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異世界戦記 ~ここで俺は最強に至る~  作者: かげ2500
第6章 日常編

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185話 黒い影

 オレンジ色の夕焼けが空を染める中、俺は静かに帰路についていた。


 今日の訓練はかなり激しいものだったが、そのおかげか、最近溜まっていたストレスもだいぶ軽減された気がする。久しぶりに全力で魔法を使い、身体を動かせたのはやはり気持ちがいい。


(やっぱり、戦うって楽しいよな。)


 そんなことを考えながら歩いていると、後ろからトボトボとした足音と、疲れ切った二人の声が聞こえてきた。


「カイル君……初日から張り切りすぎだよぉ……」


「これが、勇者の訓練なんですね……死にそう……」


 振り返ると、エリスとルークが泥だらけの姿で歩いていた。


 髪には枯れ葉が絡まり、服は土と汗でぐちゃぐちゃ。エリスは腕を抱えてぐったりとし、ルークに至っては今にも倒れそうな顔をしている。


「二人とも、そんなことで弱音を吐いてたら、魔王討伐なんて夢のまた夢ですよ。」


 俺がさらりと言うと、エリスは歯を食いしばりながら拳を握りしめ、ルークはオドオドとした表情で俺を見た。


「そんなに……強いんですか?魔王って……」


 ルークの不安そうな声に、俺は真剣な声色で答えた。


「……うん、強かった。みんなで掛かっても、死ぬかと思うほどに。」


 俺の言葉に、エリスとルークがゴクリと息を飲むのが聞こえた気がした。


(あの時の戦いを思い返すと、やっぱり俺たちは運が良かったんだよな……)


 ヴァルグ・アシュヴァルを倒せたのは、決して俺一人の力ではない。多くの仲間がいたからこそ、勝利を掴み取れた。だが、もし次に戦う魔王が、さらに強かったら……?


 そんなことを考えていると、不意にルークが小さく呟いた。


「……それでも!今日のはちょっとやりすぎでしたけどね!?」


 俺はそのツッコミに苦笑いを浮かべた。


 確かに、考えてみれば少しやりすぎたかもしれない。初日から回避訓練を実戦レベルでやらせたり、魔力切れギリギリまで魔法を使わせたり……。


(……次からはもう少し、段階的にやるか。)


 今後の訓練の進め方を反省しながら、俺たちはそれぞれの帰路についた。


 帰り道、ふと気になったことがあったので、エリスに聞いてみた。


「そういえば、二人ってどこに住んでるんですか?」


 エリスは少し考えるような仕草をしたあと、口を開いた。

 ルークはなんだか驚いたような表情をしているが、エリスが静止する。


「私、実の両親を幼い頃に亡くしててね……。今はルークのお家に養子として迎え入れられているの。」


「そ、そうだったんですか……」


 俺は知らず知らずのうちに、少し表情を曇らせた。

 エリスは、これまで明るく振る舞っていたが、彼女はさらに苦しい過去を抱えていたのだ。


「でも、大丈夫!ルークの家族はすごく優しくしてくれるし、今は幸せだよ。」


 そう言って微笑むエリスは、どこか儚げだった。


(……すごいな、エリス。)


 両親や恩人を亡くしながらも、強く生きてきた彼女の精神力は、本当に尊敬するべきものだ。

 俺は、ふと胸の奥が締め付けられるような感覚を覚えた。


(俺も、もっと強くならなきゃな。)


 そんなことを考えながら、俺は宿へと足を運んだ。


 宿に戻ると、俺はすぐにベッドに倒れ込んだ。


「ふぅ……今日は疲れたな……」


 天井を見上げながら、今日の出来事を振り返る。


 久しぶりに両親と再会したこと。エリスとルークと一緒に訓練をしたこと。


(明日からは、もう少し計画的に訓練をしよう。)


 そう決意しながら、目を閉じる。


 ゆっくりと、意識が闇に沈んでいく。

 今日もまた、一日が終わる。


 俺の旅立ちの日は、確実に近づいている。



 ―――。



 それからも、俺の日常は変わらず続いていた。


 毎朝、エリスとルークの訓練に付き合い、学園の授業が始まる直前まで指導を行う。

 フェンリたちが授業をしている合間、学園の図書館で魔導書を読み漁り、夕方にはフェンリたちと合流して街へ繰り出す。


 そんな日々を過ごし、あっという間に五日が過ぎた。

 そして、その五日目の朝――王城からの召喚が届いた。


(旅支度が整ったのか? )


