*47 頭痛の種
家に戻って買ってきた物をあるべき場所にしまい、ようやく昼食にありつく。
コンビニで買ったパスタは好みの味ではなかった。
それをちょっと不満に思いながらも残さず食べる自分は何なのか。
一人でいるとどうも理屈っぽくてダメだ。
空になった容器をキッチンのシンクに放り込み、再び居間のソファに座る。
静かになった自宅に時計の秒針の微かな音が響く。
その音に耳を澄ませながら考えることに耽る。
……明日は何しよう?
佐伯家を出てきた手前、こちらから誘ったりするのは難しい。
かと言って、数少ない友人達はこんな中途半端な時期に故郷に帰ってきてはいないだろう。
地元にいるのは柴崎夫婦くらいか。
……新婚宅に邪魔はしたくないなぁ……。
自分の人付き合いの下手さ加減が今の事態になっているのは承知しているが、こうも友人が少ないと言うのは……なんだか情けない。
3人は楽に座れるソファに横になり足を投げ出す。
片手でクッションの一つを掴み、頭の下に入れる。
足がソファから余るが、この際諦める。
特別することも浮かばず、ただ考えを巡らすうちに自然と瞼が重くなってくる。
自分の回りに漂う程よく心地好い空気と、秒針の音、それに自宅の雰囲気が眠気を誘った。
……最近寝不足だったからなぁ。
……そういや、佐伯の言いかけていたことってなんだったんだろ。
……まぁ、今は、いいか。
そして意識を手放した。
どのくらい寝ていたのだろうか。
というか、いつの間に寝たんだ、僕は!?
薄く開けた瞼に薄暗くなった部屋が映る。
今は何時なんだろう。
夕方なのは間違いない。
こんなはずではなかったのに。
寝過ぎて痛い頭を堪えるように手をやったところで、キッチンに明かりが着いていることに気付く。
それに人の気配も。
……誰?
この家には僕しかいない。
まさか佐伯というのはは有り得ない。
(彼女は僕の家なんて知らないはずなのだ)
なら、今キッチンにいるのは誰だ?
武器の代わりに側にあるクッションを掴む。
生憎、こんなものしかなかった。
そして、足音を忍ばせてキッチンへと近付き、戸口の陰から中の様子を伺う。
そこから見えた後ろ姿は男性だった。
僕より筋肉の付いた太い日焼けした腕がTシャツの袖から覗く。
赤い燃えるような長髪をまとめたポニーテール。
その後ろ姿は……楽しそうに鼻歌を熱唱しながら料理をしていた。
「……柴崎、くん!?」
「あ、起きたのか、市田」
振り返った柴崎くんはご丁寧にエプロンまでしていた。
彼にとって最高だろう笑顔を浮かべて。
お約束のお玉も片手に携えて。
「鍵開いてたぞ~。珍しいな。お前が鍵を忘れるなんてさ」
「だからって勝手に入るのはどうかと思うけど。……なんでいるのさ?」
僕がこの連休に帰ってきていることを知っているのは、佐伯だけのはず。
誰にも知らせた覚えはない。
「佐伯から電話が来たんだよ。水くせーな、電話もしないなんてよ」
「佐伯が?」
「……おー。お前が自宅に戻ってるから遊びに行ってやってくれってさ」
一品出来たらしく、勝手知ったるなんとやらで勝手に皿を出してきて盛りつけている。
……なんで大皿閉まってある場所知ってるんだよ。
ダイニングセットの上にはいつの間にか数品の料理が並んでいる。
みたところ、中華料理のフルコースのようだった。
「そういえば、柴崎くん」
「あ?」
中華鍋に油を足しながら返事をしている。
まだ増やす気か。
「なんで僕の家で料理してるのさ」
「そりゃ、たまにはお前と飲もうと思ったからだよ」
そう言って彼はニヤリ、と悪そうな顔で笑った。




