04 ひとりで生活する方法
主人公 シャルロッテ・グランチェスター(ロッテ)
夫 リュシアン・クロイツェル
侍女 エレノア
この国で貴族の女性がお金を稼ぐと言うのは、とても難しい。
別れたらいっそ、町人になるというルートも考えておいたほうがいいかもしれない。
町人になれば、ウエイトレスという仕事がある。
接客なんてしたことないけど、社交と同じようなものだろう。
問題は、体力。
エレノアにウエイトレスの仕事について尋ねたところ、かなり体力がいるらしい。
「1日中、立ちっぱなしですし。重いものも運ばないといけませんから大変ですよ」
そう教えてもらった。
すぐに座るクセがついているから、大変そうだ。
こっそり体験できないか、エレノアに尋ねてみる。
「え?奥様がですか?どうして、奥様がウエイトレスを?」
エレノアが怪訝な顔をした。
社会勉強をしたいとか、誤魔化そうと思えばできたけど。
「あのね、驚かないで聞いてほしいんだけど…」
エレノアにはこれからも協力をしてもらわないといけないかもしれない。
だから、素直に話すことにした。
「私、近いうちにリュシアンと別れたいと思ってるの。別れた後は、実家にも戻れないだろうから、町人になろうと思って」
「それで、ウエイトレスですか?」
エレノアは驚いている。
誰にも言わないでと口止めをして「そうなの」と続けた。
「どうして別れたいのかわかりませんが…私は奥様付きの侍女ですから。そう言われるなら、止めませんけど…」
エレノアは止めないと言いながら、複雑そうな顔をした。
それからしばらくして、エレノアはウエイトレスの働き口を探してきてくれた。
「クロイツェル家の侍女が、副業で、ちょっと働きたい、というテイで話を通してありますから。…本当に行かれるんですか?」
エレノアはとても心配してくれている。
「ええ。ともかく、やってみないとね」
そう伝えて、リュシアンが仕事に出かけた後、そっと町へと出かけた。
エレノアが話を通してくれた食堂に行く。
お客としても来たことがない、町人がよく来る食堂だった。
ここなら、知り合いに会う心配もなさそうだ。
「ああ、君がロッテか。よろしく」
店主に言われて、ここではロッテという名前なのかと理解した。
「いえ。どうぞ、よろしくお願いします」
そう礼をしようとして、少し悩む。
町人がカーテシーなんてしないよな。
微笑んでいると、簡単に仕事のやり方を教えてもらえた。
「まあ、わからないことがあったら、その辺にいるスタッフに聞いて」
そう言われて、雑すぎる新人研修に驚く。
ただ実際にやってみると、意外とできてしまった。
失敗することもあったが「その子、今日来た、新人なんです」と誰かが言ってくれて。
そうすると「なんだ、じゃあ仕方ないな」と許されるのだ。
社交の場ではこうはいかない。
みんな、足を引っ張り合って、ちょっとしたミスも大袈裟にして広める。
そう思うと、この食堂にくる人たちは、なんて、心の広い人たちの集まりなのか。
そんなわけで、驚きと感動の1日を過ごした。
屋敷にそっと帰ると、その感動をエレノアに伝えた。
「馴染んでいたんですね。よかった」
エレノアはそう言ってホッとしていた。
「それでね、お給料は日払いというやつで。今日はこれだけいただけたの。これ…どこかに、リュシアンにバレないところに貯金したいのだけど」
そう言ったところで、ノックの音が響いた。
びくっと体が跳ねる。
「シャルロッテ?部屋にいる?」
思った通り、リュシアンだ。
エレノアがさっと、私からお給料を預かってくれた。
「え、ええ。いるわ。どうしたの?」
ドギマギしながら答えると扉が開く。
「どうしたのって…今日も出迎えてくれなかったから。何かあった?」
そう言われて「何もない」と答えておいた。
今はまだ、色々とバレるわけにはいかない。
ぎゅっと抱きしめられると、少し心が揺れ動くけど。
「…ん?なんか、美味しそうな匂いがするけど…なにか食べた?」
そう言われて、驚いて立ち上がる。
食堂のニオイが残っていたのかも。
「え?あ、ああっ…と、ちょっと、小腹がすいて、食べたから、それかなぁ…」
ごまかせたか、ごまかせていないか。
適当に煙に巻いておいた。
リュシアンは変な顔をしたけど、それ以上、聞いてくることはない。
ホッとした。
それから2人で食事をして、寝る。
同じベッドで。
夫婦なのだから当然なのだけど、複雑な気分だ。
彼にはこれから、好きな人ができる。
こうして一緒に寝るのは、親が決めた結婚相手だから。
誰かに、そう言われているような気がした。
「どうしたの、シャルロッテ。早く寝よう」
リュシアンに言われて、不自然に微笑む。
あれ?
私、どうやって笑っていたかしら。
以前は自然と笑みがこぼれていたのに。
すると、リュシアンがそっと私の手をとった。
「やっぱり体調が悪いの?隠さないで、教えてくれない?」
そう言ってくれた。
リュシアンは、本気で心配してくれている。
でも、あなたに愛されていないとわかって、ショックを受けているとは言えない。
「大丈夫。なんでもないわ」
風邪をひいたかもしれないとか言って、一緒に寝ないという方法もあるかもしれないけど。
そんなの、何日も続けられない。
いつかは、こうやって寝ないといけないのだ。
モヤモヤとしているけど、仕方がない。
そう思って、ベッドに横になった。
すると、リュシアンが後ろから抱きつくように私を引き寄せる。
首のあたりに、リュシアンの息がかかる。
困ったな…嫌じゃない。




