*71 仕度
洗った髪を乾かすのももどかしい。
ざっとタオルドライして、ぐしゃっと掻き上げる。
パソコンと徹夜で酷使した眼にはコンタクトじゃなく、眼鏡を。
洗面所の鏡に映る、寝て起きても取れない目の下の隈にはこの際目をつぶろう。
濃紺の細身のデニムに、ボーダーのパーカーを。
普段使いの腕時計を付けて。
昨日、電話で告げられた約束の時間までは後少し。
財布と携帯電話を手に家を出る。
どうせ彼女は時間に遅れてくるんだろうななんて思いながら。
想像はついてるのに、結局僕は急いでる。
吐く息は白く、宙に舞って消えた。
──何を着たらいいんだろう。
昨日からずっと悩んでる。
クローゼットを前にしても今だに決まらない。
おしゃれをしたって普段の私を知ってる彼なら引きかねない。
だからって普段着ってのもなぁ。
……まぁ、何にも言わないだろうけど。
それよりも早く用意することのほうが大事なんだけど。
約束の19時まであと10分。
正直、完璧に間に合わない。
何たって彼は完璧を目指す完璧主義者。
ほら、携帯が鳴り出した。
彼女の部屋のすぐ向かいの公園には、約束の10分前には着いた。
どうせまだ彼女は来ない。
とりあえず電話を入れておく。
『ごめん。ちょっと待ってて。10分、いや15分』
「……わかった。暖かい格好しておいで。外は寒いから」
予想通りの彼女の言い訳に思わず苦笑する。
全く、彼女らしい。
公園入口の自販機でホットの缶コーヒーを2本買い、1本はポケットに、もう1本に口を付けて手近のベンチに座る。
ポケットから煙草を取り出してくわえ、火を着ける。
彼女がここへ来るまでのしばしの時間を楽しもう。
そして僕の想いを彼女に伝えるための心の準備を。
あぁ、やっぱり見抜かれてる。
相変わらず察しのいい奴。
急がなきゃ。
手近にあったチェックのシャツチュニックにスキニーなパンツを合わせて。
ブルゾンを羽織る。
携帯と部屋の鍵を手に、ブーツを履く間ももどかしい。
階段を転げるように降りた先には、煙草を燻らせる彼がいた。
あたしの姿を見つけた途端、柔らかく微笑んだ彼が。




