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異世界戦記 ~ここで俺は最強に至る~  作者: かげ2500
第6章 日常編

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180話 少女の未来

「そ、それじゃあ俺はここら辺で……」


 計画の打ち合わせに夢中になり始めたSクラスの面々を横目に、俺は静かに教室から脱出した。


 やっと解放された――そう思うと同時に、どっと疲れが押し寄せてくる。


「はぁ……まさか……Sクラスがあんなやばい連中の巣窟だったなんて……。」


 フェンリたちはこのことを知っていたのだろうか? いや、知っていたとしても教えてくれなかった理由はなんとなく分かる気がする。


(今後、Sクラスと関わるのは避けよう……)


 そんな決意を胸に、俺は再び学園内を歩き出した。


 しかし――


(……暇すぎる。)


 授業中ということもあり、廊下にはほとんど人がいない。


 フェンリたちの授業が終わるまでの時間をどう潰すか考えながら、学園内を歩いていると、ちょうど曲がり角に差し掛かったところで、何かにぶつかった。


「おわっ……と」


 軽くよろけたが、ぎりぎりのところで踏ん張り、尻もちをつくのを防いだ。


 前方に目をやると、癖の付いた長い金髪の少女が、俺とは逆に尻もちをついていた。


 どうやら俺はこの子とぶつかってしまったらしい。


「だ、大丈夫ですか? すみません、前を見てなくて……。」


 そう言いながら俺は手を差し伸べる。


「いたた……あ、ありがとう。」


 少女は小さく呟きながら、俺の手を取った。


 立ち上がった少女を改めて見て、俺はその顔に見覚えがあることに気づいた。


(あれ? この子……どこかで……?)


 記憶を頼りに、当てずっぽうで質問する。


「……確か、2年生のとき同じクラスだった……よね?」


 少女は俺の顔をじっと見つめ、思い出したように口を開いた。


「あ……カイル君? うん、そう。エリス。」


 彼女の口から名前が出た瞬間、俺は完全に思い出した。


 エリス――俺が2年生のとき、特別に中途入学してきた少女だ。


 彼女は相当な秀才で、その小さな頭には図書館1つ分の知識が貯蔵されている――という噂まで立つほどの天才だった。


(そういえば、当時もすごく真面目で、常に本を読んでいたっけ……)


 しかし、なぜ今ここにエリスが?


