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異世界戦記 ~ここで俺は最強に至る~  作者: かげ2500
第6章 日常編

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179話 謎のSクラス②

「――っとまぁ、今に至るわけですけど。こんな話を聞いて面し……」


 俺が話を終え、クラス長の青年に視線を向けると――


「うぉおおおおおん!!!カイル殿の人生はなんと悲痛なものなのだァ!!!!!」


 彼は突如として大声を上げ、目を真っ赤に腫らしながら号泣し始めた。


「え、ええ!?どうしたんですか!?」


 俺は思わず後ずさる。

 それもそのはず、クラス長は今にも崩れ落ちそうなほど激しく泣きじゃくっていたのだ。


「弱冠13歳にも関わらずッ!!!」


 彼は椅子をガタッと鳴らしながら立ち上がると、感情を爆発させるように両手を広げ――


「そこまで過酷な人生を生き抜いてきたカイル殿の話を聞いてェ!!! 泣かずにはいられるかァ!!! うおおん!!!」


 顔をくしゃくしゃに歪ませながら、大粒の涙を流している。


 いや、ちょっと待て。


「え、俺の人生ってそんな悲惨なんですか?」


 俺は戸惑いながら問いかける。


 確かに色々あったけど、これまでの道は全部自分で選んできたことだし、辛いことがなかったわけじゃないけど、それを乗り越えたからこそ今の自分があるんだ。


「そりゃあ、辛いことはありましたけど……それも全部、自分のためになってるので……」


 俺がそう言うと、クラス長はさらに泣きじゃくりながら叫んだ。


「カイル殿ォォ!!貴方という人はァァ!!!なんと……なんと健気で、なんと高潔な……!!!」


「いや、そんな大層なものじゃ……」


「幼き身で過酷な運命に立ち向かい!! それでも挫けず、ただ強さを求める!! その姿勢!! まさに勇者!!! いや、神話の中の勇者ですぞォ!!」


「い、いやいやいや……」


 俺が必死に否定しようとするも、クラス長は聞く耳を持たない。


「なんと純粋な魂!! なんと強靭な意志!!」


「そこまで言われると逆に怖いんですけど!?」


「カイル殿ォォォ!!!!!」


 クラス長はガバッと俺の両手を握り、力いっぱい振り回しながら涙を流し続ける。


「我はッ!!あなたの生き様にッ!!心を打たれましたァァァ!!!!」


「い、いや、別にそんな……」


「勇者様ァァ!! どうか我々にもォォ!! その強き意志と力をォォ!! 分け与えてくだされェェェ!!!」


 俺が何を言おうとしても、クラス長の涙と嗚咽のせいでまったく聞き入れられない。


(……めんどくさいタイプだこれ!!)


 俺は必死に手を振り解こうとするが、クラス長の握力が異常に強く、どうにも離れられない。


 そして、そんな彼の大騒ぎを聞いていた他のSクラスの生徒たちは――


「……うわぁ、また始まったよ」

「クラス長の悪い癖が……」

「勇者相手でも容赦ないな……」


 というような、呆れたような冷めた目で見つめていた。


「ちょ、ちょっと助けてくださいよ!? 皆さん!!」


 俺が周囲に助けを求めるが、誰一人として助けてくれない。


「無理無理。クラス長がスイッチ入ったら、誰にも止められないから。」

「まぁ、諦めて付き合ってあげてください。」

「たまにあるんですよね、こういうこと……。」


(たまにあるんだ……。)


 俺は密かに心の中で溜息をつく。

 とはいえ、こんなにも大袈裟に俺の人生を「悲劇の物語」みたいに語られると、逆に気になってくる。


 俺の人生って……そんなに過酷だったのか?


 もちろん、死にかけたことは何度もある。

 魔王との戦いなんか、本当に紙一重の勝負だったし、仲間を失ったと思ったときは心が引き裂かれそうだった。

 けど――


(でも、それも含めて全部俺の選んだ道だし……。)


 俺はただ、強くなりたいだけだった。


 それが、気づけば「勇者」と呼ばれ、周囲から期待され、今こうしてクラス長に涙を流されるほどの人生を送っている。


(……そんなにドラマチックな人生歩んでたんだな……。)


 少し落ち込んだ。

 そのとき――


「カイル殿……!!」


 まだ泣いてるのかと思いきや、クラス長は急に顔を上げ、真剣な表情になった。


「その強さの秘密!! ぜひ!! 直々に!! 我々に教えていただきたい!!!」


「えっ?」


「つまり!! 我らSクラスの者たちと手合わせを!!!」


「いや、それは……」


(さっきの一撃で分かったけど、Sクラスの人たちはそこまで強い訳じゃ――)


「ぜひお願い申し上げますぞォォォ!!!!!」


 またしても大声で叫ぶクラス長。


 その言葉に、周囲の生徒たちも次々に同調する。


「確かに、勇者の実力を間近で見てみたい……!」

「ちょっと興味あるかも。」

「まぁ、将来のために戦闘技術くらいは学んでみたいよな。」


 どんどん流れが決まっていく。


(いやいやいや、ちょっと待て!俺はそんなつもりで来たわけじゃ……!!いや、そのつもりだったか。最初は。)


