197話 シルビア、来訪
今、カインの営む学園には、この街の領主――シルビア・アルダビス女伯が来ている。
それは、先日の謁見でシルビア女伯が「魔法を学んでみたい」と言ったことがきっかけだった。
貴族でありながら"めんどくさがり"な彼女が、実際にここまで足を運んでくるとは正直驚いたが、それだけ魔法に対する関心が強かったということなのだろう。
とはいえ、この学園に領主が来るなんて異例中の異例だ。
学園の入り口に姿を現した瞬間、子供たちは驚きで目を丸くし、カインに至っては――
「……………………………………は?」
まるで思考が止まったかのように、口を開いたまま硬直していた。
「あー……その、カインさん?」
俺が声をかけるも、カインはしばらく放心したまま微動だにしなかった。
「ちょっとカイル君、これヤバいんじゃない?」
ルミエラが小声で俺に囁くが、俺にできることはない。
ようやく現実に追いついたのか、カインはピクリと動き、まるで幽霊を見たような目で俺を見る。
「……え? 本当に連れてきたのか?」
「はい、まぁ……。」
「いや、でもどうやって……。」
「どうやら、魔法に興味があったみたいで……。」
カインは頭を抱えた。
「……嘘だろ。」
ここまで驚くとは思わなかったが、それだけシルビア女伯がこの学園に来ることが現実味を帯びていなかったのだろう。
とはいえ、来てしまった以上、しっかり案内しなければならない。
俺たちはまず、子供たちの剣術訓練の様子を見てもらうことにした。
「ここでは、まず12歳未満の子供たちが基礎的な剣の型を学びます。」
訓練場では、小さな子供たちが木剣を振るい、真剣な表情で型を練習している。
シルビア女伯は腕を組みながら静かに見つめていた。
「ふーん……。」
それだけを呟き、特に興味を示す様子はない。
(まぁ、そうなるよな……。)
シルビア女伯は剣士の家系だ。貴族としての教育を受け、優秀な騎士たちの剣術を見て育っている。
今さら基礎訓練を見ても、新鮮さはないだろう。
「次の訓練を見に行きましょう。」
俺たちは少し焦りながら、学園の"真の訓練"へと案内することにした。
学園にある唯一の訓練場に着くと、そこでは12歳以上の生徒たちが、"剣"と"魔法"を融合させた独自の戦闘法を練習していた。
「これは……!」
シルビア女伯の瞳が一瞬で輝きを増す。
これまで退屈そうだった彼女の態度が、一変した。
生徒たちは剣を振るうと同時に、魔法を織り交ぜた技を繰り出している。
――火を纏った剣で斬撃を飛ばす者。
――風をまとわせ、異常な速度で剣を繰り出す者。
――土の魔法で足場を変化させ、相手のバランスを崩す者。
どの技も、通常の剣術や魔剣には再現できない独創的な動きと力を生み出していた。
「こ、こんな戦い方が……!?」
シルビア女伯は、まるで未知の世界を目の当たりにしたかのように目を見開く。
「ふふん、興味が出てきたみたいだね?」
ルミエラが小声で俺に囁く。
(やった……! これは、いけるぞ!)
俺は内心ガッツポーズをしながら、シルビア女伯に話しかける。
「これが、この学園でしか学べない"魔法剣術"です。」
「魔法剣術……!」
「剣の国、アルガド王国の剣術と、魔法の国ノワラの魔法。その二つを組み合わせた、新たな戦闘技術です。」
シルビア女伯は感嘆の声を漏らす。
「剣と魔法を同時に……なんてこと……。」
彼女の目は、完全に訓練を受ける生徒たちに釘付けになっていた。
「そして、この学園で教える"生きる術"は、ただ剣を振るうことではなく、剣と魔法を組み合わせることで新たな可能性を生み出すことなんです。」
俺の言葉に、シルビア女伯は黙ったまま、じっと訓練を見つめていた。
その表情は、さっきまでとはまるで違う。
"興味"があるどころか、"強い関心"すら抱いているようだった。
(これは……説得のチャンスだ!)
俺は最後の一押しをするために、意を決して言葉を紡いだ。
「シルビア女伯……あなたも、この技術を学んでみませんか?」
「……!!」
シルビア女伯の身体がピクリと反応する。
彼女は拳を握りしめ、小さく息をのんだ。
そして――
「……私、魔法やってみたい!」
ついに、彼女の口からその言葉が出た。
(よし……!!)
俺はルミエラと目を合わせ、小さく頷いた。
そうと決まれば、俺とルミエラは早速シルビア女伯に魔法を教えることにした。
まずは魔法の基礎知識から始め、その後に魔法理論の説明、さらに魔法の発動原理についての授業を行う――予定だった。
しかし、その計画は早々に崩れることとなる。
「……すぅ……すぅ……」
目の前のシルビア女伯は、優雅に椅子に座ったまま、すでに眠りについていた。
「ね、寝ている……っ!」
俺が呆れている横で、ルミエラの手に握られていた指示棒がギシギシと音を立てる。そして次の瞬間、ボキリと無残に砕かれた。
「このお貴族様にはちょっと教育が必要なようだね!!」
ルミエラの顔には怒りの色が浮かび、今にもシルビア女伯に手を伸ばしそうな勢いだ。
「ルミエラさん!この人に手を出したら俺たち殺されちゃいます!」
「お、落ち着けルミエラ!」
俺とカインは慌ててルミエラの両腕を押さえ、必死に宥める。シルビア女伯を揺さぶってでも起こしたい気持ちは分かるが、そんなことをしたら俺たちの命が危ない。
ルミエラをなんとか落ち着かせた後、俺は考えた。
(椅子に座って人の話を聞く、っていう勉強法は、この人には合わないな……)
知識を詰め込む座学よりも、実際に体を動かして学ぶ方が向いているタイプなのかもしれない。カインと同じだ。
そこで俺は、ふとある方法を思いついた。
(ん?カインと同じ……?)
俺はニヤリと笑い、ルミエラとカインに視線を送る。
「よし、ちょっと方針を変えてみよう……」
そして、俺たちはシルビア女伯のための新しい授業プランを考え始めた。
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