03 死に戻ったけれど何か違うようです
主人公 シャルロッテ・クロイツェル
夫 リュシアン・クロイツェル
侍女 エレノア
トントンとノックの音が聞こえて、目を覚ます。
いつの間にか、眠ってしまっていたようだ。
ドレスを着たままだったから、ちょっと体が痛い。
鍵を閉めていたのを思い出して、扉を開けるために起き上がった。
エレノアだろうと、確かめもせずに扉を開ける。
「おはよう、シャルロッテ」
そこに立っていたのは、なぜかニコニコのリュシアンだった。
「え?リュシアン?…仕事は?」
いつもなら、とっくに出かけている時間だ。
「シャルロッテの機嫌が悪いのに、出かけられないよ。きのうはどうしたの?何を怒っていたの?」
そう言って、私の腰に腕を回す。
いつの間にか、引き寄せられてしまった。
「お、怒っていたわけではなく…」
怒ってはいない。
どちらかというと、悲しんでいたんだけど。
「…冷静に、将来のことを考えたんです」
そう言ってからハッとした。
きのうと同じドレス…っていうか、シワシワ…
かあっと顔が熱くなる。
「す、すみません。まずは着替えを」
こんな格好でリュシアンの前にいることが恥ずかしい。
「どんなシャルロッテも綺麗だけど。君が嫌な気分になるなら、待っているね」
そう言われた。
こういうことを、さらりと言える人だった。
悔しいけど、かっこいい。
だからこそ、許せないという気もする。
エレノアに手伝ってもらって着替える。
「奥様…どうされたんですか?」
エレノアにも心配されてしまった。
でも、1度死んで時間を遡ってきた、なんて話、信じてもらえそうにないし。
どう説明したらいいかわからないから、胡麻化してしまった。
ドレスを着替えて、ファミリールーム、いわゆる、リビングみたいな部屋に行く。
子どもがいない私達にとっては、2人でイチャイチャしながら寛げる場所だったのだけれど。
本日は寒気に覆われている。
「何があったか、話してくれる?」
リュシアンが優しい声で私に話しかける。
エレノアのとき同様、死に戻ったなんて話は信じてもらえないだろうし。
どう説明したらいいか悩む。
「ふぅ…」とリュシアンがため息をついた。
「最近、仕事で忙しくしていて、時間をとれていなかったよね。今度、2人で旅行に行こう。それで、許してくれない?」
そう言われて、困る。
そうではない。
私はあなたに、殺されたくないだけなのだけれど。
「リュシアン…その。人の気持ちって、変わっていくものだと思うの」
私がそう言うと、リュシアンは微笑む。
「そうだね。でも、俺がシャルロッテを愛する気持ちは変わらないよ」
そう返された。
思わず、私もよ、と答えそうになってしまった。
そうではない。
「私たち、親に決められた婚約で結婚したんだもの。本当にお互いのことを愛しているか、わからないんじゃないかしら?」
事実、リュシアンは他に好きな人ができたみたいだし。
すると、リュシアンが私の手を取って、強く握る。
「なんで、そんなことを言うんだい?確かに、婚約を決めたのは親だけど。俺は、本当にシャルロッテを愛しているんだよ?」
まっすぐ目を見て言われると、本当にそうかもしれないと思ってしまう。
いや、今は、本当にそう思ってくれているのかもしれない。
本当に愛する人が現れたら、私への気持ちは偽りだと気づくんだろう。
そう思ったら、ズキリと胸が痛んだ。
なんと言ったらいいのかわからない。
私は殺されたくないだけだし。
あわよくば、リュシアンをぎゃふんと言わせたいとも思っていたくらいなんだけど。
なんだか、おかしい。
そこで、ピンと閃いた。
「実はね、リュシアンに言わないといけないことがあって」
そう言うと、リュシアンは「なに、なに?」と私を抱き寄せた。
「両親の遺産なんだけど、私、相続をしないつもりなの」
リュシアンの目を見て、そう言ってみた。
彼が私に入る遺産を目当てにしているのであれば、何か態度に現れるはずだ。
「…そう。ずいぶんと気が早い話だけど。シャルロッテがそう決めたなら、それでいんじゃないかな」
そう言われて、ますますわからなくなった。
「そ、そう。…それを、いつ言おうか悩んでいただけなの。心配かけてごめんなさい」
私がそう伝えると「なんだ、そんなことだったのか」と胸を撫でおろして、リュシアンは仕事に行った。
リュシアンの態度は、全く変わらなかった。
だから、考えられる可能性は1つ。
まだリュシアンに愛人ができていない時期まで戻ってきた、ということだろう。
これから、出会う誰か。
幸運にも私は、その女性を見ている。
名前はわからないけれど、リュシアンがその女性といるところを見かけたら、別れよう。
それまでに私がしておかなくてはいけないことは。
自立して生活できるようにすること。
両親が死なないことが1番だけど、両親も私も人間である以上、永遠にその日を迎えないということは望めない。
いつかは、独りで生きていかなくてはいけないくなる。
誰かの後妻に入る方法もあるけれど…。
とても悔しいけど、リュシアンを想うより強く、誰かを好きになれる気がしない。
まずは、リュシアンへの想いを断ち切ること。
そして、自分でお金を稼ぐ方法を見つけること。
当面、この2つが課題となった。




