*27 関係性
夕方6時、研究室。
今日はまだ何人かしか来ていない。
皆、バイトだの夕飯だのでまだ来ていないんだろう。
パソコンのキータッチの音がやけに耳に付く。
操作してるのは、市田。
「市田、うっさい」
「え? 僕?」
本人にしたらとんだとばっちりだろう。
「そんなうるさくしたつもりはないんだけどな」
「だってうるさいんだもん」
「そっか。ごめん。もう終わるから」
言いながらフラッシュメモリーを取り外す。
「あれ? もう帰るの?」
「ん、バイトだから」
電源を落とす。
カリカリというハードディスクの音の後、モニターの画面がブラックアウトする。
「そっか。何のバイト?」
「言ってなかったっけ? 法律事務所で事務のバイト」
市田らしい。
すごーく堅いバイト。
彼はPC処理が得意だ。
特に、和文の処理が。
私も同じくらい出来るとは思うけど、センスは彼の方が上だ。
「ふぅん。あんたらしい」
「あんたって何? やけに突っ掛かるね」
面白くなさそうに眉を寄せる。
「そんなことは」
「ふぅん? 実は寂しい、とか?」
「そんなこと、ない」
そう。
そんなことはないはずだ。
「ふぅん。まぁ、いいや。寂しくなったら電話して」
彼がデニムのトートバッグ片手に立ち上がる。
思わず座っていた椅子ごと体を引いてしまった。
ガコン、という音が研究室に響く。
「じゃ、また明日」
──電話していいの?
そんな一言は発することが出来ずに口の中で溶けた。
先日の件から万事がこんな感じ。
多少柔らかくはなっているかもしれない。
ちょっとした言葉や態度にそれを感じる。
──私と市田は付き合ってはいない。
この年になって、付き合う付き合わないと騒ぎ立てるつもりはないが、どうなんだろう?と不安にはなる。
彼に限って、一夜限りとか、遊びだとかは有り得ないだろうけど。
それだけに、このはっきりしない関係に苛つく。
──あたしってこんなに短気だったかなぁ。
こんなにもはっきりと言いたいことが言えない人間だったのだろうか?
「もう、今日は帰ろっか」
そんな誰にも聞こえないような一言でPCの電源を落とした。
腕時計を見る。
まだ6時半。
帰って寝るにしても、まだ早い時間だ。
それに帰って大人しく寝る気分でもない。
「……藤原くんとこでも行くか」
そう決めて、ショルダーバッグ片手に研究室を出た。




