*25 それから
糸屋君との試合はどうなったのか、というと、結果は僕の勝ちだった。
糸屋君が的を外した後に、的中したのだ。
どのみち、二人ともあの辺りが体力の限界だったと思う。
僕だってもう少し長引いていたらわからなかった。
「市田先輩」
更衣室で着替える最中に糸屋君が話しかけてきた。
「うん?」
「俺、佐伯さんのこと狙ってますから。今回のことは関係無しに」
──それは、新たなる宣戦布告?
真っ直ぐな目で彼は言う。
「そっか。じゃ、ライバルってことで」
口の端に笑みを載せて、宣戦布告に答える。
「……やっぱり、そうなんすか~?」
糸屋君が溜息をつく。
「初めて研究室で会った時からそんな気はしてたんですよ」
「そんな前から?」
「だって、なんか雰囲気違うんですよ、二人とも。付き合ってはいないなとは思ってたんですけど」
中々鋭い奴だな。
いや、これが普通なのか。
Tシャツの上にシャツを羽織りながらそう思う。
「でも、俺は引きませんから」
「うん。決めるのは佐伯だから。手強いと思うけど」
「ははっ。望むところです」
特に確執もない。
これは互いが満足行く結果だったということだろうか?
突然、ノックもなく、更衣室のドアが外から開けられる。
「お前ら、メシいくぞ?」
樋田さんが仁王立ちしていた。
その横には、佐伯が申し訳なさそうに立っている。
まだ、着替え途中だったらどうするつもりだ?
糸屋君のTシャツだけだったからよかったものの。
「糸屋も行くよな? もちろん」
樋田さんの中では、糸屋君は既に可愛い後輩らしい。
とりあえず、弓道場を出て歩く。
「もちろん樋田さんの奢りっすよね?」
「ばぁか。バイトで生計立ててる俺にたかるなよ」
「僕もバイトですよ」
「あたしも」
「俺も」
もっとも皆、奨学金を受けているからそんなに苦学生ではないけど。
「……仕方ねぇなぁ。一人千五百円までな? いつの間に仲良くなってんだよ、お前ら」
樋田さんが笑う。
この人はなんだかんだ言って気前がいいんだ。
「じゃ、何食べたい?」
「あたしなんでもいー」
「僕も特には」
「「米!!」」
樋田さんと糸屋の声が重なる。
そんなに米が好きか。
「そしたら、あそこの和食の店でいい? お値段手頃だよ?」
佐伯が近くのビルを指差した。
地下の店かな?
あそこなら僕も行ったことがある。
皆、そこそこに腹が減っていたらしく、即決で決まった。
4人でご飯を食べた後、駅で解散した。
ここからは佐伯と二人になる。
「どうする? 僕は荷物あるから真っ直ぐ帰るけど」
「あ、う~ん。どうしようかなぁ」
「何、どっか買い物でも行くの?」
「そうじゃないけど……」
佐伯の歯切れが悪い。
何がどうなんだ?
「じゃ、家でも来る? 何もないけど」
冗談で言ってみる。
今まで彼女が昼間に僕の部屋に来たことはない。
「あ、うん。行く」
「え?」
まさか乗ってくるとは思わなかった。
「邪魔じゃなかったら、市田の所に寄ってもいい?」
「いや、いいけど……」
彼女の意図がわからなかった。




