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*34 散策

 皆で連れ立って近所の庭園とやらに向かう。


歩いて10分程度で着く。


間に建物なんてさほどもなく、距離はともかく近所であるのは確かだ。


 庭園は元々造園会社の持ち物で、輸入した樹木を見本林として植えたのが始めで、ついでに庭園として整備してしまったのだ。


社長の趣味なのだろうが、10年も掛けて日本で五指に入るほどの庭園を作りあげてしまったのは凄い執念だ。


今では庭園内に喫茶店もあるし、勿論花の苗なども購入することも出来る。


 僕らはいくらかの入場料を払って中に入った。


「凄いね、ここ」


 佐伯がパンフレットを貰い、案内板を見て感嘆の声を揚げる。


皆、佐伯のように声は挙げないが同じことを思っているのは確かだ。

 

「んじゃ、5時にここで集合ってことでよろしく」


 樋田さんが仕切って、銘々に散策に出る。


僕の側には何故か、佐伯と糸屋、森田さんと樋田さんが残った。


「さぁ、市田。どこに行く?」


「ってか、俺は地図変わりですか!?」


「いや、だって、得意そうじゃん」


 ……苦手ではないけどさ。


そう思ったが口には出さないでおく。


「このまま、奥まで行って見ながら戻ってきたらいいんじゃないですか?」


 案内板を見上げていた糸屋が言う。


「だね。喫茶店も入口側だから戻ってきた時にお茶するのが良いのかも」


「ってな訳で、行くよ!」


 森田さんが両手に樋田さんと糸屋君を掴んでずんずんと歩きだした。

 

「えええ!? 俺は佐伯さんがぁっ」


「文句言うなっ」


 森田さんの非情な行動に糸屋君が訴えるも、森田さんに一喝される。


……あー、ちょっと可哀相かも。


「いこ? 市田?」


「……うん」


 こちらは手を繋ぐこともなく、並んで歩く。


先の3人は既に結構離れている。


ぎゃあぎゃあ騒がしいからどこにいてもわかるのだが。


「市田、笑ってる」


「え?」


 佐伯に指摘されて初めて気が付いた。


つい口元が緩んでいたようだ。


「多少なりとも楽しんでるんだね」


「……それ、どういう意味さ」


「ん~、なんかさ。来る途中とか面倒臭そうだったからさ。来るの嫌だったのかなって」


「そんなことはないんだけどな」

 

 そりゃ、多少は面倒だと思わなかった訳ではないけれど、高校の修学旅行以来の団体の旅行だ。


楽しみにしていなかった訳ではない。


「そっか? なら、いいんだ」


 そう言って佐伯が笑う。


そして僕の手を握った。


「いこ? 皆のとこ」


「……うん」


 もう姿が見えなくなってしまった3人を追いかけた。


「あ~!! 手ぇ繋いでる!!」


 バラ園に差し掛かった時に糸屋に叫ばれた。


バラ園で待っていたらしい。


森田さんは木材で出来たブランコに乗り、樋田さんに押してもらっている。


この人達、僕より年上なんだよな?


「佐伯さんずるい!! 市田さんばっかり! 俺だって佐伯さんと手ぇ繋ぎたい!」

 

「はいはい」


 佐伯の手が離れる。


そして佐伯の手には糸屋君の手が。


 離された手が寒かった。


欲を言えば、もう少し繋いでいたかった。


そんなことは言えないけど。


ただ、じぃっと離された手の平を見る。


「あいつのはしゃぎ様は凄ぇな。あれで3回生なんだよな」


 樋田さんが僕の隣に座って言う。


……あんたが言うか。


「……わかりやすいですからね、彼は」


「あれは素直って言うのかな。ガキっぽいとも言うけど」


 そう言って樋田さんは煙草をくわえて火を着けた。


片手には携帯灰皿。


いるか?と僕にも奨めて来るのを、首を振って断った。

 

「……お前もわかりやすい方だと思うんだけどなぁ」


 知らぬは本人ばかりか。


ブランコに乗り、糸屋君に押してもらっている佐伯に目を遣る。


 あれはあれで似合いなんじゃないか。


自分にはない無邪気さが彼にはある。


彼は自分のように一歩引いて見ているということはない。


なんでも全力で当たっていく。


どっちが良いか、なんてわからないが。

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