*63 決別
市田が朝倉君の妹達と会っている頃、あたしは他学部の友人達と大学内のカフェテラスでお茶をしていた。
「え? 彼氏と同棲始めたの?」
「うん。大学出たら結婚するつもりだし、丁度いいかなって」
女の子が集まると、自然と会話は恋話になる。
もっとも、あたしは彼氏はいないし、市田のことも庸さんのことも話せる訳もなく。
──……正直、つまらん。
久々の誘いにのったはいいものの、つまらなかった。
この友人達の中には、あたしのように大学に残る者はいない。
どうしても、会話は卒業後のことに向かって行く。
──これだったら、研究室にいた方が楽しかったかも。
誘いに乗ったことを後悔しはじめた。
「……あ」
レモンスカッシュのストローを口にくわえたまま、カフェテラスの入口に目を向けた時だった。
女の子を連れた市田が店内に入って来たのは。
「なっちゃん? どうかした?」
「あ、なんでもないよ」
そう答えるものの、内心は穏やかじゃぁない。
──なんで? 女の子3人も連れて?
3人の女の子のうちの一人は親しげに彼の隣を歩いている。
他の2人はその後ろを歩いている。
──市田に女の子の友達なんて……。
あたしの知る限り、そんな親しい子はいないはず、だった。
「なっちゃん、垂れてるよ」
「……あ、ごめん」
ストローの先からぽたぽたとレモンスカッシュが垂れているのを指摘されてしまった。
市田達は空いているテーブルを奥の方に見つけたらしく、そちらに向かって歩いていく。
「ちょっとごめん」
友人達に一言断って立ち上がる。
「佐伯、どした?」
「友達、見つけたから。ちょっと行ってくる」
そう言い置いて、市田達が向かった方へ向かう。
これは嫉妬か。
それとも、ただの興味か。
どっちにしても、あんまり良い趣味ではない。
あたしはそれを知ってどうするつもりなんだろう?
テーブルについてる市田達の様子を伺う。
やっぱり親しく話しをしているのは隣を歩いていた彼女で、他の二人はどこか一歩引いている。
だが、その二人だって満更ではなさそう。
意を決して、市田の背後からその肩に触れる。
触れた途端、指先の向こうで肩が跳ねる。
「……佐伯」
振り返った彼の表情は困惑していた。
……なんだか、その表情に悲しくなる。
ここにあたしがいては良くなかったのだろうか。
それとも、あたしに見られてはまずかった?
「見掛けたから。……彼女?」
先の彼の表情からそう推測する。
途端、彼が眉を寄せる。
……まずった、と思った。
「……違うよ。君には関係ない」
冷たい声色。
普段あたしに対してこんな声を出したりはしない。
明らかな拒絶。
そんな彼の様子に、あたしの嫉妬だったり興味だったりという気持ちは音を立てて萎んで行く。
それでも、口を開く。
……自分がここを立ち去るきっかけを作るために。
正直、もう市田とやり合うだけの気力なんてなかったが。
本当はいますぐにでもここから逃げたい。
でも、それはなんだか嫌だった。
「……関係ないって」
声のトーンを若干落とす。
「だってそうだろう? 僕が誰と会ってようと君に詮索される理由がない。大体、いきなり彼女か? なんて失礼じゃないか?」
「市田先輩っ」
市田の隣に座っていた女性が彼の腕を引く。
明らかに険悪な空気に戸惑っている。
彼女は、女のあたしから見ても可愛い。
背も小さくて、パーツのひとつひとつが女の子らしくて、優しくて。
それでいて、芯の強そうな子。
……あたしとは大違いだ。
中途半端に背が高くて(身長163cm)、ガラもあんまり良くなくて、性格もこんな捻くれてるあたしとは。
そーか。
市田はこういう子が好きなのか。
「見掛けたから声を掛けたら駄目? 女の子といたから『彼女?』って尋くくらい、普通の範疇でしょ? 確かに、市田が言うところの下世話なことかも知れないけどねぇ?」
『君には関係ない』と言われたことがショックだった。
それはあたしにとっての存在の否定だ。
あたしは市田の何なんだ!?
友達以上恋人未満?
それでもって体の関係はある?
それじゃ、ただの……。
「関係ないってんなら、ご自由に。あたしはもうあんたに関わらないから」
市田との決別。
ずっと抱えてた不安や悩み。
それが口をついて出てしまった。
「……あぁ」
あたしに対しての彼の返事は短くて。
そう言った彼の顔には表情はなかった。
ただ、目だけはあたしを射るように見ていた。




