*49 澱む心
それから夜中まで飲んで柴崎くんは帰っていった。
「……俺が言うのもなんだけどよ。考え過ぎんな? お前はいつも考え過ぎなんだよ」
去り際にそんなことを言いながら大きく手を振る。
久々の親友(?)との邂逅はそれなりに良いものだった。
そう思う反対で柴崎くんの言葉が反すうされる。
『明日、見合いするんだとよ。あの二人』
『庸さんが佐伯のこと気に入ってたらしくて』
『あの人はあれで本気だぜ? 本気で佐伯との事を考えてる』
『……さっさと告っちまえよ。そしたらこんなこともなくなるだろーが』
柴崎くんの言葉がいちいち刺さる。
痛い。
酔って上手く回らない思考回路にさえ、彼の言葉はシンプルで攻撃的だ。
彼にとっては何気ない言葉なんだろうけど。
ぐるぐると思考は巡る。
考えろとばかりに。
するのは後悔ばかり。
回った酔いに思考に、居間の床に膝を着く。
「……情けねぇ」
柴崎くんの言う通りなんだ。
いつまでもはっきりさせない僕が悪い。
彼女の心が僕に向かっているのを知っていたくせに。
自分に自信がないから。
自分の傲慢さから目を逸らしたいから。
失うことが恐いから。
なんだかんだと理由を付けて約束することをかわしてきた。
そのことが傲慢だというのに。
一度でも彼女の為に一生懸命になっただろうか?
一度でも自分をかなぐり捨て彼女に向き合っただろうか?
……多分、ない。
自分を捨ててまで欲しいと望まなかった僕への罰がこの不安なのか。
だとしたらそれはかなり効果的だ。
その証拠にこんなにも不安に苛まれてる。
こんなにも些細な事で彼女を失ってしまうかもりれないという不安に押し潰されてしまいそう。
自業自得というべきか。
全てははっきりした答えを出さない自分のせい。
本当ならもっと早く、そう互いの気持ちが解った時に関係をはっきりさせなければいけなかった。
だが、自分が彼女を掴まえてしまっていいものなのかわからない。
僕一人に縛って、束縛してしまっていいものなのか?
彼女は僕のものではなく、彼女自身のものだというのに。
僕はとても醜い人間だ。
表面は穏やかでも、心の奥底ではドロドロとした感情や欲望が澱のように留まっている。
それは決して表に出すことはないだろう。
とても人に見せられたものではないからだ。
想いをはっきりとさせない僕は、非道いと言われても返す言葉もない。
……言われたら?
多分、『そっか』と言って苦笑するだろう。
今までそうやってはぐらかせて生きてきたんだ。
これからもきっとそうだ。
本心を隠して生きていく為に身につけた術だから。
本心を、本性をありのままに生きていたら、きっと生きては行けない。
もし思う通りにしていたら、彼女を掴まえてこの腕の中に閉じ込めてしまうだろう。
誘拐犯が自らの欲望の為に少女を監禁するように。
そんな狂気ともとれる欲望を望む僕がいる。
そして、時々そうしてしまいたい衝動に駆られる。
──僕は狂っているのかもしれない。
衝動を押し殺して、いい人を演じる底でくすぶる暗い感情。
装う自然体が嘘っぽくて、苦しくて窒息してしまいそうだ。
それでも嫌われたくなくて、また彼女の理想の人間を演じてしまう。
こんなにも醜い俺に君は気付いてる?
自分を演じて偽ってまで側にいたい僕を。
隙あらば、伸ばしてしまいたい左腕に気付いてる?
──俺は狂ってる?




