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異世界戦記 ~ここで俺は最強に至る~  作者: かげ2500
第7章 影の五騎士編

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214話 剣士の本質

「まず、セレナちゃん――この子は元社畜だ!」


 ルミエラの第一声に、俺は思わず間抜けな声を出してしまった。


「はぁ!?しゃち……はぁ!?」


 何を言われたのか理解できず、俺は口をパクパクとさせる。


 社畜って……そんな単語、こんな世界に存在していいものなのか?


 俺の混乱をよそに、ルミエラは得意げに指を立てて話を続けた。


「セレナちゃんは、元々鍛冶師兼剣士だったんだけど……鍛冶師の仕事と冒険者の仕事を両立できなくなって、全部が嫌になって幼児退行しちゃったんだ!」


 最後の部分を言いながら、ルミエラは勢いよく両手を挙げてみせる。


 だが、あまりにも意味不明な説明に、俺は呆れることしかできなかった。


「いや、何ですかその経歴!?冒険者と鍛冶師を掛け持ちしてて、両立できなくなったら幼児退行?そんなことあるんですか!?」


「いやぁ……それがあるんだよ、これが!」


 いや無ぇよ。


 俺の内心をよそに、ルミエラは自信満々に答える。


 その隣では、セレナがむぅっと頬を膨らませながら、小さく抗議した。


「ようじたいこうじゃないもん……ただ、子どもに戻りたくなっただけ……」


「それを幼児退行って言うんですよ!」


 俺は思わずツッコむが、セレナは気にする様子もなく、口を尖らせたまま視線を逸らす。


「……それでね?」


 ルミエラの説明はまだ続く。


「そんな可哀想なことになっちゃったセレナちゃんを、このあたしが偶然見つけて、慰めてあげてたんだよ!」


 ルミエラは胸を張り、まるで英雄が偉業を語るかのような顔をする。


「……慰めるって、具体的に?」


「それはもう、たっぷりと甘やかしてあげたよ。”お姉ちゃん”としてね♪」


「お、お姉ちゃん!?」


(お母さんか、おばあちゃんの間違いじゃあ……。)


 俺が驚いて二人を見比べると、セレナはルミエラの腕にしがみつきながら、嬉しそうに頷いた。


「うんっ!ルミお姉ちゃんは、セレナのことを、ぎゅーってしてくれて、なでなでしてくれて、一緒に遊んでくれるんだよ!」


「いや、それ……ただの過保護じゃないですか!」


 俺のツッコミにもルミエラは悪びれた様子もなく、「そうだよ?」とあっさり認めた。


「いや、認めるんかい!!」


 俺の中で、セレナへの印象が急激に変わっていく。


 最初に見たときは、幼さを残しながらも、まだ剣士としての鋭さを持っている女性に見えた。だが、今目の前にいるのは――ただの甘えん坊だ。


「……本当に大丈夫なのか……。こんな子供みたいな人を戦いに巻き込んで……」


 俺は不安を隠せずに呟いた。


 すると、ルミエラが悪戯っぽく笑う。


「ふふ、まぁ、セレナちゃんが本気を出せば、驚くことになると思うけどね?」


 俺は、その言葉の意味をまだ知らなかった。


 しばらくルミエラがセレナを甘やかす様子を見ているうちに、俺の中に大きな不安が膨らんでくるのを感じた。


 本当は、こんなことをしている暇なんてない。俺には時間がない。


 "五つの影"――それが何者なのかも、なぜ俺を狙うのか――その目的すらも、未だに分からない。


 だが、確実に言えることがひとつある。


 やつらは 来る。

 どこからか、いつかは分からない。けれど、確実に俺の前に姿を現す。


 そして、その時に俺たちは、街の中で戦うことになるのか?

 具体的な相手の強さも、戦いの規模も分からないまま、無関係な市民を巻き込むことになるのか?


 ――それだけは、避けたい。


 俺は手を握り締める。


 被害を最小限に抑えるためには、どうすればいい?

 俺たちは、どれだけ強い仲間を集められる?

 その中に、果たしてセレナは含まれるのか?


 俺の視線が、ルミエラとセレナの姿を捉えた。


 ルミエラの腕にしがみついたまま、セレナは無邪気な顔で甘えている。


 その姿を見た瞬間、俺は心の中で決断した。


 俺は立ち上がる。


「ルミエラさん。」


 俺が低く呼びかけると、セレナに頬を寄せていたルミエラが、少し驚いたように俺を見た。


「ん?なんだい?」


 俺はルミエラの瞳を真っ直ぐに見つめる。


「セレナさんは……仲間には入れない。そうしませんか?」


 俺の言葉が夜の空気を切り裂いた。


 ルミエラは一瞬、目を見開く。

 セレナはきょとんとして俺を見つめている。


 静寂が広場を包んだ。


 ルミエラの表情が、少しずつ変わっていく。

 そして、彼女はゆっくりと微笑んだ。


「……なるほどねぇ。カイル君は、冷静な判断をする子になったね?」


 その言葉に、俺はわずかに眉を寄せる。


「そういう問題じゃありません。俺たちが戦う相手は、どれほどの力を持っているかも分からない。戦いの場が街の中になる可能性だってある。そんな中で……"幼児退行"するほど精神的に不安定な人を連れて行くのは、リスクが大きすぎる。」


 言葉を慎重に選びながらも、俺はハッキリと伝えた。


「それに……今のセレナさんは、”剣士”としての目をしていない。俺たちは戦場に遊びに行くわけじゃないんです。」


 セレナの体がびくりと震えるのが分かった。


 ルミエラは口元に手を当てながら、静かに俺の言葉を聞いている。


「だから、俺は彼女を仲間に入れない方がいいと思う。」


 そう言い切った瞬間だった。


 パシンッ!


 鋭い音が響いた。

 セレナが、俺の頬を打っていた。


「……ひどい。」


 震える声で、セレナが呟いた。


 俺は驚きながらも、彼女の表情を見つめた。


 さっきまでの甘えた笑顔は、どこにもなかった。

 代わりに、彼女の瞳には……怒りと、悲しみが混ざっていた。


「セレナさん……」


「ひどいぞ、カイル。……私だって、本当は分かっている。今の私は、以前の”剣士”としての私とは違う。しかし……」


 セレナは拳を強く握りしめる。


「それでも、私は……また戦いたいって、思ってるんだ。」


 その言葉に、俺は息を飲んだ。

 ルミエラは、穏やかな表情のまま二人のやり取りを見守っていた。


「カイル君、どうやらセレナちゃんの”剣士の本質”を引き出しちゃったみたいだね?」


「本質……?」


 ルミエラは、にやりと笑う。


「ここからは、セレナちゃん次第だよ。」


 セレナは下を向き、震える声で続けた。

 すでにセレナには、さきほどの力強い精神と眼差しは消え失せていた。


「私……変われるのかな……?強くなれるのかな……?」


 俺は、その問いにすぐには答えられなかった。

 しかし、もし彼女が変わる覚悟を持てるのなら――。


 俺は、もう一度彼女を見つめる。


「――だったら、証明してもらうしかありません。」


 セレナがゆっくりと顔を上げる。


「俺たちは遊びで戦うわけじゃない。あなたが本気なら、それにふさわしい強さと覚悟を……取り戻してみてください。」


 夜の空気が、さらに冷たく感じられた。


 セレナは、その言葉を噛み締めるように、ゆっくりと頷いた。


「うん……がんばる。」

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