 そんなことを考えながら王城へ向かうと、ちょうどルミエラとアルマも城門前に到着していた。


「おぉ、カイル君!どうだい? 充実した青春を謳歌できたかい?」


 ルミエラが軽く笑いながら言う。


「えぇ、楽しめましたよ。」


 俺はそう返しつつ、アルマに目を向けた。


「アルマさんは、決まりましたか? ここに残るのか……エグザミートに戻るのか。」


 アルマは少し驚いたように俺を見た後、口を開きかけた。


 しかし、その瞬間――


「後でね。」


 アルマは言葉を飲み込み、わずかに微笑む。


 おそらくこの数日間で、悩みに悩んで決めたのだろう。彼女の表情には、迷いがなくなっていた。

 俺たちはそれ以上は何も聞かず、王城の大扉をくぐる。


 謁見の間に入ると、ディレオス国王と王妃イザベルが玉座に座っていた。


 エレーナ王女の姿はない。


 俺たち三人は同時に膝をつき、国王に敬意を示す。


「今日ここに集まってもらったのは、他でもない……カイル殿、ルミエラ殿。そなたらの旅支度が整ったからである。」


 やはり旅立ちの準備が完了したらしい。俺は内心ホッとしつつも、これからのことを思い巡らせた。


 国王は続けてアルマに視線を向ける。


「そして、アルマ殿。この数日間で決めていただけましたかな?」


 国王の言葉に、アルマがそっと顔を上げる。


 彼女の目には、強い決意が宿っていた。


「はい、決めました。私は――」


 しかし、まさにその瞬間――


 バンッ!!


 突然、謁見の間の扉が乱暴に開かれた。


「お父様!!!」


 その場にいた全員が驚き、一斉に扉の方を見る。


 息を切らし、髪は乱れ、衣服も整っていない――まるで慌てて飛び出してきたかのような姿のエレーナ王女が立っていた。


「エレーナ!?」


 国王ディレオスの驚愕の声が響く。


「エレーナ王女!!今は大事な謁見の最中ですぞ!」


「それに、体調が優れないのでしょう!? どうかお部屋に戻られた方が……!」


 扉の前にいた二人の兵士が制止しようとするが、エレーナ王女はそれを振り払うように駆け出した。


 まっすぐに国王へと向かい、その耳元に何かを囁く。

 次の瞬間、国王の表情が凍りついた。


「何……!? それは本当なのか!?」


「はい……! 間違いありません! 敵意を持つ謎の“5つの黒い影”がこの国に迫っています……! 私の未来視はそう言っています!!」


 エレーナ王女の未来視――それは彼女のもつ加護であり、これまで幾度となく王国を危機から救ってきた。


 彼女の未来視は常に曖昧だが、その予言が実現しなかったことは一度もない。


 国王は重々しく沈黙し、玉座の肘掛を強く握りしめた。


「“5つの黒い影”…………」


 王妃イザベルも不安げな表情を浮かべる。


 俺は、エレーナ王女に向き直り、恐る恐る尋ねた。


「エレーナ王女……具体的に何か見えたんですか? その“黒い影”とは、一体……?」


 エレーナ王女は浅く息を整えながら、俺の方を見た。


「はっきりとは分かりません……ただ、巨大な影が5つ……それぞれ異なる姿をしているように見えました。禍々しく、まるで国を覆い尽くすような……!」


 彼女の手が小さく震えているのを、俺は見逃さなかった。


 未来視を発現するたびに、彼女は相当な精神的負担を受ける。

 それでもこうして駆けつけ、報告するほどの事態――それがどれほど重大なものかは、俺にも察せられた。


 ルミエラが腕を組みながら口を開く。


「ってことは、その5つの影がこの国を襲いに来るってことかい?」


「いえ……狙いは国ではなく……」


 エレーナ王女はそこで言葉を一度区切り、鋭い視線で俺を見据えた。


「5つの影の狙いは……カイルさん、あなたなのです!」

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