193話 剣と魔法の学園
カインがこの場所を離れても、この土地を守る方法――。
俺は腕を組み、深く考え込んだ。
地主であるカインがいるのに、勝手に建物を取り壊そうとする連中を抑える方法なんてあるのか?
ないだろうな……。
いや、待てよ? 俺の“勇者”という肩書きを使えば、あるいは――
……駄目だ。
俺がいくらこの場所を守ろうとしても、俺がこの国を離れた途端、また元通りになってしまう可能性が高い。
それじゃあ意味がない。
根本的な解決策にならなければ、カインはいつまで経ってもこの場に縛られたままだ。
「……どうするか」
俺は静かに呟いた。
「うーん……」
隣でルミエラが腕を組みながら、俺と同じように考え込んでいる。
「ここにさ、王族関係者とか有力者の支援でもつければ話は変わるんじゃない?」
「うーん……」
「なら、ギルドの管轄にしちまうとかは?」
「ギルド……」
ギルドの管理下に入れば、勝手に建物を取り壊そうとする連中に対抗できるかもしれない。
だが、それも難しい。
ギルドは基本的に”利益”が見込める施設や土地しか管轄しない。
ここは”土地”としての価値があるとはいえ、ギルドにとって金銭的なメリットがあるかどうかは微妙なところだ。
「……うーん、やっぱり駄目かぁ……」
ルミエラも頭を抱える。
この土地を守る確実な方法――それが何なのか、まだ見えてこない。
「……ここを、“正式な学園”にできれば話が変わるんじゃないですか?」
俺の呟きに、ルミエラが驚いたように俺を見る。
「正式な学園……?」
「そうです。今はただの自営業みたいな扱いだから、周囲から好き勝手に狙われている。でも、もしここが“国公認の学園”として認められれば、この土地を狙う奴らもそう簡単に手を出せなくなるはずです。」
ルミエラは目を見開いた。
「それだ! さすがカイル君!」
俺はすぐに冷静になり、問題点を整理する。
「ただし、国に認められるためには条件が必要でしょうね……。」
「例えば?」
「最低限の教育環境、教師の数、資金の確保……」
「……あちゃぁ……」
ルミエラが頭を抱える。
そう、ここには正式な教師がいるわけでもないし、建物もかなり傷んでいる。
資金もほぼゼロの状態で、学園としての体裁を整えるのは至難の業だ。
「でも、これが実現できれば、カインさんがここに縛られる理由もなくなるんだよな……?」
ルミエラが慎重に言葉を選びながら、俺に確認する。
「……はい。おそらく。」
もしカインの学園が正式に認められ、運営が安定すれば、彼はここを離れることができる。
そして、俺たちと共に戦いに行くことができる。
だが、問題はどうやってそれを実現するか――
その方法を見つけなければならない。
―――。
カインの学園を正式なものとするという目標に至った俺たちは、その後も一生懸命に思考を巡らせた。そして、ある結論に至る。
それは――
剣術と魔法の組み合わせによる新たな戦闘法を教える”剣と魔法のハイブリッド学園”を設立し、その有用性を国に訴える。
そして、国家の支援を受けて正式な学園として運営してもらう。
この計画が成功すれば、カインの学園は正式な教育機関となり、これまで抱えていた問題――資金不足、生徒の将来、教員の確保、土地の保護――すべてが解決へと向かうだろう。
だが、この計画を実行するためには、まずカインから俺の提案にいい返事を貰わなければならない。
俺が子供たちに魔法を教えられなければ、計画の初歩から崩壊してしまう。
俺とルミエラは、一抹の不安を抱えながらカインの下へと歩みを進める。
カインは広場の片隅に座り、じっと何かを考えていた。俺たちの足音に気づいたのか、ゆっくりと顔を上げる。
「……どうした?」
カインの表情は硬い。
俺は一度、深く息を吸い込み、言葉を選びながら口を開いた。
「カインさん。あなたは、この学園を守りたいですよね?」
「……当たり前だ」
カインは眉をひそめながら答える。
「だったら、俺に彼らに魔法を教えさせてください」
「……魔法を?」
カインが怪訝な表情を浮かべるのも無理はない。剣士の国であるアルガドでは、魔法はほとんど用いられない。特に、ここにいる子供たちは剣の道を志している者がほとんどだろう。
それでも、俺は続けた。
「この学園を正式なものにするために、俺たちは国に認めてもらう必要があります。そのためには、この学園が“新たな価値”を持つ必要があるんです」
「新たな価値、か……」
カインは腕を組み、考えるように目を閉じた。
「この国には、すでにいくつもの剣士の学園があります。その中で、生徒たちが“ここでしか学べない”と思えるような学園にする必要があります」
俺はそこで一拍置き、カインの目を真っ直ぐ見据えた。
「それが、剣と魔法の融合です」
「……剣と、魔法?」
カインは驚いたように言葉を繰り返す。
「そうです。剣士であっても、魔法を扱えるようになれば、生存率は大幅に上がります。剣術だけでは防ぎきれない攻撃も、魔法を使えば対応できるかもしれない。逆に、魔法使いが最低限の剣術を身につければ、接近戦での弱点を克服できる」
カインの表情が少し険しくなる。
「だが、それは理想論だろう? 剣士は魔法の才能がないから剣士になるんだ。魔法を使えるのなら、最初から魔法使いとしての道を歩んでいるはずだ」
「それは、違います!」
俺は即座に否定する。
「この国では、魔法を学ぶ機会がないだけです! 才能があるかどうかなんて、学んでみなければ分かりません!」
カインは少しだけ息を呑んだようだった。
「試しに、子供たちに魔法を教えさせてください。それで、本当に才能がないと分かったら諦めます。でも、もし才能があったら……?」
俺の言葉に、カインは沈黙する。
「カイル君の言う通りさ」
ルミエラが口を挟んだ。
「才能があるかないかは、やってみなきゃ分からない。魔法なんて学ぶ機会すらなかったんだ。試してみる価値はあるだろ?」
カインはゆっくりと立ち上がった。
俺とルミエラを交互に見つめ――そして、静かに言った。
「はぁ……いいだろう」
「……!」
「ただし」
カインは俺を睨むように見た。
「子供たちが傷つくようなことがあれば、その時点で中止だ」
「もちろんです!」
俺は即答した。
―――。
――それから数日後。
俺はついに、カインの学園で最初の魔法の授業を開くことになった。
集められた12歳以上の子供たちは、俺の言葉を聞いて、最初は半信半疑だった。
「剣士なのに、魔法を使うの?」
「私たちにできるの?」
しかし、俺が授業を続けていくうちに彼らは魔法に興味を示し、さらには魔法を発動させようとする者さえ現れた。
そして――
「すげぇ! 本当に火が出た!」
――魔法の光が灯った瞬間、子供たちの目が輝いた。
カインは、それを黙って見つめていた。
そして、俺は確信した。
(ここは、変わる。)
この学園は、新たな剣士の在り方を示す場となる。
そして、俺たちはここから、この国に革命を起こす――。




