189話 次なる街
翌朝、俺たちは昨日泊まった宿の代金を払い、早々に村を出発した。
次の目的地は、鍛冶の街――ヒルデア。
昨日のうちに村の住民から情報を集めておいたおかげで、道に迷うことなく馬車を進めることができた。
ヒルデアは、アルガド国内でも随一の鍛冶技術を誇る街だ。
この国は剣士が多いため、どこの村や街にも鍛冶屋はあるらしい。
だが、ヒルデアで作られる武具は、それらとは格が違うという。
ここで作られる剣の特徴は、魔力が込められていることだ。
通常の鍛冶技術では、高温で熱した鋼を叩き延ばし、形を作る方法。溶かした鉄を型に流し込み、成形する方法。
この2つが主流だ。
しかし、ヒルデアではさらにひと手間加える。
それは――剣を成形する段階で、鍛冶師が”魔力”を込めるという工程だ。
つまり、ヒルデアで作られる剣は“魔剣”として生まれる。
普通の剣よりも格段に強度が増し、特殊な力を持つのが特徴らしい。
例えば、剣を振るだけで炎や風を放つもの。
斬撃を飛ばす能力を持つもの。
魔力と鋼が融合し、異常なまでの硬度を誇るもの。
そんなファンタジーな武器が存在するらしい。
俺は心を躍らせた。
本当にそんな武器が存在するのなら、ぜひこの目で見てみたいし、できることなら一本くらい手に入れたい。
そんな期待を胸に、俺たちはヒルデアを目指す。
馬車を走らせること数時間。
地面は砂利道から舗装された石畳へと変わり、
周囲には煙突から黒煙を上げる建物がいくつも見え始めた。
ルミエラが手綱を引き、馬車の速度を緩める。
「そろそろ、ヒルデアに着くよ。」
彼女がそう言うと、遠くに大きな門と城壁が見えた。
街の入り口には、頑丈そうな金属製の門があり、
その上には剣を交差させた紋章が刻まれている。
(この紋章……アルガド王国の国章か。)
どうやら、ヒルデアは城塞都市になっているらしい。
「ほぉ~……結構迫力ある街ですね。」
俺が感心しながら眺めていると、門の前には衛兵らしき男たちが数人立っていた。
彼らは皆、揃いの銀色の甲冑を着込み、腰には立派な剣を携えている。
「ふむ、勇者殿が入国しているとは聞いていたが……まさか本当に来るとはな。」
衛兵の一人――短髪で、顎に薄い髭を生やした男が俺たちに近づいてきた。
「勇者……?」
俺が首を傾げると、ルミエラがため息をつく。
「そういえば、昨日郵便屋のおっさん、あんたのことを村中に言いふらしてたんだよ。」
「……マジですか。」
まさか、昨日の郵便屋の老人がそんなことを……。
まぁ、もうバレてるなら仕方ない。
「えっと……はい、カイル・ブラックウッドです。」
俺が名乗ると、衛兵の男は腕を組みながら頷いた。
「噂通りの若者だな……よし、通れ。ここは勇者殿のような方を歓迎する街だ。」
そう言うと、彼は門の横に立つ別の衛兵に合図を送った。
「開門!」
重厚な鉄の門がゆっくりと開いていく。
その先に広がるのは――活気溢れる鍛冶の街、ヒルデア。
街の中は、鍛冶師たちの怒号と、金槌の打ちつける音で満ちていた。
俺たちはついに、剣士の国が誇る鍛冶の街に足を踏み入れたのだった。
「すごい……!圧巻って感じですね!」
俺は馬車の窓から頭を出し、興奮を抑えきれずに呟いた。
目の前に広がるのは、これまで訪れたどの街とも違う独特な雰囲気だった。
街中の至る所で火花が舞い、金槌が鉄を叩く音が鳴り響いている。
家々の屋根には黒煙を上げる煙突が並び、空に向かって白い蒸気が昇っているのが見えた。
まさに“鍛冶の街”というべき光景だった。
だが――
「鉄とおっさん臭い……!」
ルミエラが顔をしかめ、鼻を押さえる。
「はは……確かに匂いは強烈ですね。」
俺は笑いながら、再び街を見渡した。
