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*50 過去と今

 思考が巡って酔っているのに眠れない。


明かりのない居間でしょうもない思考を片付ける。


やっと眠気が訪れたのは、空が白み始めた頃だった。


 目が覚めたのは昼過ぎのことだ。


なんだか、昨日から寝過ぎているような気がする。


たまにはいいか、で片付けておくことにする。


 昨日の柴崎くんの中華料理の残りで簡単に食事を取り、ガレージから車を引っ張り出す。


免許は大分前に取ってるので問題はない。


「……とりあえずディーラーかな」


 なにせ、もう1年は動かしていない。


その1年前というのも車検の為だけだ。


このまま走るのは不安過ぎる。


ガソリンもないけど。

 

 ディーラーで車の点検を頼み、本日最初のコーヒーにありつく。


ディーラーで出されたものだ。


 新車のカタログを眺めながらコーヒーを啜り、煙草に火を着ける。


よく同時に複数の動作が出来るな、と気付き、つい口許が緩む。


ディーラーの事務の女性が目を逸らしたあたり、余程おかしく見えたのだろう。


 煙草を一本吸ってコーヒーを飲み終える頃には車の点検は終わっていた。


何故か洗車までされていて埃まみれだったのが艶やかになっている。


「特に問題はありませんでしたよ。オイルの交換と洗車だけさせていただきました」


 そう言う営業マンに支払いのためにクレジットカードを渡す。


持ってきた伝票にサインをして返す。

 

「いやぁ、いい車ですねぇ。久々に見ましたよ、この車。大事に乗ってますねぇ」


「そうですか?」


 運転席に乗り込みシートベルトを締めて発進させる。


途中ガソリンスタンドに寄って、しばらく振りの運転を楽しんだ。


といっても街中をうろうろと。


知っている場所を確かめるように。


この数年の間に大分変わっていることに驚いた。


僕がこの街を離れているうちに知らない所が増えていくんだろうな、なんて。


 ショッピングセンターで買い物をして自宅に戻ったのは夕方だった。


買ってきたもののうち、食料だけを冷蔵庫にしまい、シャワーを浴びることにする。

 

 熱めのシャワーで頭をすっきりさせて、缶ビール片手に縁側(と言っていいのか?)に出る。


縁側には庭に続くウッドデッキが続く。


両親の生前、母のために父と僕が作ってあげたものだ。


母はガーデニングを趣味にしていたので、その庭に合うよう僕が設計し、父と木を切り出して作った。


 綺麗に刈られた芝に、伸び放題だがなんとなく趣のある草木に、涼しくなった風が吹き抜ける。


風が洗いざらしの僕の髪を吹き上げる。


 ……なんとなくそこに両親が居るような気がした。


もちろんいるわけはないのだけど。


「……やっと帰ってこれたよ」


 そう、呟く。

 

 大学に入学してから今まで、自宅に一度も帰ってきていなかった。


正しくは帰ってこれなかった。


 高校3年の3月に両親を一度に失った。


自分ではあまり感じてはいなかったが、それは相当自分にストレスを与えていたらしい。


眠れない。


食べられない。


大学には合格したものの、とてもじゃないが新生活を始めるどころではなかった。


そうして、僕はここを出た。


ここの管理の全てを管理会社に押し付けて。


いっそ、この家を売ってしまおうかとも思ったが、それは出来なかった。


ここは両親の家なんだ。


ただの感傷だったのかもしれない。


だが、そう自覚してしまったら、売却するなんて出来なかった。

 

 それからは何かと理由を付けて帰ってくることを拒んだ。


両親の死が受け入れられなかったのではない。


ただ、帰れなかった。


「今回だけは佐伯に感謝しないとな」


 佐伯がいなかったら帰ってくることはなかっただろう。


振り回されるのも悪いことばかりではないな。


そう考えたら口許が緩む。


まぁ、お互いに振り回し合ってるんだろうけどな。


きっと、彼女も同じことを考えるだろう。


 そのとき、母が植えた庭木の向こうに人が見えた気がした。


すぐそこは道路なのだから人が通ってもおかしくはない。


見えた姿に見覚えがあったのが問題だった。


「……っ佐伯?」


「市田!!」


 僕は裸足のまま、庭に飛び降りた。

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