*14 男同士の会話
「それでは柴崎とルミの結婚を祝ってかんぱーい!」
朝倉君の音頭でグラスを合わせる。
すでに居酒屋の前で待っていた柴崎蓮・ルミ夫妻と合流して10分が過ぎた頃のことである。
女性陣は既にルミさんのところで、何やら(結婚指輪を見せてもらっている様子)始めている。
なので、自然とこちらは男性陣のみになった。
「んで、どーよ? 意中の人をやっと嫁に貰った感想は?」
と、朝倉。
「あ~、うん。実感がねぇ」
「……実感ないって……」
柴崎君の返答にさすがの僕らも引いた。
「……ったって、なんかあるだろ? 一緒に住んでるんだしさ?」
朝倉君が取り繕うように尋ねる。
「そうなんだけど……さ? 俺とルミって幼稚園からの付き合いなんだわ?」
それは僕も知っている。
何て言ったって、柴崎君は幼稚園でルミさんに一目惚れをしたのだから。
それも、僕の目の前での話だ。
「俺はいいんだけどさ? ルミの態度がその頃と変わってねぇんだよ」
確かに僕から見ても、柴崎夫妻は学生の頃と何ら変わっていないように見える。
もっとも僕からしたら、あのある意味では柴崎君よりサバサバしたルミさんが結婚前と変わらないのは、当たり前のような気がする。
「僕からしたら深沢さんが変わるって方が想像つかないよ」
事も無げに鷹司君が言う。
更に言わせてもらうと、柴崎君も変わってないと思う。
相変わらず女々しいところあるし、ルミさんに尻に敷かれてるあたりが。
この二人って実はかなり昔から両想いだったのでは?
不意にそんなことを思う。
態度が変わらないってのはそういうことなんだろうな。
「んで、更に問題なのが庸さんだったり」
柴崎君が溜息をついた。
「……あ~~、ご愁傷様」
庸さん、というのは、ルミさんの九つ年上のお兄さんで、妹をかなり溺愛(シスコンとも言う)している人なのだ。
本来、九歳も年上だったら僕らと接点はなさそうに見えるが、ことある毎に行事等にかこつけて溺愛っぷりを見せつけられれば、嫌でもその人となりを覚えてしまう。
妹が心配なのはわかるが。
それさえなければ、僕らですら憧れてしまうようないい先輩なんだけどなぁ。
「あ、でもさ?」
何か思い出したらしい朝倉君が、発言する。
「深沢建設ってこっちに本社を移転してきたよな? 常務の深沢先輩もこっちに住んでるんじゃねぇの? 大体、お前達の結婚式だって地元じゃなくこっちでやったくらいなんだしさ?」
時間なんてこれからいくらでもあるさ、と嬉々として話す朝倉君に対して柴崎君が再び溜息を吐く。
「……それがよぉ、暇を見付ければこっちに飛んで帰って来るし、毎晩毎晩掛かってくるんだよ……電話が」
「ははっ、ほんとにご愁傷様」
鷹司君が、全然同情しているようには見えないくらいの笑顔で言った。
柴崎君はげっそりとした風を装ったが、それでも幸せそうなのが目に焼き付いた。
もしかしたら、もしかしたら僕は意中の幼なじみを射止めた柴崎君が羨ましいのかもしれない。
「……ところで」
それまで沈黙状態にあった藤原君が口を開く。
「市田こそ、佐伯とはどうなんだ?」
「なっ……」
まさか藤原君からそんな話が出るとは思わず、ついうろたえる。
「言われて見ればそうだよな。この中じゃ市田と佐伯が一番仲がいいはずだし」
朝倉君までもがそんなことを言う。
「……それを言うなら朝倉と鷹司と春日あたりも怪しい」
と、柴崎君。
「まぁ、言われて見れば確かにね」
自分のことなのに、人事のように鷹司君が呟く。
「な、朝倉?」
「……んー、まぁな」
鷹司に話を振られ、朝倉君が頷く。
「俺と鷹司の二人はまぁまぁあるけど、春日か今井さんと二人っきりってのはないよなぁ」
「だね。大抵は3人か4人で。まぁ、他の人から見れば、その中で誰かが付き合ってると思われても仕方はないかな」
「実際、グループ交際してるやつもいるからなぁ」
先に説明したが、朝倉君と鷹司君は同じ大学だし、春日さんも今井さんも同じ市内の学校に通っている。
必然的に集まりやすいのだ。
そんなもんか?と一人親元から経済的に独立している柴崎君は首を傾げる。
「あ、君らはまた別の話だから」
そう言った鷹司君は、男の僕ですらゾクッとするほど妖艶に微笑んだ。




