206話 リベンジ
あの後、ガルスと俺はそれぞれ街へと足を進めた。
ガルスは四日後に再びあの魔物と戦うらしい。それを聞いたとき、俺の心はすぐに決まった。
「別に来なくてもいいんだぜ」
並んで歩いていたガルスが、面倒くさそうに言う。しかし、俺は迷うことなく首を横に振った。
「いいえ!俺は絶対に”仲間”の大切さを証明してみせます!」
ガルスは舌打ちをし、眉間にしわを寄せた。
「チッ……めんどくせえガキだ」
だが、その目はどこか期待しているようにも見えた。
ガルスと別れた後、俺はすぐに行動を開始した。
あの魔物を倒すために必要なもの――それを知るために向かったのは、ルミエラのもとだった。
―――。
「鉱石型の魔物の弱点?」
俺の問いかけに、ルミエラは興味深げに目を細めた。彼女の赤紫の髪が、ゆらりと揺れる。
「そうなんです。洞窟の中にいた、光る鉱石みたいなやつなんですけど……めちゃくちゃ硬くて、魔法の効きが悪いんです」
「あらあら、硬い男なんて嫌われるよ?」
「今そんな話してないです。」
おちゃらけたルミエラにツッコミを入れながら、俺は続けた。
「でも、あの魔物の触手……斬撃は効いてるみたいでした。でも、本体に攻撃を当てるのが難しくて……何か良い方法はありませんか?」
ルミエラは頬に指を当て、しばし考え込んだ。そして、ふと何かを思い出したように微笑む。
「なるほどねぇ。それなら、”共鳴”を狙うのがいいかもね」
「共鳴?」
「そう。鉱石ってのは、一定の振動を受けると内部から砕けることがあるんだよ。硬いからって強いわけじゃない……むしろ、”硬すぎるが故に脆い”ってこともあるんだよねぇ」
俺は思わず前のめりになった。
「じゃあ、振動を起こせるような魔法を使えば……!」
「あぁ、うまくやれば、内部崩壊を狙えるってわけ。でも、問題はどの周波数がその魔物に効くか……」
ルミエラが指をトントンと机に打ちつける。その様子を見ながら、俺は頭をフル回転させた。
「……それなら、試してみるしかないですね」
「ふふ、そうねぇ。でも、無駄撃ちばかりしてると無駄に魔力を消耗するよ?」
「はい、だから……可能な限り準備して、絶対に成功させます!」
俺の真剣な眼差しに、ルミエラはくすりと笑った。
「じゃあ……音を利用する魔法を調べるといいかもねぇ?」
「音……」
確かに、音は振動そのものだ。もし音を魔法で操ることができれば、より精密に共鳴を起こせるかもしれない。
「ありがとうございます、ルミエラさん!絶対に役立てます!」
「ふふ、いいよ。期待してるわ、カイル君?」
こうして俺は、鉱石魔物を倒すための新たな作戦を手に入れた。
四日後――俺は、ガルスとの戦いで”仲間の力”を証明してみせる。
ルミエラの助言を受けた俺は、すぐに行動を開始した。
”共鳴”を利用した魔法攻撃――それが、鉱石魔物を倒す鍵になる。
しかし、そのためには二つの問題を解決しなければならなかった。
一つ目は、適切な振動を生み出す手段。
音を利用する魔法――つまり、”音波”を操る魔法を使えば、鉱石の硬さを逆に利用して破壊することができるかもしれない。だが、俺はまだその手の魔法を扱ったことがない。
「まずは基礎から試すしかないな……」
俺は街の図書館に向かい、”音波の魔法”について書かれた本を探した。
―――。
「音の魔法は、魔力を一定の波長で振動させ、空気を介して力を伝達する魔法――つまり空気元素魔法である。」
古びた魔導書を読みながら、俺は自分の魔法の使い方を見直す。
「空気元素魔法……ノアの適正魔法だってやつか。それに、通常の攻撃魔法とは違って、”破壊”じゃなく”影響”を与えるのが目的なのか……」
これは、俺にとっても新しい魔法の形だった。しかし、試す価値はある。
――俺は杖を構え、まずは基本的な音波を放つ練習を始めた。
「サウンド・ウェーブ。」
魔力を込め、空気を震えさせると、小さな音の波が広がる。
だが、それだけだった。
「……これじゃ、全然威力が足りないな。やっぱりまだ空気元素魔法の”イメージ”を掴めていない……。」
音波の性質を理解し、より強い振動を生み出す方法を見つけなければならない。
「練習あるのみだな……。」
―――。
二つ目の問題は、ガルスをどう説得するかだ。
ガルスは頑固だ。
「最強は群れねェ」
