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71/73

*71 仕度

 洗った髪を乾かすのももどかしい。

 

ざっとタオルドライして、ぐしゃっと掻き上げる。

 

パソコンと徹夜で酷使した眼にはコンタクトじゃなく、眼鏡を。

 

洗面所の鏡に映る、寝て起きても取れない目の下の隈にはこの際目をつぶろう。

 

濃紺の細身のデニムに、ボーダーのパーカーを。

 

普段使いの腕時計を付けて。

 

昨日、電話で告げられた約束の時間までは後少し。

 

財布と携帯電話を手に家を出る。

 

どうせ彼女は時間に遅れてくるんだろうななんて思いながら。

 

想像はついてるのに、結局僕は急いでる。

 

吐く息は白く、宙に舞って消えた。

 

 

 ──何を着たらいいんだろう。

 

昨日からずっと悩んでる。

 

クローゼットを前にしても今だに決まらない。

 

おしゃれをしたって普段の私を知ってる彼なら引きかねない。

 

だからって普段着ってのもなぁ。

 

……まぁ、何にも言わないだろうけど。

 

それよりも早く用意することのほうが大事なんだけど。

 

約束の19時まであと10分。

 

正直、完璧に間に合わない。

 

何たって彼は完璧を目指す完璧主義者。

 

ほら、携帯が鳴り出した。

 

 彼女の部屋のすぐ向かいの公園には、約束の10分前には着いた。

 

どうせまだ彼女は来ない。

 

とりあえず電話を入れておく。

 

『ごめん。ちょっと待ってて。10分、いや15分』

 

「……わかった。暖かい格好しておいで。外は寒いから」

 

 予想通りの彼女の言い訳に思わず苦笑する。

 

全く、彼女らしい。

 

 公園入口の自販機でホットの缶コーヒーを2本買い、1本はポケットに、もう1本に口を付けて手近のベンチに座る。

 

ポケットから煙草を取り出してくわえ、火を着ける。

 

彼女がここへ来るまでのしばしの時間を楽しもう。

 

そして僕の想いを彼女に伝えるための心の準備を。

 

 

 あぁ、やっぱり見抜かれてる。

 

相変わらず察しのいい奴。

 

急がなきゃ。

 

 手近にあったチェックのシャツチュニックにスキニーなパンツを合わせて。

 

ブルゾンを羽織る。

 

携帯と部屋の鍵を手に、ブーツを履く間ももどかしい。

 

階段を転げるように降りた先には、煙草を燻らせる彼がいた。

 

あたしの姿を見つけた途端、柔らかく微笑んだ彼が。

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