*37 カレー
ゼミ旅行2日目は午後から皆で動物園に行った。
そこは近年、来場者数がうなぎ登りに増えている話題の場所。
お盆休みを外してはいるが、夏休みの真っ只中でまずまずの混み具合だった。
「市田ー、写真、写真!」
……いつの間にか写真係に任命されていた。
嫌いじゃないからいいのだが、こう事あるごとに呼ばれると僕が見る暇がない。
文句を言うことも適わず、借りたデジカメのシャッターを切る。
「市田、食うか?」
博士課程1年(D1)の千草さんがソフトクリームを差し出してくれた。
「いただきます」
有り難く頂戴して食べる。
暑いから冷たいものが欲しかったのだ。
「あいつらもひでーな」
千草さんが苦笑しながら、僕を写真係に使っている彼等を見る。
いつもの如くいつものメンバーなのは言うまでもない。
「あ~、もういつものことですから」
「人良すぎ。俺ならキレるよ。いーかげんにしろーってな」
……僕だってそう思わなくもないんですがね。
まぁいいか、で自己完結してしまっている。
惚れた弱みってのもなくはないけど。
「まぁ、程々にしておけよ。あんまり合わせてやるとあいつら、付け上がるからな?」
「……はい」
千草さんは、自身が食べ終えたソフトクリームのゴミをくず籠に放り込んだ。
「今日はカレー! 絶対にカレー!」
動物園からの帰り。
唐突にそんなことを主張しだしたのは樋田さん。
それに森田さんや佐伯までが乗っかっている状態だ。
「……それはいいんですが、自分で作れるんですか?」
僕の記憶では3人とも料理が出来ないはずだ。
「カレー作れる人!」
挙手したのは3人+1人を除く全員。
留学生の李さんはカレー自体作ったことがないと言う。
要するに挙手した全員が男性ばかり。
……どうなってるんだ、これ。
「これだけいればなんとかなるよな? 材料買いにいこー!」
言い出しっぺの(カレー作れない)樋田さんが張り切っていた。
カレーの材料を買いに行ったスーパーでは大騒ぎだった。
「カレーはひき肉でしょ!?」
「いや、牛肉だって」
「俺はチキンがいー」
「樋田さん! カレーにゴーヤは要りませんって!」
「そこ! カゴにお菓子入れない!!」
……もう、沢山だ。
なんとか材料を買ってペンションに戻る。
ちなみにカレーの題名は『夏バテ解消☆男の夏野菜カレー』だそうだ。(樋田さん命名)
ペンションについて早々に調理を始める。
何しろ13人分だ。
人数分だと明らかに足りないので20人前を作る。
果してどうなることやら。
まともなものが出来ることを願う。
料理の出来ない樋田さん・森田さん・佐伯、そして李さんには、ナスなんかを切って貰うことにした。
皮をむいたりするなど怖くて任せられない。
「んじゃ、やりますか」
他の先輩方と調理を始める。
材料を炒めたりなど一人で出来る量ではない。
「市田、手ぇ切った~」
「うるさい。舐めときなさい」
「市田ぁ、切るの飽きたぁ」
「……それくらいで飽きるなよ」
……頭を抱えたくなる。
包丁で手を切ったという佐伯に絆創膏を貼ってやる。
「野菜も切れないのか、君は?」
「そんなことないもん。たまたまだもん」
そう言って頬を膨らませる。
指先を切る時点でおかしいから、それ。
つい、ため息をついてしまう。
「お前ら、仲いいよな~? っつか、もう夫婦の域?」
「あ~、言えてる。佐伯が亭主で市田が女房な?」
近くにいた先輩方に囃される。
ってか、なんで役割が逆なんだよ。
「いや、以前『嫁に来い』ってプロポーズしたんですけどね? 見事に瞬殺でした」
佐伯も調子に乗って答える始末。
「佐伯、もういいからあっちで遊んでなさい」
少し遠くで離れて様子を伺っているメープル(ペンションの飼い犬)を指差す。
「え? 材料は?」
「もういいから、あっちに行ってなさい」
これ以上、余計なことを話されてはたまらない。
佐伯は渋々といったようにメープルの方へ歩いて行った。
その日のカレーは、その後邪魔が入らなかったせいか、まずまずの出来だった。




