*17 触れる
「何~? 何の話?」
気になったので、男性陣の方へ寄っていく。
とりあえず、市田の隣が空いていたのでそこに座った。
「あ~……、ええと」
「いや、次は誰が結婚するかなあってさ」
詰まる市田に変わって鷹司君が答えてくれた。
でも、なんだか腑に落ちない。
「ふぅん?」
「佐伯さんは誰だと思う?」
「う~ん、そうだなぁ」
そうくるか。
一応考えてはみたけど、さっき聞いたばかりだしなぁ。
ここはやっぱり……。
横にいる市田と目が合った。
なんで引き攣ってるのさ?
なら、その通りにしてあげようじゃない。
「う~ん。やっぱり、あたしかなぁ? ね? 市田?」
ほんとはそんなこと思ってない。
こんな性格の悪い私は、きっと結婚なんか出来ないに違いない。
「なっ!?」
なんだろ? その反応?
そんなに嫌?
市田の首に両手を回す。
これじゃ、嫌がらせかな?
「え? 何? そういう関係だったの?」
「っていうか、これ、あたしの嫁だから」
ここで嫁宣言。
実はちょっと(かなり?)本気で市田みたいな嫁が欲しかったりもする。
(家事は苦手だしなぁ)
「へぇ?」
明らかに面白がっている様子の鷹司君。
さらに挑発してみる。
「この人、こー見えていー身体してるんだよね。無駄に肉が付いてないってゆーか、引き締まってるってゆーか。センスもいーし、綺麗好きだし、料理上手だし」
しかし、間近で見ると市田ってほんとに綺麗な顔してるなぁ。
お肌はツルツルだし、唇はツヤツヤだし。
そこらの女の子より美人だよ。
──気が付くと彼の唇にキスしていた。
ぎゅっと目をつぶる市田。
ごめんね。
そこまでするとは思ってなかったよね。
嫌だよね。
でも、気持ちいいんだ。
周りが驚いてなんか言ってるのは分かってたけど、やめられそうになかった。
おそるおそる、といった感じで市田の両手が私の肩に触れる。
市田も気持ちいい?
もっと市田に触れていたい。
私はただ、市田とのキスに翻弄されていた。
正直、そのあとのことはあまり覚えていない。
気が付くと市田に手を引かれて、夜の街を歩いていた。
いわゆる、恋人繋ぎというやつ。
市田の手の大きさに、やっぱり男の人なんだな~、なんてぼんやり考えた。
不意に手を離される。
最寄りのバスターミナルに着いていた。
もうちょっと繋いでいたかったな。
「じゃ、あたしバスに乗るから」
平静を装って別れを告げる。
市田が小さく頷いたのを目にしてから、踵を返した。
一歩踏み出そうとした所で手首を掴まれる。
腕を引き寄せられ、彼の胸の中に抱きしめられた。
ふわり、と甘い香水の香りがした。
そっと彼の背中に腕を回す。
彼の背中に手が触れた瞬間、彼の身体がビクッと跳ねた。
さっきの続きと言わんばかりに唇が触れる。
おでこに、頬に、耳元に、唇に。
市田が触れてくれるのが嬉しくて、彼のしたいようにさせる。
唇に唇が触れて、私も彼の唇をはむ。
何度も角度を変えてキスをした。
唇を離れると、なんだか寂しくなった。
──もっと触れられていたい。
──触れてほしい。
そんなことは言えずに彼の表情を伺う。
これじゃ、それ以上を望んでいるみたいじゃないか。
「……じゃ、バスなくなっちゃうから」
「あ……、うん」
そう告げたけど、引き止めてなんてもらえなかった。
一度も振り返らずに、そこから逃げるように立ち去った。
彼がどんな表情をしているかなんて、怖くて見られなかった。




