07 バレてしまいました
主人公 シャルロッテ・グランチェスター(ロッテ)
夫 リュシアン・クロイツェル
女 リリアーヌ・ヴァルハイト
便利屋 ガイゼル・シュバルツシルト
侍女 エレノア
「…が、この3日の動きですね」
ガイゼルがそう言って、書面を渡してくれた。
心配していたけど、ガイゼルはちゃんと仕事をしてくれていた。
3日間でわかったのは。
リリアーヌは下町生まれ、下町育ちであること。
幼い頃から犯罪に手を染めていること。
付き合っている男性はいないが、『男友達』は多いこと。
その男友達から生活の援助も受けていること。
「家は、ないんですね」
「そうみたいですね。男のところを転々としているみたいですよ」
ガイゼルはさらっとそう言った。
ますます、どうしてこんな女性をリュシアンが好きになったのかわからない。
いや、こういう自由奔放なところに魅力を感じた可能性もある。
「とりあえず、3日分です。引き続き、よろしくお願いします」
そう言って封筒を差し出すと、拒絶された。
「いやいや、さすがにもらいすぎなんで。手付金もしっかりもらってますから。後は1か月おきにいただければ」
そう言われた。
そういうものなのか。
それから食堂で働いて、3日おきにガイゼルからリリアーヌの報告を受けた。
屋敷に帰ると、リュシアンに抱きしめられて。
自分が何をしているのかわからなくなってくる。
それから数週間後。
いつものように、リュシアンが仕事に出かけると、屋敷を抜け出す。
今日は食堂に行く前に、ガイゼルから報告をもらうことになっている。
実は最近、リリアーヌがリュシアンらしき男と会っていたと報告を受けていたから。
そのことを、もっと調べてほしいとお願いしていたのだ。
深い関係になっていたらどうしよう。
そう思いながら、ガイゼルとの待ち合わせ場所に向かう。
「ああ、ロッテさん」
そう、ガイゼルが手を振った。
私も手を振り返そうとして、ガイゼルが変な顔をする。
「お待たせしましたか?すみません」
そう言うと、肩を掴まれた。
なんだろうと振り返って、青ざめる。
「え?…ど、どうして?」
そこに立っていたのは、リュシアンだった。
仕事に行ったはずでは?
いや、それより、どうしてこんなところに?
ガイゼルは、自分が追っていた男が目の前にいるから驚いたんだろう。
「どういうこと?」
リュシアンにそう尋ねられて、唾を飲み込む。
いや、ごまかせる。
だって貴族のご婦人が、こんなところに、こんな姿でいるはずないもん。
「誰かと、お間違えでは?…その、貴族の知り合いなどおりませんので…」
こういうとき、なんて言うのが正解なのかわからない。
「俺のこと、試してる?シャルロッテのことは、誰よりも俺がわかってるの。どんな姿でも、すぐわかるんだからね」
そう言われて、顔が熱くなる。
どうしたらいいんだろう。
ごめんなさいって、バラす?
すると、ガイゼルが私の肩を掴んで引き寄せた。
「どこの貴族様か知らないが、彼女は俺のツレだ。人違いだって言ってるんだから、人違いなんだよ」
そう言って、私の顔を隠すように抱きしめてくれた。
おそらく、私が困っていたから助けてくれたんだろう。
いい人だ。
ただ、この国で貴族様にたてつくのはよくない。
ガイゼルは本当にいい人みたいだし、傷つけたくない。
「…ありがとう、ガイゼル。いいの。本当に、知り合いだから」
そう言って体をはなした。
ガイゼルは驚きもしないで「大丈夫?」と尋ねてくれた。
どうやら、ガイゼルには私が貴族だとバレていたようだ。
考えてみれば、リュシアンのことを調べただろうから。
その婦人である、私のことを知らないはずがない。
「ええ。ごめんなさい。とりあえず、今日はこれで…」
そう言って封筒を渡そうとしたら、リュシアンが私の手を掴む。
「君は、こんな男に、貢いでいるのか?!」
そう言われて、きょとんとした。
貢ぐ。
そうか、お金を渡しているから、私がガイゼルに貢いでいると思ったのか。
ガイゼルも困った顔をしている。
「なんか、話がややこしくなりそうなんで。今日はこれで。あ、これだけ渡しときます」
ガイゼルは私に書類を渡すと頭を下げる。
「ええ。ごめんなさい。このお詫びは必ず…」
そう言うと、リュシアンが私の前に立つ。
「2人だけの雰囲気、出さないでくれる?お、おれ…俺、いるんだけど?」
リュシアンの声が裏返っている。
困ったけれど。
リュシアンに話すタイミングなのかもしれないと思った。
たぶん、ガイゼルが調べてくれたこの書類に。
リュシアンとリリアーヌのことが書かれているから。
「お仕事が終わったら、お話ししましょう」
そう言ったのだけれど、すぐに話したいと言われたので屋敷に戻ることになった。
食堂にはお詫びをして帰る。
「…?」
食堂にもリュシアンはついてきたのだけれど、何も言われない。
そう言えば、私のこの姿についても、何も尋ねてこない。
どういうことだろう?




