213話 セレナの闇
そして、俺たちはセレナに全員で集まって話し合いをしたいと伝え、後日、指定した酒場に来るよう頼んだ。
その後、俺たちは解散し、広場から出ていく俺たちをセレナは笑顔で見送った。
――ただ、その姿はどこか違和感があった。
まるで、何か重いものを背負っているような……そんな雰囲気を醸し出していたのだ。
翌日。
約束した酒場には、俺たち四人――セレナを除くメンバーが集まっていた。
「……遅い。」
俺は席に肘をつきながら、店の入り口を見つめる。
約束の時間を過ぎても、セレナが現れる気配はなかった。
ガルスは腕を組み、眉間に皺を寄せながら苛立ちを隠そうともしない。カインはすでにうたた寝を始めており、ルミエラはどこか楽しそうに俺を見つめながら、にやけ顔を浮かべていた。
ガルスの貧乏ゆすりが次第に激しくなり、ついには彼の足が酒場の床を突き破った。
カウンターの奥から、店主の悲鳴が響く。だが俺は、聞こえないふりをすることにした。
「遅ェなァおい……そのセレナっつう女は、本当に居ンのかよ!?」
ガルスがテーブルをドンッと叩きながら、怒号を飛ばす。その声が鼓膜をつんざき、俺は思わず耳を塞ぎたくなった。
「ちゃんと居ましたよ!」
俺は断言する。しかし、ガルスはなおも疑わしげに腕を組んで唸った。
「レイピア使いっつうだけでも、その女が実在すンのか怪しいくらいだ……」
「本当に居たんですって!」
俺は必死に説得しようとするが、ガルスの表情は変わらない。
「ねぇ、カインさん!?」
助け舟を求めるようにカインを振り返ると、彼は片目を開け、だるそうに答えた。
「あぁ……確かに俺も一緒にいたから、実在することは証明できるが……あのセレナという女は、少し様子がおかしかったな。どこか抜けたような雰囲気で、もしかしたら今夜の約束すら忘れているのやもしれん。」
「……っ!」
俺は言葉を失った。
確かに、セレナは不思議な女だった。夢見がちで、どこか現実味のない言動をする。もしかしたら、本当に約束を忘れているのかもしれない――。
「くだらねェな。俺ァ帰るぜ。」
ガルスが椅子を乱暴に引いて立ち上がる。
「来るかどうかも分からねェ女を待つより、"店"で待ってる女を相手にするほうがよっぽどいいやァ」
そう言い放つと、ガルスはさっさと店を出て行った。
「ちょ、ガルスさん!」
慌てて引き止めようとするも、すでに彼の姿は闇に紛れていた。
「はぁ……」
俺は大きくため息をつく。そして、ふと隣を見ると、カインまでもが席を立っていた。
「すまないが……俺も今夜は用がある。この辺りで失礼させてもらう。」
「カインさんまで……!?」
「悪い。」
カインは短くそう告げると、静かに店を出て行った。
結局、残ったのは俺とルミエラだけ。
ルミエラは頬杖をつきながら、俺を見つめ続けている。その口元には、ずっとにやけた笑みが浮かんでいた。
「……その鬱陶しい顔、そろそろやめてもらえませんか?」
俺は不機嫌そうに言い放つ。
しかし、ルミエラは嫌な顔一つせず、むしろ楽しそうに微笑むだけだった。
「いやぁ……まさかカイル君にセレナちゃんを見つけられるとは思わなかったよ。」
「え?それはどういう――」
俺が言いかけた瞬間、ルミエラはすっと立ち上がり、俺の手を引いた。
「まっ、着いてきな。」
「えっ、ちょ、ちょっと!」
何もかも分からぬまま、俺はルミエラに手を引かれ、街を歩き出す。
そして、たどり着いたのは――
あのセレナと初めて会った、広場だった。
「え……なんでルミエラさんがここを!?」
驚いてルミエラを見ると、彼女は広場を静かに見つめながら答えた。
「アンタがガルスのやつを勧誘しに行ってる間にね、あたしももう一人の仲間ってやつを探してたのさ。」
その声は、いつになく真剣だった。
俺の心臓が、一瞬だけ強く跳ねた。
「それってどういう……?」
俺の問いに、ルミエラはゆっくりと口角を上げた。
「さぁね……でも、一つだけ言えることがあるよ。」
「……?」
「セレナちゃん、きっと”今日も”ここにいるよ。」
俺はルミエラの言葉に息を飲み、目の前の広場を見つめた。
静かな夜風が吹き抜ける――
その先に、誰かの姿がある気がしてならなかった。
夜の静寂に包まれた広場で、俺は目を凝らした。
広場の奥に積まれたガラクタの山の影に、人影があった。
「……もしかして、あれって……!?」
驚き混じりに呟くと、隣のルミエラは当然のように答えた。
「セレナちゃんだろうね。」
「なんでこんな時間にここに!?」
俺は思わず声を荒げるが、ルミエラは気にする様子もなく、ゆっくりとその影に向かって歩き出した。
「え?ルミエラさん!」
慌てて後を追うと、人影の輪郭が次第に明確になっていく。
特徴的な服装。後ろで束ねた紫色の髪――間違いなくセレナだった。
広場の片隅、古びた木箱の上に座り、膝を抱える彼女の姿は、まるで迷子の子供のようだった。
「お~い!セレナちゃ~ん!」
ルミエラが大きく手を振ると、セレナはビクッと肩を震わせた。
次の瞬間、ルミエラの姿を確認するなり、ぱぁっと表情が明るくなり――
「お姉ちゃんっ!」
勢いよくルミエラに抱き着いた。
「うわっと……!」
ルミエラは少しよろめきながらも、セレナの背中を優しく撫でる。
まるで久しぶりに再会した家族のようなその光景に、俺は言葉を失った。
セレナはルミエラにしがみついたまま、小さく震えている。
「……大丈夫、大丈夫。」
ルミエラは母親のように優しく囁く。
その異様な光景がしばらく続き――ようやく二人が離れると、俺はやっと疑問を口にすることができた。
「ルミエラさん……これ、どういうことか説明してもらえます?」
俺の問いに、ルミエラはいつもの不敵な笑みを浮かべた。
「ふふっ、まぁ、そうなるよね。」
俺は無言でルミエラを見つめる。
ルミエラは、セレナの頭をポンポンと優しく叩きながら、ゆっくりと口を開いた。
「さて、どこから話そうか――」
俺は息をのんだ。
この夜、俺が知ることになる真実は、想像以上に深いものだったのかもしれない。
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