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異世界戦記 ~ここで俺は最強に至る~  作者: かげ2500
第6章 日常編

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181話 奇妙な関係

「ところで、その仇だっていう魔王の名前ってわかるんですか?」


 エリスとの話が一段落し、俺たちは並んで学園の廊下を歩いていた。


 ふと、さっきの話の続きを思い出し、俺はエリスに尋ねる。

 エリスは足を止め、悔しそうに唇を噛んだ後、小さく呟いた。


畜生道(ビーストルーン)の……ライサ・フェングロウよ。」


 俺の中で、何かが引っかかる。


「畜生道……?」


 その名前を聞いたことがある。

 考えを巡らせていると、ある記憶が頭に蘇った。


「まさか、恩人の勇者って……『蒼銀の翼』のメンバーですか!?」


 エリスが目を見開き、驚いたように俺を見る。


「カイル君、知ってるの!?」


「いや、記憶にあるだけですが……」


『蒼銀の翼』――それは、俺がまだダール国にいた頃に聞いたことがある勇者パーティーの名前だった。

 勇者と称されるほどの実力者が集まる伝説的な冒険者パーティー。

 彼らは数々の苦難に挑み、多くの功績を残していた。


 だが――


「……確か、ダール国でそのパーティーの訃報を聞いたことがあります。」


 俺がそう言うと、エリスは深く頷いた。


「そう……私が言っていた"二人の勇者"の内1人は、『蒼銀の翼』のリーダー、レイン・エヴァンズだったの。」


 レイン・エヴァンズ


 確かに、『蒼銀の翼』の中心人物だったと聞いたことがある。


「レインは……私が幼い頃、”ある争い”に巻き込まれた時に助けてくれたの。」


 エリスの目が遠くを見つめる。


「殺されそうになっていた私を救ってくれて、安全な場所まで連れて行ってくれた。レインがいなかったら、私はきっとあのまま死んでいた……。」


 俺は黙ってエリスの言葉を聞いていた。


「でも……そのレインはもういない。」


 エリスの声が震えた。


「レインたちは……私を救ってくれたあと、勇者と呼ばれるようになって……魔王を討伐しに行って、それで……。」


「それで、エリスさんは……復讐を?」


 エリスはゆっくりと頷いた。


「……私は恩人たちに命を救われた。でも、その恩人たちは魔王によって奪われた。だから、私は戦う。彼らが倒せなかった魔王を、今度こそ討つために。」


 その目には、迷いのない決意が宿っていた。


 俺はしばらく考えた後、静かに言った。


「……エリスさん、ライサ・フェングロウがどれほどの魔王か、どれくらい強いのか、知ってますか?」


「……ううん。情報はほとんどない。ただ、レインの仇っていうことしか……。」


 俺はため息をついた。


「もし、本当に討つつもりなら、相当な準備と力が必要になりますよ。魔王っていうのは、ただ強いだけじゃなくて、人間の常識が通用しない存在です。」


 エリスはじっと俺を見つめていた。


「だからこそ、私も強くならなきゃいけないの。」


 俺は彼女の覚悟を感じ、しばらくの間、何も言えなかった。


 ――魔王討伐。


 俺はすでにヴァルグ・アシュヴァルを倒した。


 その経験があるからこそ分かる。

 エリスが目指す道が、どれほど危険で、どれほど険しいものかを。


 魔王を討つというのは、単に強ければいいという話じゃない。

 圧倒的な力、膨大な魔力、そして常識を超えた存在。それが魔王というものだ。


 ――それでも。


 俺の目の前に立つ少女は、恐れを見せるどころか、真っ直ぐ俺を見据えていた。

 エリスの瞳には、迷いがない。


「……分かりました。」


 俺は小さく息を吐き、そして覚悟を決めた。


「なら、俺ができる範囲で協力しますよ。」


 俺がそう言うと、エリスの表情がぱっと明るくなった。


「うん!よろしくお願いします!」


 俺は小さく笑って、エリスに手を差し出した。


「ま、勇者としての義務みたいなものですよ。」


 エリスも微笑みながら、その手を握り返す。


 その手は小さくて、俺よりもずっと華奢だった。

 だけど、その握り返す力は強かった。


「……ありがとう、カイル君。」


 小さな声でそう呟いたエリスの目には、どこか安心したような光が宿っていた。

 俺はそのまま手を離し、冗談めかして言う。


「でも、一つだけ言っておきますけど……俺は師匠とか先生とか、そういうの向いてませんからね?」


 エリスはくすっと笑い、少しだけ得意げに言った。


「ふふ、大丈夫。私も、弟子になったつもりはないから。」


 俺は少しだけ肩をすくめた。


 この少女は、ただ強くなるために誰かに頼ろうとしているわけじゃない。

 きっと、覚悟を持って自分の力で道を切り開くつもりなんだろう。


「じゃあ、まずは……」


 俺がそう言いかけたとき――


「エリスーーーー!!!!!!!」


 突然、遠くから甲高い叫び声が響いた。


 俺とエリスが驚いてそちらを見ると、一人の少年がものすごい勢いで駆け寄ってきた。


「やっと見つけたぁぁ!!もう!!どれだけ探したと思ってるんだ!!」


 息を切らしながら俺たちの前で立ち止まったのは、エリスと同年代くらいの男の子だった。


 茶色い短髪に、大きな丸眼鏡。どこか気弱そうな雰囲気があるが、必死にエリスを探していたのが伝わる。


「ルーク!?どうしたの、そんなに慌てて……?」


 エリスが不思議そうに尋ねると、ルークと呼ばれた少年は大きく息を吸って言った。


「どうしたもこうしたも!授業さぼっちゃダメだって何回も言ったでしょ!?フリークス先生が怒ってたんだよ!」


「うっ……」


 エリスがばつの悪そうな顔をする。


「しかも、なんで勇者様と一緒にいるの!?もしかして……またとんでもないこと考えてるんじゃ……」


 ルークが疑いの眼差しを向けると、エリスは慌てて手を振った。


「ち、違うよ!カイル君に案内してもらってただけ!」


「……本当に?」


「本当だよ!ねっ、カイル君!」


 突然話を振られ、俺は若干困惑するが、適当に誤魔化すことにした。


「あー……まぁ、そういうことにしときましょうか。」


「ほら見て!カイル君もそう言ってる!」


「うーん……なんか怪しい……」


 ルークは疑わしそうに目を細めたが、すぐに「まぁ……いいや」と言って諦めた様子だった。


「ともかく、エリス!今度はちゃんと授業に出てよね!」


「わ、わかったよぉ……」


 エリスが苦笑しながら応じると、ルークは満足したのか、少し安心したように肩の力を抜いた。


「……じゃあ、カイル君。またね!」


 エリスが手を振りながら笑う。


「はいはい、じゃあ頑張ってくださいよ。」


 俺も適当に手を振ると、エリスとルークは学園の奥へと走っていった。


 ――こうして、俺は思いがけず、魔王討伐を志す少女と奇妙な関係を結ぶことになったのだった。


 そして、これが後に世界を揺るがす大きな運命の分岐点になるとは、このときの俺にはまだ知る由もなかった。

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