*65 自己完結
──市田なんて嫌いだっ。
カフェテラスを後にしたあたしは、行くあてもなくとぼとぼと大学構内を歩く。
12月になって気温も低くなった吹きさらしの構内を、のんびり歩く物好きはあたしくらいのものらしい。
始めは彼への怒りで前に進んでいたのが、頭が冷えてきたのか次第に違う事を考えるようになる。
なんか、凄く寂しいし、寒いし。
──でも、行く所がない。
研究室にいるといずれは市田に会わなくちゃならないから、行きたくない。
でも、他の友達も研究室に篭りっきりだったりで暇な奴なんかいない。
行ける所なんて、なかった。
いつの間にか、自分の居場所が彼の側ばかりになってしまっていたことが悔しい。
──……嫌われたかな。嫌われたよね。
声を掛けた時の困惑したような表情。
眉を寄せた不快そうな顔。
そればかりが思い浮かぶ。
──声なんて掛けなければ良かった。
見て見ぬ振りをしてれば良かった。
そしたら、こんな気持ちにならないで済んだだろうか?
結局、研究室には顔を出さないで自宅に戻った。
研究室に来ないのを心配した森田さん(M1)からメールが来たけど、体調が悪いからと返しておいた。
これで、しばらくは時間が稼げるだろう。
この卒業論文の締め切りが間近に迫った時期に、と言われてしまうとちょっと痛いけど。
帰宅途中にあたしが出した結論は、しばらくは研究室に顔を出さないことだった。
勿論、理由は彼に会いたくないから。
なんて馬鹿な理由だろうと、自分でも思う。
だけど、会うのが恐い。
また、拒否されたら。
そう思うと足がすくんで しまった。
幸い、卒業論文はデータ集めはほぼ終わっていて、草案もほぼOKが出ているから、あとはまとめなおすだけ。
(あたしが締め切りに間に合うことがすでに奇跡で、これは保田先生のおかげ)
それなら、自宅のノートブックでもなんとかなる。
チェックや提出は直接、保田先生の所に出向けばいい。
篭る条件はそろってしまった。
篭ったって何の解決にもならないのはわかってるけど。




