*46 呟き
自宅に戻っても当たり前だが、誰もいなかった。
「ただいま」
もう一度呟くように言って、家に上がる。
不動産屋に頼んであった通りにハウスクリーニングも入ってあり綺麗にされていた。
家具もそのままに人だけがいない。
居間のソファにショルダーバッグを投げやり、自らもそこに腰を下ろす。
3年半振りの我が家。
大学に入ってから一度も帰ってなかった。
誰も待つ人のいない家に帰ったって仕方ない。
そんなに風に思っていたから。
いざ、一人になってみると佐伯家の賑やかな雰囲気が懐かしく感じた。
自分には4年半も前に失われてしまったもののせいかもしれない。
賑やかな所が苦手で、一人でも寂しいとかんじたことはあまりない。
それでも佐伯と別れた後なんかは寂寥感に襲われる。
歳を取った証拠なのか、それとも自分がそうは思っていてもそれに憧れているということなのか。
だが、自分の将来さえ見えない現状。
現実を受け入れろ。
何か飲みたいな。
そう思って冷蔵庫を開けたが何もあるわけもない。
それどころか電源すら入っていない。
とりあえずコンセントを差しておく。
ため息をひとつ。
「何か、買いに行くか」
飲み物どころか食料もない。
そういえば、自宅を出た際に片付けていったんだっけか。
仕方ないので財布と鍵を手に家を出る。
昼下がりの住宅街。
歩く人の影もない。
そういえば昼ご飯すら食べていない。
ガレージの車を出そうかと思ったが、それほどの距離でもない。
とりあえず近所のコンビニへ向かう。
普段は滅多にコンビニで弁当なんて買わない。
精々、飲み物やパンなんかがいいところ。
それに慣れると自炊も結構楽なのだ。
「いらっしゃいませー」
自動ドアを潜ると、寒くなる程の冷気に包まれる。
高校生のアルバイトらしい店員の彼女は寒くはないのかな、なんて余計なことを思う。
買い物かごを手に取り、飲み物なんかを放り込む。
ビールを2、3本。
滅多にビールは飲まないが、たまにはいいだろう。
買い物袋いっぱいの買い物をしてコンビニを出る。
……何を買ったというわけではないのだけど。
当座の必要な物を買ったらこうなってしまった。
来た道を戻る。
コンビニの中の冷気が恋しいほどの暑さにさらされながら。
……俺、何しに帰ってきたんだろ……?
佐伯に付き合って帰ってきたのはいいが、何もすることはない。
ただ、時間を持て余しているだけだ。
これだったら連休の間中、あのワンルームのアパートに篭っていた方がましだったのではないか。
しかし、どっちにしても篭るという選択枝のあるあたりが若い発想ではない。
なんて、自嘲してみる。




