05 あの女との出会い
主人公 シャルロッテ・グランチェスター(ロッテ)
夫 リュシアン・クロイツェル
女 リリアーヌ・ヴァルハイト
便利屋 ガイゼル・シュバルツシルト
侍女 エレノア
それからしばらく、リュシアンが仕事でいない時間、ロッテとして食堂で働いた。
続けられそうだからと、同じ食堂で正式に働かせてもらえるようになる。
正社員というのになると、月払いでお給料がもらえるらしい。
でも、私の場合、いつ辞めることになるかわからなかったので。
これまで通り、日払いでお給料が欲しいと伝えて、アルバイトとして雇ってもらった。
そんなある日、貴族が来るはずもない食堂に、リュシアンが現れた。
なにゆえなのか。
驚いて「お腹が痛い」と嘘をついて隠れることにした。
リュシアンと一緒に、女性がいる。
その女性を見て、さらに驚いた。
あの、女だ。
私が殺されたとき、リュシアンと一緒にいた。
あの女だった。
心臓がバクバクと音を立てている。
出会ったんだ。
リュシアンは、あの女と、街で出会っていたのか。
このあたりは、貴族が来るところではないから、噂にもならなかったんだ。
ショックで声も出ない。
足も動かない。
本当にお腹が痛くなってきた。
2人が何を話しているのか聞きたかったけど、隠れているところからでは聞こえなかった。
ただ、贔屓目かもしれないけど。
なんとなく、リュシアンは迷惑がっているように見える。
女はグイグイとリュシアンに胸を押し付けているけど。
リュシアンは距離をとって「やめてくれ」と言っているように、見える。
声は聞こえないから、私が都合のいいように解釈している可能性はあるけど。
なんか、雰囲気が、変。
それからすぐ、リュシアンはお金をおいて店を出て行った。
女はお酒を注文して、何か文句を言っているようだ。
リュシアンがいなくなったから、それとなく女に近づいてみた。
だいぶ近づいたけど、スタッフだから、変に思われていないようだ。
「ったく、貴族様はほんと、えらそうだよね。『俺に触るな』だってぇ。服脱ぎゃ、ただの男だろっての。一晩くらい、買ってくれてもいいのにねぇ」
そう言って、お酒を煽っていた。
あれ?
なんか、私が殺されたときの女と雰囲気が違う?
あの女は貴族っぽかったけど、この女は、どこから見ても下町の女性だ。
似ているだけの、別人だろうか?
「どうするんだ?せっかく貴族様とお知り合いになれたのに」
一緒にお酒を飲み始めた男がニヤニヤしながら女に尋ねている。
「せっかくのチャンスだもの。手放すわけがないでしょ。貴族様は、誰かを助けたいって思ってるみたいだったからねぇ。まあ、上手く取り入るよ」
そう言って女が笑っている。
食堂の店主に「あそこの女性、よく来るんですか?」とそれとなく聞いてみた。
すると、常連ではないが、リリアーヌという詐欺師だと思うと教えてくれた。
詐欺師…
ちょっと待って。
つまり、リュシアンは詐欺師に唆されて、私を殺すのか。
私、可哀そうすぎない?
なんだか悲しくなって、眉間を指で押さえた。
百歩譲って、あの女が貴族のご令嬢で。
リュシアンが本当の愛を見つけて、仕方なく私を殺した、というのなら。
…いや、それでも嫌だけど。
でも、百歩譲れば、理解できる。
それが、詐欺師に騙されて私を殺して。
おそらく、さらに騙されて、リュシアンも殺されるのだとしたら。
私の死って、報われなくない?
首を振る。
少し、いい風に考えてみた。
実はこれから、リリアーヌは貴族に見初められて養女になる。
それで、何かの会でリュシアンに再会する。
『君はあの時の!』みたいな展開になって、恋をする。
そうして、私が殺される…
結局、殺されるんかーいって感じだけど。
このほうがまだ、私が報われる。
そういう可能性はゼロじゃない。
だから、リリアーヌという女を、少し調べてみることにした。
屋敷に帰ると、そのことをエレノアに伝える。
死に戻ったということは話さず。
食堂にリュシアンとリリアーヌという女が来て、変な雰囲気だったと伝えて。
「もしかしたら、リュシアンは浮気をしているのかもしれない」ということにした。
エレノアは私の話を聞いて、一笑した。
「それはないですよ。旦那様、奥様にぞっこんですから」
そう言って、また笑っている。
私もそう思っていたわよ、殺されるまでは。
そう思ったけど、言わないでおいた。
「それでも心配だから。少し調べて、何もなければ、れで安心だし、ね?」
そう言うと、エレノアがガイゼルという人を紹介してくれた。
「いわゆる、便利屋です。なんでもやってくれるので、危険そうなところに行くときとか、食堂で働いているときは、彼に尾行をお願いするのもいいですよ」
そう言われた。
町のことはあまり知らないから、こういう人に頼んだほうがいいかもしれない。
さっそく、エレノアに紹介してもらうことにした。
貴族のご婦人だとわかると、変な噂が立つかもしれないからと。
ロッテとして、ガイゼルと会うことにする。
食堂の仕事が始まる前に、お店の近くで会うことになった。