 エリスの頭の良さなら、おそらく3年生になった今もAクラスのはずだ。


 でも、Aクラスは今修練場で授業中のはず――


「エリスさん……今、授業中じゃないの?」


 俺がそう聞くと、エリスは少し恥ずかしそうに目を逸らした。


「えっと……その……ちょっと迷ったというか……なんというか。」


「迷った?」


 俺が驚いて聞き返すと、エリスは頬を赤く染めて言った。


「その……まだ場所が覚えられなくて……」


 彼女の言葉に、俺は思わず笑ってしまった。


「ははっ……エリスさん、まだ覚えてなかったんですか?もう1年ですよ!」


 俺の言葉に、エリスはさらに恥ずかしそうに目を泳がせる。


「だってぇ……ここ、建物が多すぎるんだもん!」


 必死に言い訳しようとするエリスの姿は、まるで小動物のようだった。


「分かりました、俺が案内しましょう。」


 俺の言葉に、エリスは目を輝かせる。


「え?いいの?」


「もちろん。」


 そうして俺は、エリスを修練場まで送り届けることになった。ちょうど暇だったし、少しの間でも話し相手ができて良かった。


 道すがら、俺たちは他愛もない会話を交わした。


「カイル君、最近はどう?やっぱり勇者って忙しいの?」


「まあ、色々と……でも、また旅に出ようと思ってるんです。」


「そっか……やっぱり勇者らしいね。」


 エリスは小さく笑ったが、その表情にはどこか影が差していた。


「エリスさんは、これからも学園に?」


「うん、私はまだまだ学ぶことがたくさんあるから。」


 そう言いながら、エリスはふと歩みを止めた。


「実はね……迷ったのは、嘘なの。」


 その唐突な言葉に、俺は思わず足を止めた。


「え?」


 エリスを見ると、その目は真剣そのもので、冗談を言っているようには思えなかった。


「エリスさん?」


 俺が困惑していると、エリスは静かに息を吸い、意を決したように口を開いた。


「私、実は前に勇者に助けられたことがあるの……。」


 俺の心臓が、一瞬だけ跳ねる。


「勇者……?」


「うん……私を救ってくれた勇者は二人……どちらも私の恩人だった。」


 エリスは少し遠い目をしながら続けた。


「でも……今は二人とももういないの。一人は悲惨な死を遂げ、もう一人は……魔王に殺された。」


 魔王――その言葉を聞いて、俺の心臓がドクンと脈打つ。


「カイル君は……一人魔王を倒したよね?その魔王の名前は何だった?」


 エリスの問いに、俺は少し戸惑いながらも答えた。


修羅道(アシュラヴァエル)の……ヴァルグ・アシュヴァルって言ってました……」


「そう……よかった、違う。」


 エリスはほっと胸を撫で下ろした。しかし、その表情は決して安堵しきったものではなかった。


「でも……なんでそんなことを?」


 俺が恐る恐る問うと、エリスは静かに、けれど強い意志を持った声で言った。


「私は、私を救ってくれた勇者の……仇討ちがしたい。」


 俺の予想は的中していた。


 エリスの瞳には、俺がこれまで見たことのない強い決意が宿っていた。


「仇討ち……」


 俺はその言葉を噛みしめるように繰り返した。


「私を助けてくれた二人の勇者は、私のせいで死んでしまったの……。」


「エリスさんのせい……?」


「うん……私がもっと強ければ……二人を死なせずに済んだかもしれない……。」


 エリスはギュッと拳を握りしめた。


「だから、私は強くなりたい。今度こそ、大切な人を守るために。」


 俺は何も言えなかった。

 俺と同じだ。


 俺も強くなりたかった。ノアやフェンリを守れなかったことを、ずっと後悔していた。


「エリスさん……」


 エリスは俺を真っ直ぐに見つめた。


「カイル君……私は恩人の仇を討ちたい。」


 静かな廊下に響くエリスの声は、驚くほど強い決意に満ちていた。

 俺の胸が、ドクンと音を立てる。


 彼女の瞳は真っ直ぐに俺を見据え、一片の迷いもなかった。


「私が、必ず仇を討つ。だから、あなたは邪魔をしないでほしいの。ただ……それを伝えたかった。」


 俺は言葉を失った。


 エリスの覚悟は、本物だった。

 本気で恩人の仇を取りたいと、そう決意している。


 この小さな身体の少女が、魔王という圧倒的な存在に挑もうとしている。

 俺はこれまで、多くの覚悟を持つ者を見てきた。


 戦場で命を賭ける兵士たち。


 国を背負い戦い続ける者たち。


 仲間を守るために、身を投げ出す者たち。


 だが――


 この少女の覚悟は、それらと比べてもなお、異質だった。


「エリスさん……」


 俺が呼びかけると、エリスはじっと俺の目を見つめたまま、静かに続ける。


「私は、何も持たなかった。ただ、知識だけが取り柄だった。力もなかったし、戦う術も知らなかった。でも、そんな私を助けてくれた人たちがいたの。」


 エリスは少しだけ目を伏せる。


「二人の勇者……彼らは、私に生きる道を示してくれた。でも、私は……何もできなかった。ただ見ているだけで、何も……っ!」


 彼女の拳が小さく震える。


「だから、私は強くなる。私の命を救ってくれた二人の勇者に報いるために。私は、”あの魔王”を討つ。」


 その言葉に、俺の心臓はさらに強く鳴った。


 魔王を倒す――簡単なことじゃない。


 俺だって、ヴァルグ・アシュヴァルを倒すために、どれほどの苦しみと犠牲を払ったか分からない。


 聖級魔法使いが二人以上いても、あれだけ苦戦した相手だ。

 死ぬかもしれない。


 それでも、エリスの覚悟は固く、何者にも揺るがないものだった。


(……すごいな。)


 俺はふと、自己嫌悪に陥る。俺は"勇者"と呼ばれていながら、魔王を倒すことに執着しているわけではない。

 俺の目的はあくまで"最強になること"であって、魔王討伐は通過点にすぎない。


 そんな俺と違って、エリスは"本気"で魔王を討とうとしている。


 俺よりも、よほど"勇者"らしい。


「カイル君、あなたは……私の邪魔をしないよね?」


 そう言われ、俺は小さく息を吐いた。


「……しないよ。エリスさんの決意は本物だ。俺がとやかく言うことじゃない。」


「……ありがとう。」


 エリスはほっとしたように微笑んだ。


 だが、俺はそのまま彼女を見つめ、言葉を続ける。


「でも、エリスさん……あなたの覚悟は素晴らしいと思うけど、一人の勇者として、一つだけ言わせてもらいたいことがある。」


「……なに?」


「――覚悟だけじゃ、魔王は倒せない。」


 エリスの目が揺れる。


「俺も修羅道を倒すのに、命を落としかけた。仲間の支えがあったから生き延びることができたけど、それでもギリギリだったんだ。もし、エリスさんが一人で魔王に挑もうとするなら……俺は止めるよ。」


 エリスはしばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。


「分かってる……でも、私はもう後戻りできないの。だから、強くなる。」


「だったら……」


 俺は少しだけ考え、決心する。


「俺が君を鍛えてやる。」


「えっ?」


 エリスの瞳が大きく見開かれる。


「俺はもうすぐ旅に出る。でも、エリスさんが本気で魔王を討つつもりなら、俺が教えられることを教えるよ。それくらいは、俺にもできるから。」


 エリスはしばらく驚いたように俺を見つめていたが、やがて、ふっと微笑んだ。


「……ありがとう、カイル君。あなたに教わるなら、きっと私はもっと強くなれる。」


 エリスの目に宿る光は、決意と希望に満ちていた。


 俺は彼女の未来を見守ることにした。

 魔王を討つために、彼女がどこまで強くなれるのか。


 それを見届けることも、俺の旅の一つの目的になるのかもしれない――。

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