 だが、クラス長の満面の笑顔と、クラスメイトたちの期待の眼差しを前に、俺は悟った。


(……これ、もう逃げられないやつだ。)


 そう悟ったものの、しかし、俺は最後まで拒否し続けた。


「いやでも!戦うのは駄目ですって!俺、学長から問題は起こすなって言われてるんですよ!」


 俺が必死に手を振って抗議すると、クラス長をはじめとしたSクラスの面々がピタリと動きを止める。


「学長かァ……う~ん。学長……。」


 クラス長は腕を組んで唸りながら、まるで天啓を求めるかのように天井を仰いだ。


(な、なんかすごく嫌な予感がする……。)


 俺が慎重に後ずさろうとしたその時、クラス長は突然パッと顔を輝かせ、手をポンッと叩いた。


「分かりましたァ!!!」


「な、何がです?」


「では、カイル殿のその”魔法”の秘密を教えていただけませぬか?」


「……え?」


 俺は思わず聞き返した。


「えっと、秘密って何のことです?」


「何のこととは!!!」


 クラス長は大袈裟に身を乗り出し、俺の顔をじっと覗き込んできた。


「カイル殿の魔法は!! 何か特別な理論に基づいているのではありませぬか!? あるいは!! 常人には理解しがたい独自の修練法があるとか!!!」


「……いや、別にそんな秘密なんてないですけど。」


 俺が正直にそう答えると、クラス長は目を見開いたまま一瞬フリーズした。


「――ほへ?」


 その場の空気が一瞬で静まり返る。


 Sクラスの生徒たちも、思わず顔を見合わせている。


(え? なんか俺、すごくまずいこと言っちゃった?)


「ちょっと待ってくだされカイル殿ォ!!」


 クラス長は何かが壊れたように頭を抱えた。


「そんなバカな話がありますかァ!!?」


「いや、嘘じゃないですよ?」


「ちょ、ちょっと待てくだされ……」


 クラス長はぐるぐると教室の中を歩き回りながら、まるで答えの出ない難問を抱えた哲学者のような表情を浮かべていた。


「何も……ない……? 何も……?」


 ブツブツと呟くクラス長に、他のSクラスの生徒たちが近寄る。


「クラス長、どうしました?」


「いや……だって……。このお方、”勇者”なんですぞォ!? なのに!! 魔法の奥義とか!! 特殊な訓練法とか!! そういうのが!! 何もないと!!」


 クラス長の叫びに、他の生徒たちも驚愕の表情を浮かべた。


「そんな……!」

「ありえない……!」

「勇者ともなれば、何か特別な秘密があるんじゃ!?」


 Sクラスの生徒たちはざわざわと話し始める。


「まさか、本当に努力だけでここまで……?」

「だとしたら……逆に恐ろしい……」

「もはや……努力天才……?」


 いやいや、ちょっと待て。


「いや、普通に訓練してただけですよ!?」


 俺は慌てて弁解する。


「確かに訓練はしてましたけど、別に特別なことはしてないし、ただ色んな戦いを経験してきただけで――」


「う、うぉおおおおおおん!!!」


 俺の説明が終わる前に、クラス長が再び号泣し始めた。


「生まれ持った努力の才能と!! 死ぬほどの根気だけで!! ここまで登り詰めたというのかァァァ!!!!!」


「いや、そんな大袈裟な話じゃ――」


「貴方は……!! 天が認めし勇者だったのですね……!!!!」


「だから話を聞いて!!?」


 だめだ、完全に暴走している。


 クラス長の涙はまるで滝のように溢れ、彼の後ろでは他の生徒たちも感極まった様子で頷いている。


「なるほど……」

「俺たちは結局、努力が足りなかったのか……」

「特別な秘訣なんてものを求めた時点で……俺たちは”甘え”ていたんだ……」


 なんかすごく話が飛躍してる!!


「ちょ、ちょっと待ってください! そういうことじゃなくて!!」


 俺が必死に説明しようとするが、Sクラスの生徒たちはすでに何かを悟ったような目をしていた。


「カイル殿ォォ!!! これから我々も!! 貴方を見習い、より一層の鍛錬に励みますぞォォ!!!」


「いや、だから話が――」


「さぁ皆の者!!! 今日から授業の内容を変更するぞ!!! 今から!!『勇者式・地獄の特訓』を始める!!!」


「おおおおおお!!!」


「ええええええ!?!?」


 俺の静止も虚しく、Sクラスの生徒たちは燃え上がり、新たな鍛錬計画を打ち立て始めた。


(……やばい、余計なこと言った……!!)


 こうして俺は、戦いは避けたものの、なぜかSクラス全員を過酷な修行へと突入させるきっかけを作ってしまったのだった。

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