06 便利屋のガイゼル
主人公 シャルロッテ・グランチェスター(ロッテ)
夫 リュシアン・クロイツェル
女 リリアーヌ・ヴァルハイト
便利屋 ガイゼル・シュバルツシルト
侍女 エレノア
「え…っと、ロッテさん?」
そう話しかけられて「はい」と答える。
「あ、ガイゼルさんですか?」
そう答えると、話しかけてきた男性が、人の好さそうな笑顔になった。
「ええ、俺がガイゼルです。どうも…いやあ、美人さんで驚いたな」
そう言われて悪い気はしない。
「それで、詐欺師のリリアーヌについて調べてほしい、と?」
さっそく要件に入ってくれたのもありがたい。
「ええ。実は知り合いが、騙されそうで。その、どういう人なのか、とか。どんな男性と付き合ってるのかとか知りたくて。あ、弱みがあったら、それも知りたいし」
私がそう言うと、ガイゼルは変な顔をした。
「えっと…知り合いが騙されそうというところまではわかったんですけどね。それで、どうして、どんな男性と付き合っているのかを知りたいんですか?」
そうツっこまれて、あたふたした。
リュシアンと付き合っているかどうか知りたいから、なんだけど。
「えっと…それは、そのぉ。詐欺師ってどんな人と付き合ってるのか、興味が…そう、興味があって」
だいぶ、しどろもどろになりながら伝えた。
「…まあ、お金さえ払ってくれれば調べますけど。じゃあ、定期連絡は3日に1度。何かあったらすぐ報告で、契約期間はロッテさんから終了と言われるまで、でよかったですか?」
そう言われて、それでお願いした。
手付金が必要だと聞いていたから「手付金です」と封筒を渡す。
小切手ではなく、現金がいいとエレノアから言われたので、現金で渡した。
「えっ?…手付金で、こんなにいいんですか?」
そう言われて「相場がわからなくて」と正直に伝える。
「…まあ、多いほうが助かるんで。じゃあ、3日後に」
そう言って、ガイゼルは町に消えた。
少し不安になる。
手付金、あげすぎたんだろうか。
3日後、ちゃんと報告に来てくれるんだろうか。
不安ではあったけど、今は、食堂に行くしかない。
もしかしたらまた、リリアーヌが来るかもしれないなと思ったけど。
あれ以来、現れることはなかった。
「ただいま、シャルロッテ。今日も綺麗な君に会えて嬉しいよ」
屋敷に戻って、リュシアンを出迎えると、そう言って抱きしめられた。
変わらない。
あの女に会う前と、今と、何も変わらない。
考えてみると、死に戻る前もそうだった。
何も変わらなくて。
ずっと、私のことを綺麗だと、好きだ、愛していると。
そう言ってくれていたのに。
あの日、突然、別れてくれないと訳の分からないことを言われて殺された。
いったい何があったんだろう?
「…聞いてる?シャルロッテ?」
そう声が聞こえてハッとする。
「ごめんなさい、ちょっと…ぼーっとしていて。なんだった?」
そう言うと、頬を撫でられる。
「…町にね、素敵なカフェができたから、今度、一緒に行かない?って話をしていたんだよ」
リュシアンにそう言われて「町に…」と言ってぎょっとした。
町にできたカフェというのは、私が働いている食堂から少し行ったところにある。
貴族にも人気らしいと聞いていたから、たぶんあそこ。
食堂のほうまで行くことはないだろうけど、ちょっと距離が近い。
「あー、そのカフェは、そのぉ…エレノアと、行ってしまって。そのカフェじゃないほうが嬉しいわ」
適当な理由で断ってみる。
「そうなの?エレノアと、2人で?」
そう尋ねられて「もちろん」と答えた。
近くで聞いていたエレノアも「はい。奥様と2人で」と話を合わせてくれた。
「そう…じゃあ、違うカフェでもいいけど。今度は俺と2人で行こうよ」
そう言って手を握ってくれた。
リュシアンは、私のことを1番に考えてくれているように思う。
「…ええ。そうね」
だから、なんだかわからなくなってきた。
私を殺したリュシアンと、目の前にいるリュシアンは、同一人物なんだろうか?
「今日は何をしていたの?」
最近、リュシアンにそう尋ねられるのが1番困る。
食堂で働いていたとは言えないし。
「奥様は刺繍をしていらっしゃいましたよ」
エレノアが代わりに答えてくれて「ええ、そうなの」と言う。
屋敷で何があったかはわからないから、変なことは言えない。
「…そう。どんな刺繍をしたの?」
リュシアンが私の手を握ってくれる。
「えっと…刺繍…」
実際はしていないから、困ってしまう。
「お花の刺繍ですよね。…こちらに」
そう言って、エレノアが私に作りかけの刺繍を渡してくれた。
おそらくエレノアが縫ってくれたんだろう。
「ええ、そう。そうなの。お花を…」
リュシアンはそれを見て「へぇ…これをシャルロッテが…」と言った。
どうやら、ごまかせたみたいだ。
エレノアに感謝。
それから2人でお茶を飲んで、眠る。
リュシアンに後ろから抱きしめてもらうと、なんだか申し訳ない気分になってきた。
私はただ、私が殺されないようにしているんだけど。
結果として、リュシアンに嘘をついてる。
働いていることも、お金をためていることも、秘密にしている。
その時、ようやく気付いた。
私、後ろめたくて、しばらく、リュシアンの目を見ることができていないんだ。




