08 計画もバレてしまいました
主人公 シャルロッテ・クロイツェル(ロッテ)
夫 リュシアン・クロイツェル
女 リリアーヌ・ヴァルハイト
便利屋 ガイゼル・シュバルツシルト
侍女 エレノア
「それで、あの男、誰?」
開口一番、リュシアンに尋ねられた。
屋敷に戻ってきて、体を拭いて、ドレスに着替えているから。
ずいぶんと待ってくれたほうだと思う。
「彼は、便利屋です」
隠す必要もない、というか。
変に隠してガイゼルに何かあってはいけないから、正直に話した。
「リュシアンのことを、調べてもらっていたの」
私がそう言うと、リュシアンは驚いた顔をした。
「知らないと思った?あなたが他の女性と付き合ってるの、知ってるの。でも証拠がなくて。ガイゼルに調べてもらっていたのよ」
そう言って、書類を出す。
きっと、ガイゼルが調べてくれたはず。
そう思って読んでみたけど。
「…あれ?」
ガイゼルが調べたところ、リュシアンとリリアーヌが付き合っている様子はないようだった。
一方的に、リリアーヌがリュシアンの職場に押しかけているらしい、と書かれている。
「何を調べていたの?見せて…」
そう言って、私の手から書類を抜き取ってパラパラ見ている。
「リリアーヌ…ああ、あの下町の。なぜか言い寄られて困ってはいるけど。付き合ってないよ。ここに書かれている通り、一方的に押しかけられて困ってる」
リュシアンはそう言って書類を机の上に置いた。
「い、今はそうかもしれませんが、そのうち、心が動くかもしれません」
実際、あと数か月で私は殺されますし。
「もしかして、最近、態度がおかしかったのは、この…リリアーヌという女性のせい?」
リュシアンは書類を見て名前を確認している。
本当に付き合ってはいないのかもしれない。
「えっと…」
この書類に浮気の証拠が書かれていると思っていたから。
話そうとしていたことが、全部とんだ。
本来なら、この書類を突きつけて。
別れてくださいって話に持っていく予定だったのだけど。
現状、私の勘違いで、リュシアンにヒドイ態度をとっていたことになる。
「ご、ごめんなさい。勘違いをしていたみたいで」
そう言って頭を下げる。
色々とおかしなところはあるけど、ガイゼルがこれだけ調べてくれて。
それでも浮気をしている証拠が出ないなら、何かを間違えているということだろう。
「…勘違い。そう。で、シャルロッテは、あの便利屋と、どういう関係?ずっと、俺に嘘をついていたよね」
ドキっとする。
何が、どこまで、リュシアンにバレているのかわからない。
「刺繍…してるって言ったけど。あのとき見せてもらった刺繍はシャルロッテが縫ったものじゃなかった。だから、変だなと思って…」
リュシアンがさらっと、すごいことを言った。
「え?刺繍…私がしたものじゃないって、わかったの?」
「もちろんだよ。愛するシャルロッテの刺繍を間違えるわけないじゃないか」
そう言って、私が刺繍してリュシアンに渡したハンカチを取り出す。
「これがシャルロッテが縫ったもの。あれは、他の人のものだった」
そう断定している。
「…それで、変だなって思って。俺に嘘をつく理由が知りたくて。しばらく部下に、君を尾行させてたんだ。そしたら、男と会ってるって。それに、食堂で働いてるって聞いて、わけがわからなくて…」
リュシアンが頭を抱えている。
全部、バレてる。
うっかりしていた。
リュシアンが、私のことを調べるなんて予想もしていなかったから。
屋敷の出入りこそ気にしていたけど、屋敷から離れてしまえば安心だと思い込んでいた。
尾行されていたとは。
「どうして、食堂で働いて、便利屋に俺のことを調べさせていたの?嘘はつかないで、全部話してほしい」
そう真っすぐに言われて、少し考えた。
嘘をつかずに話すということは、私が死に戻ったことを伝えることになる。
きっと信じてもらえないだろう。
どうしようか。
リュシアンを見る。
リュシアンも、じっと私を見ている。
数か月後、私は彼に殺されるかもしれない。
この真っすぐな瞳も、嘘かもしれない。
それでも私は、彼のことを嫌いになれないでいる。
ふぅっと息を吐いた。
「これから話すことを、信じてもらえるとは思わないのだけれど。最後まで聞いてくれる?」
そう伝えて、リュシアンの前の席に座る。
少なくとも、今のリュシアンは私に向き合おうとしてくれている。
素直に話したら、もしかしたら、もっとスムーズに別れることができるかもしれない。
そう思って、思い切って話してみることにした。
私が死に戻ってきたこと。
両親は死んで、遺産が私に入ったこと。
その遺産を狙って、私が殺されたこと。
私を殺したのは、リュシアンであること。
リュシアンは私と別れて、リリアーヌと一緒に生活したがっていたこと。
一気に話すと、リュシアンの顔色は真っ青になっていた。
「俺が…シャルロッテを?」
とても驚いている。
でも、事実だ。
「そういうわけで、そんな未来がこないように、いまのうちに別れておきたいの」
自分でそう言って、胸が痛んだ。
私はやっぱり、リュシアンが好きなんだろう。
「ああ、それで、相続を…」
リュシアンは一点を見つめている。
話は信じてもらえたみたいだ。
「別れた後、ひとりで生活する方法を考えたんだけど。町人になるのがいいかなと思って。それで、食堂で働く練習をしていたの」
私がそう言うと、リュシアンが自分の髪の毛をくしゃくしゃにした。
「それで。俺と別れて、あの便利屋と暮らすの?」
リュシアンの言葉に驚く。
「ん?どうして、ガイゼルが出てくるの?」
「だって、3日に1回も会っていたじゃないかっ!」
リュシアンがそう言って、私の手を掴んだ。
それこそ、何か勘違いをされているなと思った。




