*45 気持ちの問題
庸さんは約束通り、自宅まで送ってくれた。
去り際に連絡先を交換し、
「返事は急がない。何かあったら連絡して欲しい」
との言葉を残して。
自宅では母が待ち構えていた。
事の首尾を聞くためだろう。
「おかえり。どうだった?」
「お付き合いを申し込まれた。連絡先交換したよ」
母に手伝ってもらい、帯をといて振袖を脱ぐ。
一刻も早くこの堅苦しさから逃れたかった。
「早速? あの方、いい方ね~。あ、市田君もいい子だけど」
母は庸さんも市田も気に入ったらしい。
市田に対する態度はなんだったんだ。
少しだけ、母を横目で見る。
「あいつ、あれでも遺産相続してるから財産あるよ。……疲れたから寝てくるわ」
まだ根掘り葉掘り聞きたい母を放り出して、自室へ向かう。
母ではあるが、正直ついていけない。
ベッドの上に横になる。
「庸さんは本気なんだろうなぁ」
あの人は冗談なんかであんなことは言わない。
超弩級のシスコン(そこにこだわる・汗)だけど、それはあの人が凄く妹を大切にしてるということで。
それくらい真面目で誠実な人なのだ。
ましてや、冗談を言っているところなんて見たこともない。
反対に人から冗談を言われて、理解しようと真面目に考え混んでいる所を見かけたことさえある。
(実は天然のようだ)
あちらがその気ならば、あたしも真剣に考えなくてはならない。
急がない、とは言ったが、あまり待たせてもいけない。
「どのみち断らなくちゃ」
あたしは今結婚するつもりはない。
大学院を出てから先のことは全く考えてはいないが、当分結婚はないだろう。
少なくとも自分の人生の基盤をしっかり固めてからの話になってしまうだろう。
でも、お断りってどうしたらいいんだろ。
ただ告白されて断るのとは訳が違う。
普通の見合いならば仲介者にお願いすればいいのだろうが、庸さん相手ではそうはいかない。
あの人相手にいい加減なことは出来ない。
ちゃんと自分で断らなくてはいけないのだ。
……あぁ、彼に会いたい。
彼ならば、きっとあたしの話を聞いてくれるに違いない。
以前聞いたことのある住所を頼りに、市田の家を探す。
大体の場所はわかるが、あの辺りは住宅街だ。
たどり着くのも難しい。
「暗くなってきたなぁ」
振り返ればすでに茜空。
太陽はほとんど沈んでしまっている。
もうすぐ真っ暗になってしまうだろう。
その前に市田の家を見つけなければ。
いざとなったら電話して迎えに来てもらおう。
──すでに迎えに来てもらった方がいいのでは?
なんとなく、市田に連絡はまだしたくなかった。
自分で彼の元へ行きたいのだ。
そりゃあ、電話をして『迎えに来て』と言えば彼はすぐにでも来てくれるだろう。
だが、それでは駄目なのだ。
あたしが彼の側に行きたいのだから。




