたはずなのに。


 腐りきった居場所を捨てて、少年と出会って恋して、赤ん坊に少しずつ愛を抱くようになって。

 まるで神様という運命から逃げ切ったみたいに。


 ――神様には面白くありません。

 下等生物が神様の手から逃れようとするなんて。お前は蹂躙されるために我が産み出したのだ。それがなんだこの幸福そうな顔は。気にくわない。


 我に――神様に逆らうというのか。下等生物の分際で。玩具の分際で。慰み者の分際で。家畜や便器の分際で。


 だから、でしょうか。

 神様は運命に手を加え、何かが狂うように世界を動かし始めました。回っていた世界は、正常に歪んでいきます。


 とはいえ、元々何かが狂っていた世界です。狂っているものをもう一度狂わせたところで、それで何かが正常になるわけではないのですから。


 そう、破綻は必然だったのです。

 少女の幸福は、壊れていき、狂っていき。

 少しずつ世界はおかしくなっていって、ひび割れていき、収拾が付かなくなって。


 加害者は被害者に救いの手を差し伸べずに糾弾し初め、善人は罪悪感に潰されて自殺していき、悪人は自分が正義だと主張し始めて増長していく。


 世界は神様によって狂っていきました。もう滅んでしまってもおかしくありません。


 けれども、神様にとっては世界が滅ぼうがどうでも良いのです。少女が完全に潰れてしまうのを見たいだけ。そのためには、世界が滅んでしまっても構いません。


 滅んでしまったら、また別に新しい世界を作ってしまえば良いのですから。

 そうして、神様によって世界の何もかもが狂っていき、少女がアポトーシスのような存在になっていき、最後の最後になってようやく世界が滅んだところで。


 少女が永遠の眠りに就いて、死んでいく中で幸せな夢を見始めた――そんな時に。


 ――夢の中で、少女は神様を見つけました。

 神様は、第四の壁と呼ばれる障害物の向こう側にいました。文字通り次元の違う場所にいます。そういう場所に住む生き物だったのです。


 少女は微笑みました。

 夢の中とはいえ、ようやく神様を殺すことが出来るからです。もう二度と運命を弄ばされないように。


 神様は嘲笑しました。

 たかが世界を滅ぼした程度の下等生物に殺されるわけがないと。対等になったつもりか虫けらめ。見逃しておいたことに感謝もせずに反抗するとは。これはもう目障りだ。潰すしかない。


 ――そして、そんな神様を馬鹿にするかのように、少女は呆気なく神様を殺してしまいました。


 ギチギチと首を絞めて、窒息させて、骨を折って。

 少女は、神様の首が人間みたいに脆いなぁと思いました。本当に脆いのです。ひょっとすると、神様は人間と同じ成分で出来ているのかもしれませんと錯覚する程度には。


 少女は、どうしてなんだろうねと首を傾げます。変だなと、不思議だなと。それもほんの一瞬。ま、いっかと気にならなくなりました。


 これから先も気にすることはないでしょう。

 やげて、ごきり、という破壊音と共に、神様の首が変な方向にへし折れました。


 というか、もげました。

 神様の頭部が、ころころと地べたを転がります。


 魂のないしゃれこうべは、自分が死ぬことが信じられないとでも言うように、驚愕したような顔を浮かべて死んでいました。自分が死ぬはずないという、全能さ故の慢心が完膚なきまでに破壊されたのでしょう。

 それは本当に惨めな顔でした。


 ですが、少女は神様を殺しても、何も満たされませんでした。

 気持ちは多少楽になりました。不条理の元凶を殺したのですから。もうこれで運命を弄ばれる心配もありません。


 それなのに、なぜ満たされないのか。当たり前の話です。彼女の幸福は、永遠に奪われてしまったのですから。どれだけ復讐したところで取り戻すことは出来ません。


 割を食うのは、大概が被害者なのですから。そんな世の摂理は、神のいるこの世界でも例外ではありませんでした。


 さて、これにて、この物語はおしまいです。

 夢の中で本当に神様を殺してしまった少女がどうなったのか、それはもう誰にも分かりません。

 なぜならこれは、ただの寓話。

 ――この昔話は、神様の死で一区切りついたのですから。






 さて、この辺であまり関係ないお伽話をしましょう。

 いつかどこかに、物語の紡ぎ手がいました。

 その紡ぎ手は、普通にカテゴライズされる人間でしたが、特殊な力を持っていました。


 無数のパラレルワールドを観測する力です。


 紡ぎ手は、その力を少しだけ利用して物語を補強してみたり、たまに事実だけを参考にして作品作りに活かしたりしていました。作家としての倫理的にどうなのかと問われれば疑問ですが、それは置いておくとして。


 ある日のことです。

 紡ぎ手は、少女チーサの世界を観測しました。


 神様によって振り回されて、磨り潰されて、何もかもに絶望して、歪んだ愛を抱えるようになって、星ごと全てを死なせてしまった少女の物語を。


 紡ぎ手が、その世界を観測して何を考えたのか、何を思ったのかは分かりません。

 彼女はその世界を物語にし、誰かに託した後に死んでしまったのですから。おそらく他の神様の癪にでも障ったのでしょう。

 けれども、彼女は死んだ後に、物語に一矢報いるような蛇足を残していました。


 さて。

 これは、もしものお話です。

 もしも、ただの人間であるその誰かが、何の因果か終わってしまった物語に、想像の末に辿り着いたとしたら。


 そして、その先があると創造したなら。


 どうなるのでしょう。

 どうなってしまうのでしょう。

 もしかしたら、きっと。


 ――新しい物語が始まる、なんて奇跡が起こることもあるかもしれません。


 ――さて。

 これにて『少女チーサは幸せだった。』はおしまいです。

 完。

 終わり。

 めでたしめでたし。

 あとはカーテンフォールのエンディングまで。

 どうかみなさん、最後までお楽しみください。

 そして、どうか。


 どうか、エンディングの最後の最後まで、席をお立ちにならないよう、お願い申し上げます――。

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