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異世界戦記 ~ここで俺は最強に至る~  作者: かげ2500
第6章 日常編

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183話 温かみ

 しばらくして、落ち着きを取り戻した俺たちは、俺の泊まる部屋で向かい合い、それぞれ椅子に座った。


 改めて、こうして両親と静かに向き合うのは、何年ぶりだろうか。

 まるで時間が巻き戻ったような感覚に陥る。


「二人は……どうしてノワラに戻ってきたんですか?」


 俺はそっと問いかけた。

 まだ俺が指名手配されていたと思っていた頃、両親にはダール国に逃げてもらっていた。


 その方が安全だと思っていたから。

 なのに、こうして再びノワラに戻ってきた理由は――


 俺の問いに、母親は机にバンッと手を置いた。


「決まってるでしょ……!カイル、お前が心配だからよ!」


 その声には涙が滲んでいた。

 胸にチクリと鋭い痛みが走る。


「1年前……何の前触れもなく突然指名手配されて……気づいたら勇者だとか持ち上げられてて……魔王を倒したって……!」


 母の声は震えていた。


「母さんたち、それを最近知ったのよ!?どれだけ心配したか分かってるの!?」


 その言葉が、まるで俺の心臓を直接締め付けるようだった。


 ……分かっている。

 母の言うことは、あまりにも正論だ。


 自分の子供が突然犯罪者にされ、今度は世界を救う勇者だと祭り上げられる。


 しかも、それをすべて”終わった後”に知る恐怖と混乱。

 どれほどの不安を抱えたか、想像するだけで胸が痛む。


 俺は……何も言えなかった。


「……」


 視線を落とし、ただ黙っていると、父親が静かに口を開いた。


「……カイル、お前、勇者になったんだってな。」


 俺は父の方を向く。


「街に戻る道すがら、いろんな人から聞いたぞ。それに、ダール国でのお前の活躍も、俺たちは知ってる。」


「そう……ですか。」


「確かに、俺たちはお前の安否が心配で堪らなかった。」


 父はそう言いながら、穏やかに微笑んだ。


「だが、同時に誇りにも思った。お前がどれだけのことを成し遂げてきたのか、どれだけの人を救ってきたのか……俺たちには計り知れない。だがな、カイル――」


 父は俺をしっかりと見据えながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「お前は、少し自分のことを大切にしなさすぎる。」


「……!」


 その言葉に、俺はハッとした。


「確かに”勇者”っていうのは多くの人を救う存在なのかもしれない。だが、勇者の前にお前は、俺たちの息子だ。俺たちにとっては、世界よりもお前の方が大事なんだよ。」


「だから、これだけは約束してほしい――どんなに辛いときも、絶対に一人で抱え込むな。」


「生きろ、カイル。勇者としてじゃない、お前自身として――」


 父の言葉に、母もそっと俺の手を握る。


「カイル……どんなことがあっても、お前は私たちの大切な息子よ。」


 俺は……俺は、どう返せばいいのか分からなかった。


 胸の奥がぎゅっと締めつけられるような感覚。

 まるで、ずっと忘れていた何かを、優しく抱きしめてもらっているような……そんな気持ちだった。


 俺は小さく頷くことしかできなかった。


「……ありがとう、ございます。」


 それは、俺の本心だった。


 今後、どれだけ勇者として名を馳せたとしても、俺を”俺”として見てくれる人がいる。

 それだけで、救われた気がした。


 そして、俺はようやく気づく。

 “勇者”じゃなく“カイル”として大切に思ってくれる人たちが、こんなにも近くにいたことを。


 その事実だけで、なんだか心が軽くなった気がした。


 俺は――この世界に、確かに生きている。

 そんなことを改めて実感したとき、父親が穏やかに口を開いた。


「カイル……聞かせてくれないか?お前が今まで歩んできた道を。俺たちにも背負わせてくれ。」


 その言葉に、一瞬驚いた。


 俺の歩んできた道――それは、決して平坦なものではなかった。


 苦しいことも、悲しいことも、数えきれないほどあった。

 だけど、それと同じくらい――いや、それ以上に、楽しいことや、嬉しいこともあった。


 俺はそんな思い出を噛み締めながら、すぐに持ち直し、力強く答えた。


「はい!」


 俺は話した。


 ダール国での冒険。


 最初に出会ったのは、妙に饒舌な喋るガイコツ。

 最初は怖かったが、話してみると案外面白いやつで、魔法や戦術について色々教えてくれた。


「ガイコツが喋るの!?」


 母が目を丸くしながら驚くと、俺は笑って続ける。


「ええ、最初は俺も驚きました。でも、知識が豊富で、色んなことを教えてくれたんです。まるで教師みたいな人でしたよ。」


 次に出会ったのは、淫らで酒好きだけど頼りになる師匠。


「……淫ら?」


 母がピクッと反応する。


「いやいや!変な意味じゃなくて!」


 俺は慌てて弁解する。


「確かに酒好きで、ちょっとだらしないところはあったんですけど、戦う技術は本当にすごかったんです!魔法と体術の融合技術なんかも教えてくれて……。」


「ふーん……まあ、それならいいけど……。」


 母は若干不機嫌そうだが、父は面白そうに頷いていた。


 そして――


 身体は小さいのに、ものすごい頭のいい聖級魔法使い。


「あの人は、本当に天才でした。身体は俺よりずっと幼いのに、何よりすごいのは知識量で……。あの人のおかげで魔法理論を一から叩き込まれましたよ。」


「ほう……そんなすごい人がいたのか。」


 父が興味深そうに顎を撫でる。


「ええ。でも、その分、めちゃくちゃ厳しかったです……。毎日睡眠時間を削られて、魔法の理論と訓練ばっかりで……。」


 俺がしみじみと振り返ると、母が心配そうに言った。


「そんな……無理しすぎじゃない?カイル……。」


「まあ、でもそのおかげで、今の俺があるんです。」


 俺は軽く笑う。


 そうやって、俺は両親に語った。


 冒険の日々を、仲間たちとの出会いを、そして――別れを。


 話しているうちに、自然と心が落ち着いていくのを感じた。


 まるで、今まで自分だけが抱えていたものを、少しずつ両親と分かち合っているような気がしたから。


「カイル……お前、本当に色んな経験をしてきたんだな……。」


 父が、深く頷く。


「母さん、こんなすごい息子がいたなんて……。」


 母は涙ぐみながら、俺の手をぎゅっと握った。


「……ありがとう、カイル。生きててくれて、本当にありがとう。」


 その言葉に、俺の胸が熱くなった。


「俺のほうこそ、ありがとうございます……父上、母上。」


 俺は、ずっと伝えられなかった感謝を込めて、そう答えた。

 そして、こうして語り合う時間こそが、何よりも大切なものなのだと、改めて実感したのだった。

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