彼の信念を覆さなければ、俺と共闘する気にはならないだろう。
だが、一度戦ってわかった。
あの魔物は、ガルス一人では倒せない。
それを理解させるには、言葉だけじゃダメだ。俺が証明しなければならない――。
四日間、俺はひたすら訓練を続けた。
そして――ついに、リベンジの日がやってきた。
俺が洞窟へ向かうと、すでにガルスは入り口で待っていた。
「……チッ、来やがったか」
相変わらず不機嫌そうな顔だが、どこか俺を試すような視線を感じる。
「ええ、当然です。俺が来ないなんて、思ってました?」
「チッ、どうせすぐ逃げ出すことになるぜ」
ガルスはそう言いながら、大剣を肩に担ぐ。そして、洞窟の奥を睨みつけた。
光る鉱石の魔物――あいつが、またそこにいる。
「ガルスさん、一つだけ言わせてください」
「……あァ?」
俺は杖を握りしめ、真剣な眼差しでガルスを見つめた。
「俺が”仲間の力”を証明します。だから……もし俺の魔法が効いたら、その時は”一人”じゃなく、一緒に戦ってください」
ガルスはしばらく俺を睨みつけた後、鼻で笑った。
「フン……てめぇの戯言なんざ、聞くつもりはねェ」
「それでも、やってみせます」
「……面白れェ。なら見せてみろや」
俺たちは、ついに洞窟の奥へと足を踏み入れた。
洞窟の奥へと進むと、静寂を切り裂くように不気味な振動が響いていた。
(この先に……いる。)
俺はゴクリと息を飲み、さらに奥へと進んだ。
広場に出ると、まるで地鳴りのような音とともに、鉱石の壁が揺れ、巨大な影が動き出す。
それはまるで生きた鉱石の塊だった。全身に埋め込まれた鉱石が淡く輝き、光が脈打つように周囲に放たれる。
「……俺様1人でやらせろォ!」
ガルスが低く呟くと同時に、大剣を肩に担ぎ、地を蹴った。凄まじい速度で間合いを詰め、
「オラァァァ!!」
全力の一撃を振り下ろす。
しかし、その剣撃は魔物の硬質な身体に弾かれ、凄まじい火花が散る。
「チッ……やっぱりテメェは一筋縄じゃいかねェか!」
ガルスは一歩も退かず、大剣を振り抜きながら体勢を立て直す。すぐさま横薙ぎの一閃を繰り出すが――
またしても刃は弾かれた。
「チッ……クソ硬ェ!」
魔物がゆっくりと動き出す。
巨大な触手状の腕がしなり、ガルスへ向かって振り下ろされる。
「……チンタラしてられっかよ!」
ガルスは咄嗟に後方へ跳び、回避。
だが、魔物は間髪入れずに次の攻撃を繰り出してくる。触手がしなり、鞭のようにガルスの腹部を狙った。
「ぐッ……!!」
ガルスは大剣を盾のように構え、攻撃を受け流そうとするが、その衝撃は想像以上だった。
衝撃が全身に響き、ガルスの足元の岩が砕ける。
身体が少しだけ浮き上がり、後退した。
「くそ……! こんなモンじゃねェ!」
息を荒げながらも、ガルスはすぐに立ち上がる。
しかし、彼の足取りは先ほどよりも鈍い。
――それもそのはずだ。
ガルスが初めてこの魔物と戦った時に負った傷は、まだ完全には癒えていない。
痛みが体を蝕み、無意識のうちに動きが鈍くなっていた。
だが、それでもガルスは前へ進む。
「最強は……群れねェ……!」
彼の言葉通り、ただ一人で戦い続ける。
だが、その強靭な意志とは裏腹に、彼の身体は徐々に限界を迎えつつあった。
魔物の触手が再び振り上げられる。
「……ッ!」
ガルスが剣を構え直し、攻撃を迎え撃とうとしたその瞬間――
足がもつれた。体が思うように動かない様子だ。
「……クソが!!」
その隙を逃すはずもなく、魔物の触手が一気にガルスを襲う。
「危ない!!」
俺は即座に魔力を練り、杖を振る。
「ウィンド・ブラスト!!」
強烈な風の魔法が発動し、ガルスの身体を吹き飛ばすように押し出した。
次の瞬間、魔物の触手が振り下ろされ、ガルスが立っていた場所の地面が、粉々に砕け散る。
「ガルスさん、大丈夫ですか!?」
俺は素早く駆け寄る。
ガルスは地面に膝をついていた。
「……チッ、雑魚に助けられるとはな……」
唇を噛み締めながら、悔しそうに拳を握る。
俺は杖を強く握りしめた。
「ガルスさん、その傷じゃ戦えません。ここからは――俺が戦います!」
魔物が再び動き出す。
俺は決意を込めて、前に出た。
この戦い、絶対に勝たなければ――。
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