確かに、街中には屈強な男たちが多い。
鍛冶師だけでなく、剣士や戦士と思しき者たちが行き交い、皆が腰に立派な剣を携えている。
(さすが剣士の国……街全体が戦士の鍛錬場みたいだな。)
俺は興味津々で街を見回しながら、まずは宿屋を探すことにした。
ヒルデアは四つの区画に分かれている。
北区 → 鍛冶屋が点在し、武具が作られる工業区
西区 → 宿屋や食堂が並ぶ商業区
南区 → 貴族や名のある鍛冶師たちが住む住居区
東区 → 剣士学園や修練施設がある戦士育成区
俺たちが今いるのはもちろん北区だ。
ここでは鍛冶屋が軒を連ね、金槌の音と熱気に包まれた活気ある通りが広がっている。
通りを歩けば、店先には完成した剣や鎧がズラリと並べられており、
どの店も職人たちが自慢の品を売り込んでいた。
「ほぉら!ここの剣は他と違うぜ!魔力が籠った特注品だ!」
「今なら特価で出してるぞ!どうだ兄ちゃん!」
店主たちの威勢の良い声が飛び交う中、ルミエラは落ち着かない様子であたりを見回している。
「ちょっと……こんなに鍛冶屋ばっかで、ちゃんと宿屋あるのかね?」
「大丈夫ですよ。西区に宿屋が多いって聞きました。」
「さっさと行こう!このままだと金槌の音で耳がやられちまう!」
そう言って、ルミエラはスタスタと歩き始めた。
西区へ向かうと、確かに宿屋や食堂が多く並んでいた。
「お、あそこなんか良さそうじゃないか?」
ルミエラが指差したのは、『赤鉄亭』という看板が掲げられた宿屋だった。
外観は頑丈な石造りで、所々に装飾された鉄細工が施されている。
入り口には剣を持った戦士の像が立っており、なんとも“戦士の街”らしい宿屋だった。
俺たちは馬車を預け、部屋を借りると、まずは荷物を置いて一息ついた。
「ふぅ……とりあえず、宿は確保できたな。」
「んじゃ、飯食ってから街を見て回ろうか。」
ルミエラが意気込むと、俺も頷いた。
食堂で簡単な食事を済ませた後、俺たちは再び北区の鍛冶屋通りへと足を運んだ。
ここには、見渡す限り武具や防具を扱う店が並んでいる。
それぞれの店には特色があり、剣の専門店もあれば、防具に特化した店もある。
「おぉ、ここの剣……すごいですね!」
俺は店先に並ぶ魔剣を見て、思わず感嘆の声を漏らした。
刀身が青白く光るもの、刻まれた紋章が淡く輝くもの、
柄の部分に魔石が埋め込まれたものなど……。
どれも一目で普通の剣ではないと分かる代物だった。
「へぇ、これが噂の魔剣ってやつかぁ。」
ルミエラも興味深そうに剣を手に取る。
「……ん?なんか剣から、ビリビリするんだけど?」
「それ、雷元素の魔力が込められてるみたいですよ!」
店主が笑いながら説明する。
「触るだけなら問題ないが、魔力を込めると雷を纏う仕組みになってるんだ。ただし、魔力量が足りないと暴発することもあるから気をつけな!」
「暴発……!?カイル君、これあんたにやるよ!」
「いやいや、いきなり渡さないでくださいよ!」
ルミエラが勢いよく俺に剣を押し付ける。
すると、その瞬間――
バチバチッ!
俺の手の中で剣が光り、微弱な雷が走った。
「うわっ!?」
「おぉ、流石魔法使いだな!あんたなら問題なく扱えそうだ!」
店主が満足そうに頷く。
「どうだ兄ちゃん、その剣。買っていくか?」
「うーん……」
俺はしばらく悩んだが、今はまだ色々と見て回りたかったので、ひとまず保留にすることにした。
「すみません、ちょっと他の店も見てから考えます。」
「おう、じっくり選びな!」
そう言って店を後にし、俺たちはさらにヒルデアの街を探索するのだった。
(この街には、まだまだ面白いものがありそうだ……。)
俺は、鍛冶の街ヒルデアの奥深さを改めて実感するのだった。




