*33 発表
蓮見先生によく似た男性は白い歯を見せるようににかっと笑う。
「いらっしゃ~い。待ってたよ~。しっかし、相変わらずだねぇ、動物全般に好かれるのは」
「……あ~、いいからよけてもらえないだろうか」
蓮見先生本人は未だメープルと呼ばれた犬の下敷きだったのだ。
余程好かれているのか、顔中舐められたようだ。
「あはは、ごめんごめん。おいで、メープル」
飼い主に呼ばれた犬は、残念そうに蓮見先生を振り返りながら戻っていく。
「……あ~、彼はこのペンションのオーナーで、僕の双子の弟です」
「弟の蓮見友尚でーす。一応、絵描きだったりしま~す」
……ノリがおかしい。
蓮見先生も頭が痛い(精神的な意味で)のか額に手をやっている。
空気を読んだらしい樋田さんが、
「それじゃ、みんな」
と、音頭を取り、『よろしくお願いします』と頭を下げた。
蓮見先生の弟さんはそれを聞いてウンウンと頷くと、
「いやぁ、皆礼儀正しいなぁ。いい事だ、うん。皆、お昼まだなんでしょ? 軽食だけど用意してあるから、荷物片付けたら食堂に降りておいで」
何人かが『はぁい』と返事をする。
弟さんはそれで満足したらしく、犬を連れて建物の中へ入っていった。
……やっぱり、あの人ノリおかしい……。
「え~と、気を取り直して部屋割を発表するぞ」
樋田さんがルーズリーフを開いて読み上げる。
女性陣と蓮見先生、それから何故か僕と糸屋君が3階に、他の男性陣は2階になっていた。
しかも、僕と糸屋君は同じ部屋。(これは仕方ないか)
「蓮見先生はいいとして、なんで、市田と糸屋は女子と同じ階なんだ?」
男性陣から出たそんな声に対して、樋田さんはこともなげに言った。
「だって、こいつら安全だろ? 襲うような度量はねぇもん。むしろ、襲われてそう……」
「だ、れ、が、襲うってぇ?」
「お前」
名指しされた森田さんが殴りかかるが、樋田さんはかわす。
そんな攻防戦がしばらく繰り広げられた。
荷物を割り振られた部屋に置き、1階の食堂に降りる。
「市田、こっちこっち」
窓際に据えられたカウンターに佐伯が座っていた。
佐伯は既に用意されたサンドウィッチにかぶりついている。
「もう食べてるの?」
「お腹減ったんだもん」
「……いーけどね」
コーヒーを貰ってから、佐伯の隣の席に座った。
メンバー全員が揃ったのを見計らって樋田さんが立ち上がった。
「んじゃ、始めるぞ」
注意事項の説明から始まった。
大浴場は10時まで、とか、出掛ける時は連絡が取れるように、とか、そういうことだ。
「今から夕方までは自由行動ってことで。近くの庭園散策するもよし、ドライブとかするもよし。動物園は明日行く予定だからやめておけ。街中まで出るのも、明後日時間やるから却下。18時までに帰って来れるならどこに行ってもいい。遅れたら……メシ抜きな?」
「先生、他に何かありますか?」
「とくにないよ。あんまり、ハメ外すなよ、とだけ」
蓮見先生の言葉で解散となった。
皆立ち上がり数人でまとまって話をしている。
どこへ行くかの相談をしているのだろう。
「市田はどうする?」
サンドウィッチを食べ終えた佐伯が話し掛けてくる。
「どうしようかなぁ」
「俺、庭園散策がいい」
割り込んで来たのは樋田さんだ。
「庭園かぁ」
「散策出来るほど凄いんですか?」
「日本庭園あり、イングリッシュガーデンありの、林もあり、ついでにフィールドアスレチックだぜ? 面白そうじゃん」
……どれだけ広いんだ?
樋田さんを疑う訳ではないが、想像が付かなかった。
しかし、本当ならもの凄い規模の庭園だ。
見て損はないだろう。
「凄いね。見てみたいな」
佐伯も同じ感想を持ったようだ。
「じゃ、聞いてみるか。庭園散策行きたい人!!」
ほぼ全員が挙手。
樋田さんの説明で興味を持ったらしい。
メンバーの中で唯一この街出身の高梨さんまでが挙手している。
「地元だから尚更行く機会なくってさ」
「まぁ、そんなもんだよな。小学校の遠足で行ったきり、とか」
「先生は、どうなさいますか?」
森田さんが先生を誘う。
「僕はいいよ。ちょっと休ませてもらう」
そう答えて、苦笑いしていた。




